シーナの様子が?
「エーフィーいいの? 幽霊だから報酬なんて貰えないし、それに海底にあるものを探すなんてかなりの困難だよ?」
「分かってる、分かってるよホッシー。やってることは無駄なんだよね。本来なら居る筈の無い人間からのお願い事なんてさ。……でも、それでも私は……そんな悲しいお話しなんて嫌だ。今よりも素敵なハッピーエンドを願う事ってそんなに変?」
「……いいや、君は君の思う通りに考えて行動すればいい。いや、するべきだね」
「ムー、なんか意味深な言い方。もっとはっきり言っても良いんだよ?」
「違うんだよ。君しか出来ない事がある、だからこそさ。普通は幽霊なんて見えない、だって想い人のシャーリーさんでさえ見えない存在なんだ。逆説で考えれば、これはエーフィーに与えられた能力なんだよ」
「能力? そんな言い方も出来るんだね。子供の頃から視えただけなのにさ」
はっきりと視え始めたのはつい最近だ。
たまーに視えてたのは視えてたけどね。喋れる幽霊はこれで二人目だ。
「でもどうしてそんな体質なんだい? 何か特殊な遺伝とか? やっぱりマーフィーと言う特殊な魔法使いの血が流れているからかな?」
「さぁ……。でも大叔母様にも言った事はあるけど、首を傾げられて終わったんだよね。特殊なのかなぁ、わかんないや」
とりあえず、策を考える為に一旦家に帰る事にした。
そういえばシャーリーさん、すぐに店に戻って花を持ってここに来てたんだよね。好きな葉巻と蒸留酒を残してさ。
なんだか不思議な感覚だ。あんなにも大人のお姉さんって感じだし、いっつも酔って盛り上がってる印象の強い人に、こうも弱い部分があっただなんて。
私も、今は何も無いとしても、いずれそんな闇を抱える時が来るのだろうか。想像出来ない。確かに周りの友達や今の環境が無くなるとすれば悲しくて落ち込むだろうけど、ずっと尾を引く事は……あるか。
箒に跨って空を飛んでると、急に雨が降り始めた。
雨具なんて当然持ってないし、この骨折した足の包帯も変えないといけないから面倒である。とにかく急いで家に戻らなければ。ホッシーも錆びてしまったら大変だ。
家の玄関にたどり着くと、一人の人影が視えた。
もしかしてエラッソかな。今は色々考えないといけないから相手をする時間は––––って、あれはシーナと……ジャスティー?
「エーフィー!!! だめじゃないこんな雨に箒で飛んでちゃ!!」
箒から降りると、シーナがすぐさま飛びついてきた。
心配はありがたいが、反動で地面の土に塗れてしまっている。大変だ、洗濯は大変だぞ!
「うぅ……シーナ、とにかく家に入ろうよ。その後いくらでも好きにして良いからさ」
「え!? マジで!? 好きにして良いの!?」
しまった、言葉の選択を間違えた。
おもちゃを与えられた子供みたいな無邪気な返事。
「おいシーナ、良いから中に入らせて貰おうよ。君も濡れちゃうだろ?」
おお、シーナを呼び捨てにしてる。これは私がいない間に何かあったな? どれどれ、詮索して––––って、そんな暇無いぞっと。
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夜ご飯はシーナが作ってくれるそうで、私は先にお風呂を入り、着替える。
片足の固定は勇者ジャスティーが手伝ってくれた。影でシーナが羨ましそうにハンカチを噛みちぎりそうになりながら見ていたが、意識はしないように心掛ける。
「ねぇジャスティーさん。突然なんだけれど、私が幽霊を見えるって言ったら、信じる?」
「なんだい? 本当に突然だね。そんなの信じるの決まってるじゃないか。例え騙されたとしても、その間は真実なんだ。貴重な体験だね」
なーるほど。表面上は信じてますと言う程にして、実際は何言ってんだこいつって状態な訳か。ずる賢い勇者である。
「あああああ!!! ジャスティーずるい!!! そんな返答無しよ無し!! 聖典を忘れたのあなたは!?」
なんだい聖典って、もしかして愛の聖典かい? いちゃつくのも程々にして欲しいな。
「いーい!? エーフィーが幽霊が見えるって言うなら見えるの!!!! これが事実なの!! 分かった!?」
なんだかんだで一番信じてないのはシーナじゃないかな? 盲目と信仰は別物だぞっと。
「はぁ、そうだね、そうだったね。忘れてたよ。ごめんなエーフィー、迷惑を掛けて」
「何溜息吐いてるのよ!? しかも誤ってグギギギギーーー!!」
歯をむき出しにして野生を丸出しするシーナとそれを宥めるテイマー。お似合いの夫婦である。
「シーナ、ほら、煮込みすぎには注意だよ。焦がしたら元も子もないよ? 良いからお鍋に戻って。エーフィーにとびきり美味しいものを食べて貰うんだろ?」
「ううう、ううううう……。うん、そうする」
凄い、あのシーナを鎮めるなんて。流石は勇者だ。これで魔王討伐も安泰だな。




