今日はいつもと様子が違う!
将来の夢……将来の夢か。
あまり考えた事なかったな。何となくぼんやりとしているだけで、具体的な言葉が何一つ出てこない。お嫁さんとか小さい頃から一回も発言した覚えもないし、かといって他にやりたいのも無い。空虚である。
あ、あれ? そもそも私って魔法使いになりたいんだっけ?
違う、私がなりたいのは“大叔母様みたいな立派な魔法使い“だ。決してただの普通の魔法使いでは……まぁそれすらも成れるか怪しいけど。
「エーフィー?」
ホッシーに呼ばれてふと我に返る。
良くも悪くも、この星は自分とは違う視点で細かい事をよく気付かせてくれるのだ。
私は、もっと私と対話してみよう。
「ホッシー、その質問は今の私には難しすぎるかな。答えられそうにないや」
「そうかい。ま、自分らしくだよ!」
そう話していると、目的地の便利屋に着く。
この暗い階段は今の自分にとって難敵だ、と思われたが、何と電球の交換をしたらしく、最近まで暗かった光景が綺麗さっぱりなくなっていた。こんな壁の色してたんだ。
木造のドアが悲鳴を上げながら自分を部屋まで招き入れると、いつもの葉巻の華やかな香りが鼻腔に入り、その店の主人の在宅を確認する。
また飲んでいるのか、何か嫌な事でもあったのか。
そう思ったのは、彼女がいつも飲み始める時間よりも数刻早かったからだ。
こちらの存在にわざと気付かせるように、足音を大きく鳴らしながら店の中に入る。
松葉杖のリズムに違和感を感じたのか、いつもは振り返らないシャーリーさんがちらりと視線を移してきた。
「エーフィー、足は大丈夫なのか?」
「うーん、まだまだ痛みますねぇ」
「ふふん、手負いの美女は狩られちまうぜ? 家で大人しくしていればいい物をさ」
そう言ってシャーリーさんは再びテーブルのグラスに視線を戻した。
葉巻の銘柄は今日も同じ、エーレ産の葉っぱを使った甘味に特化した代物だ。確か名前は……。
「ねぇねぇシャーリーさん、その葉巻の銘柄って何ですか?」
「んん? どうした急に。まぁいいけど」
そう言ってもう一本を指で絡め取り、読み上げる。
「いいかいエーフィー、葉巻というのはね、最初にブランド名、次にシリーズ名、最後にサイズっていう順番なんだよ。んで、これは……」
エーレ・アモル・99
それがその葉巻の名前だそうだ。なんかかっこいい。
「ま、最後の数字に関しては唯の出鱈目さ。大きくても19、どうしてそんな数字を付けたのかは知らないけど、製作者の意図でもあるのだろう」
煙を口に含み、無造作に外に放り出す。
シャーリーさんは今日も色っぽく、艶やかだ。
けど、今日の彼女はいつもと違って陰りが見える。
不思議と、そう感じてしまうのだ。
「シャーリーさん、何か嫌な事でもあったのですか?」
ピクリと肩が小さく反応を見せたが、すぐに元通り体の力を抜き始める。
今まで見せて来なかったシャーリーさんの内側を、少しだけ垣間見れた瞬間だった。
「へー、どうしてそう思ったんだい?」
「んー、いつもよりお酒を飲む時間が早かったからですかねー」
彼女は苦笑した。
たかがそんな事で違和感を感じるなんて、敏感な子だと囃し立てた。
「ねぇエーフィー、ちょっとお使い頼めるかい? 私はもうご覧の有様、酔って足元がおぼつかなくてね」
「お使い、ですか。ハァいいですけど、おつまみの残りならそこの戸棚に入っていますよ」
そういう事じゃない、と大らかに笑い始めるシャーリーさん。ついでに体を捕まえられ、まるでお人形を抱き寄せるかの様に私を脇下に招き入れる。
「生意気な口は塞いじゃうぞー? どうせ片足使えないんだから抵抗力も低い、今のうちに食っちゃうか!」
がぶがぶと肩あたりを噛み始めるシャーリーさん。完全に酔っ払いである。
「ああんもー、分かりましたから……。で、何を買ってくればいいのですか?」
「うっふふ、何だと思う?」
面倒臭い酔っ払いである。
「葉巻か酒ですね」
「んもー、エーフィーは可愛げがないぞぅ! もっと大人っぽい物よ!」
ううむ、大人っぽい物、大人っぽい物、シャーリーさんが欲しい大人っぽい物と言えば––––。
「あ! もしかしてウサギの衣装ですか? なんか肌がやたらと露出してる網タイツのですよね! それでしたら売ってるお店知っています! 接待用ですよね? 任せてください!」
シャーリーさんと言えばやたらとやらしい。
きっと次の顧客を捕まえるので必死なのだろう。
「ちょっと待ちなさいあなたどこでそんなの覚えたの。だめよエーフィー、あなたは純真でいなきゃ」
「ええええ。でも家の聖書には接待の仕方は相場が決まってるって書いてましたよ!」
「どこの国の聖書よそれは……」
それは内緒のお話しなのである。
たまには刺激的な本も読まなきゃ、良い大人にはなれないってシーナも言ってたし。




