表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/156

献花

 受付のお姉さんは語ってくれた。

 シャーリーさんは元は凄腕の冒険者だ。あまり名前が知られてないのは、本人が目立つのを嫌がったからだそうな。

 冷静に思い出してみれば、確かコリーさんが最初の紹介の時に言ってくれてたっけ。緊張して覚えてないや。


 彼女は10代から全てを冒険に捧げ、世界中のありとあらゆる場所を巡っては歩き廻っていた。

 魔物退治や護衛、指名手配犯の捜索や宝探し、遺跡の調査に、未踏の地の調査。ありとあらゆる名誉を掲げては持ち帰り、生きながら伝説の冒険者として名を馳せていたそうだ。

 有名になりたくないのに、周りが囃立てる。本人は迷惑に感じてたらしい。


「あの頃の彼女はそりゃあもうおてんばでね、私も何度か一緒に冒険をした事があるのだけれど、何もかもが派手でびっくりしちゃってさ」


 指名手配犯をお城の大橋の手すりに縛りつけ、その横で衛兵が出勤して来るまで花火を楽しんでたのは有名な話しらしい。良い感じに狂っててシャーリーさんっぽさが滲み出てる。


「20代に差し掛かった頃ね、一つの転機が訪れたの。そこのプレートに書かれている男性との出会い」


 シャーリーさんはお花が好きだった。

 だから、部屋に飾る様にと、色々なお花屋さんを見て回っていたそうだ。特にエーレさんのお花が大好きで、よく買っては飾っていたらしい。

 でも、今の便利屋にはそんな片鱗一ミリも残っていない。お花どころか花瓶すらないのだ。


「彼女らしく無かったの。だってそれまで派手さの塊だったあの子がさ、髪型一つで私に相談しに来るのよ? 可愛くてキュンキュンしちゃった」


 劇的な一目惚れでもなく、見た目が好みだった訳でもない。

 どこかその人に惹かれて、一緒になりたいと思ったそうだ。


「内心どう思ってたのかは分かりようがないけどさ、結婚までしたから相当強かったんじないかな。大好きだった冒険者の仕事を辞めて、彼と一緒にお花屋さんをしてたくらいなんだもの。ちなみに、シャーリーって葉巻と蒸留酒が好きでしょ? それは彼の影響なのよね」


 まさかあの嗜好品にそんな意味があったとは。

 

「その、テリー・エルマーさんはどうなったのですか?」


「……もちろん、そこに飾ってあるって事は冒険者として殉職したのよ。きっとシャーリーに触発されたのね」


 不慮の事故だった。

 簡単な依頼だったのだ。だが、いくらシャーリーさんが強くて勇敢だったとしても、大海原のど真ん中ではどうしようも無かった。


「船に欠陥があってね、沈没しちゃったんだ。シャーリーもあと少しで溺れ死んでたかもしれないの。運良く砂浜に打ち上げられて、助かったのは彼女だけ」


 下唇を噛みながら、受付のお姉さんは目元を潤ませていた。


「そ……ですか」


 つい、私ももらい泣きしそうになる。

 ただただ悲しいお話し。じゃあ私にお使いを頼んだお花って、献花だったんだ。


「ああ! ごめんね? こんなしんみりしちゃってさ。もうシャーリーも受け入れてるだろうし、昔の話しだからさ」


「いいえ、ありがとうございます。正直、私ってシャーリーさんはどうしてこんなにもだらしがないんだろうって、生意気にも思ってましたけど……色々な経験をしている人なんですね。日中ずっと葉巻と蒸留酒を飲んでるのって、未だ未練があるのでしょうか」


 受け入れ切れてないのでは。


「未練は……少なからずあるものよ」


 そうだ、命日と言うのが存在する限り、必ず思い出す。

 そりゃあお酒に逃げたくなるよね。酔って良い気分になってさ。私はまだ飲めないから分からないけど、大人ってそう言うもんでしょ?


「あ、そうだ。あなたのお名前を聞いておこうかな」


「えっと、エーフィー・マグです。きっと聞いた事あるかもですけど……」


「マグ!? そっか……あの偉大なね。だからシャーリーはあなたを雇ったのね。マーフィー・マグに恩があるから」


「恩?」


 確か最初に会った時も何かしらの反応をしていた。

 

「ええ、あの大きな海原の中、テリーの遺体を発見してくれたのだもの。流石は偉大な魔法使いね」


 そんな出来事があったなんて。

 私は知らないことばかりだ。


 その後、受付のお姉さんは仕事が残ってるからとかで、奥の方へ引っ込んでしまった。

 私も特に用はなかったので、箒で空まで戻る。


「ねぇホッシー、人に歴史ありだね。どんな人でもそれぞれ背負って生きている。改めて考え直しちゃったよ」


 そうだね、と星は答えた。

 

 私達は、エーレの近くにある有名な大きな墓地まで足を運んだ。

 目的はシャーリーさんだ。多分、ここにいる。


「へぇ、エーレみたいな華やかな場所でも、墓地はあるんだね。エーフィー気をつけてね、こんな所でゲフュールを使うと気が滅入るかもよ」


「分かった––––って、シャーリーさんいるじゃん」


 近くの墓石に身を隠し、様子を見ることにした。

 麓には真っ赤なエーレのお花と、火の付いた葉巻と蒸留酒。

 シャーリーさんはぼーっとしばらく虚空を見つめた後、踵を返し、その場から去って行った。


「ふぅ、どうして隠れるんだいエーフィー? 話せばよかったのにさ」


「う……うん。話そうと思ったんだけどさ、なんか……もう一人いるよね? あれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ