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テリー・エルマー

「冒険者ギルドかー、行ってみようかなどうしよっかな! でも昔からエーレに住んでて行ったことがないなんて損をしているよね! そう思わない?」


「私も気になるよ! あのボインの行方も気になる所だしさ! と言っても途中で投げ出した様に店を出てるから、案外近所を散歩してるだけかも。戻ってくるまで暇だし、お花はそこに置いて冒険者ギルドへ行ってみよう!」


 シャーリーさんをどんな目で見ているか分かった所で、私はホッシーと一緒に店を出て箒に跨る。


「で、冒険者って普段どんな事をしているんだい? 用は流浪の日銭稼ぎ者なんでしょ? 定職に就かないで馬鹿騒ぎしている印象があるけど!」


 この星の口の悪さったらである。人の仕事をそこまでとことん蔑むのは良くないのだぞ。言いたい事は分かるけどね。


「んもー! 自由奔放に生きてる人達なの! 現役を引退した人達はお金持ちの護衛職についたりしてるし、高い魔法力を養った人達は教職とかに就いてるから、案外馬鹿に出来ないのよ?」


「ふーん。でもでも私が読んでる本には冒険者は悪者に描かれてる事が多かったよ! 金で動くからすぐに悪の組織に身を売っちゃうんだ!」


 君が読んでる本はマッチョの少女が暴力で事件を解決するお話しでしょーが。そりゃ物語を面白くするためには色んな悪者を用意するってもんだ。風評被害も甚だしいのである。


「また変な本を読んでからに……」


––––

–––––––


 しばらく飛行すると、目の前に大きな建築物が見え始めた。

 王宮の様な壮大な建物。ここが冒険者ギルドである。


「うおお!! すごいねエーフィー! もっと簡素な木造な建物かと思ったよ!」


「彼らは儲かってるからねー。その分人口も多いお仕事なのさ。一攫千金を狙える夢のある仕事なのだよ」


 実際に冒険者として活躍し、名声を浴びた者は数知れず。莫大な報酬の依頼をこなす分、手数料として協会の懐にも入るのである。仲介業者としては申し分ないからくりだ。儲かりすぎてウハウハなのではないだろうか。経営者は誰だろう。


 早速中に入ると、至る所にムキムキの屈強な男達、そして明らかに魔法使いの格好した痴女っぽいお姉さん、線が細い弓使いのお兄さんやらで施設内は埋め尽くされている。

 入ってすぐにある受付のお姉さんに会釈をしながら、内部の方へと歩いて行った。


 この冒険者ギルドには三つの区画があるそうだ。

 一つは依頼所、単純に依頼を受けれる場所である。

 国からの依頼、個人からの依頼と様々な内容があり、時間制限の無い依頼と緊急の依頼は二つに別けられている。大きな壁一杯のコルクボードに沢山の紙が貼られているのだ。


 二つ目は皆様お好きの憩いの場、食事処。

 疲れ果てた冒険者や、互いの情報を交換し合うための団欒室みたいなのも用意されており、一番人口比率の多い場所である。

 様々な飲食関係者が参入していることもあり、世界中の名物料理やお酒が並んでいるのも特徴だ。特に、別大陸にある北国「ユッキー」のお鍋料理は絶品であると聞く。何でも蟹を丸ごと鍋の中に入れるので、旨味が凝縮されたお鍋を楽しむ事が出来るのだとか。

 

 三つ目は鍛冶関係、装備関係を販売している区画である。

 魔法使いにとってローブは必需品である。精霊の加護の付いたローブは物理的な外因から身を守るだけではなく、周りの気温に調整されない機能を持つ。

 それ以外にも屈強そうな鎧が沢山なのである。どうせ自分には関係が無さそうだし、強そうだなぁで終わりなのである。


「お? これは何だろ?」


 一周ぐるっと回って最初の受付に戻ると、入った時には気付かなかった小さな区画が受付横にあった。上を見上げると、偉大な冒険者達、と言う看板が目に映る。


「すみません、ここって何の区画何ですか?」


 これまで、この冒険者ギルドの所属した人で、偉大な功績を上げた人物の名前が彫られた木造のプレートを飾っているとのことだった。

 中には殉職した者もいるらしく、その弔いの意味を込めてここに飾ってあると言う。


「へー……沢山の人がいたんだね––––ん?」


 順番にプレートを見ていると、気になる名前が一つだけ視界に入った。

 “テリー・エルマー”


「あ、その人をご存知なのですか? ではもしかしてシャーリーさんのことも?」


 受付のお姉さんからシャーリーさんの名前が出る。もしかして彼女は本当にここの冒険者だったのか。


「ええ、今便利屋で雇われていますから」


「なるほど……そして今日は……ああ」


 受付のお姉さんが意味深な反応を見せる。


「シャーリーさんをご存知なのですか?」


 ええ、知っています。と口にした受付のお姉さんの表情はどこか暗く、悲しそうな表情に変わる。

 さっきの殉職の意味、きっとそれなのだ。


「……あまり個人情報を口に出してはいけないのですが、シャーリーさんが雇ったくらいですもの、それ程愚かな子だとは思いませんし」


 お姉さんは近くの椅子に座ると、懐かしむ顔でその名前のプレートを見つめ出した。

 郷愁的な、夕日を見つめる様に目を細めて。


「テリー・エルマー。シャーリーさんの旦那さんだった人よ。もう他界してますけどね」

 

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