人見知りな星だ。
「ホッシー、休む暇なんてないわよ。ほら。もう一口運びなさい」
「うう……折角沢山作って独り占め出来ると思ったのになぁ。はいあーん」
「あー……んっんんん! やっぱり美味しい! ホッシー料理の才能あったのね。これからは我がマグ家の台所は貴方に任せるわ!」
持ちうる全ての力を使って星を粉砕しようとしたが、何度も何度も命乞いをしてきたので、とりあえず半分は許してやることにした。何より許せないのは、勝手に家の食材を殆ど使って料理をしていた所にあるが、案外美味しい出来なので、今回だけは見逃してやることにした。
「任せておくれよ! やったー! これでサンドイッチ地獄とはおさらばなのだ!」
バンザーイと両手(鋭角)を上に上げるが、その反動でスプーンに残ったシチューの残りが私の頬にべちょりと張り付いた。しかも、サンドイッチを地獄と表現した為、殺意ポイントは上昇中だ!
「ハァ、人見知りっては確かに以前喋ってたけど、エラはもう何度も会っているから大丈夫なんじゃないの?」
「何度も見ている、だね。正直挨拶した所で、私がエーフィーと昼夜をずっと共にしている事が露見してしまうのはかなり危険だと思うんだ! 主に私がね」
確かに、エラなら入れ替わりの魔法とか勝手に開発してきてホッシーと変わりそうではある。
「にしてもエーフィー、貞操は大丈夫かい? 何も奪われやしなかったかい?」
まさかの星に貞操の心配をされるとは。でも大丈夫、逆にエラから素敵な風景を見せられて、凄く心がドキドキしたのだ。
「その心配をするくらいなら最初から喋りなさいよね……。あ、そうだホッシー、以前言っていた大叔母様の日記なんだけどさ、取りに行こうと思うんだ。ついでにエーデル院長にも貴方の事を話そうと思うんだけど」
「エーデル院長? ああ、確かマーフィーの親友だね。大丈夫だよ。正直高位の魔法使いの助けがないと、私の秘密は解剖出来なさそうだしね」
「何よそれ、私が役立たずって言いたい訳?」
「あわわ、違うよエーフィー。近道をしようって話なだけさ。で、いつ行くんだい?」
必死に言い訳する星を眺めながら、今後の予定を考え始める。
もう一度シャーリーさんの所に行って、仕事についても話し合わないといけないし、学校の勉強もしなくちゃいけない。
それに、最近シーナが私と話せないからって物凄く拗ねてるみたいだから、彼女にも構って上げないと。ジャスティーから聞いた話だが、まさかため息を吐きながら、家中の花瓶を割りまくってるなんて。そんなに私と会えないのが寂しいのか。って最近ジャスティーとシーナ仲良いな。
グルグル色んな考えが頭の中を回っていると、そもそもの優先順位を思い出す。
私の目標はホッシーを解放する事と、借金を返済する事。その中で、借金に関しては時間は有限である事から、まずは沢山のお金を稼がなくてはならない。よって、一番今優先される事柄とえば……。
「ホッシー、シャーリーさんと話せそう?」
「もちろんだとも! 私はボインが大好きなのさ! あの山に埋もれてみたいよ〜!」
完全におっさんの思考である。下心を全く隠そうとしない分、たちが悪い。
「あらそうよかったわね……私のじゃぁ役不足な訳か」
「何を言っているんだいエーフィーは。はぁーーーー……やれやれ。いいかい? もう一言で表してあげるよ。大きさはロマンさ。知的な生物と言うものはね? 物事を探求したがるのさ。魔法使い然り、冒険者然り、勇者然りさ。日々新しい事、未踏の大地を夢見て人は生きる。人だろうが星だろうが、生きとし生けるものは進化を求める。魔物を見てご覧よ? 日々生きるために進化し続けてるじゃないか。人が炎を出してきたら、その炎に対抗する為に何が必要かを考え、欲し、自分を変化させる。雷、風、大地。どんな元素だろうが関係ない。姿形を変え、自分らの住処を守ろうとしている。それは私も同じさ。身近にある二山だけでは満足出来なくなっているのさ。だから新しい––––」
力説してくる星を無視し、バッグの中の手帳を取り出す。
本来なら、あの砲弾の仕事の後にいくつか依頼が入っていたのだが、自分の足が骨折したお陰で全て無くなってしまったのだ。しかも、リンドの仕事の報酬は直ぐに支払われる訳では無く、シャーリーさんから建て替えて貰う事も無い。
「うーん、お金が無いなぁ」
市長の仕事で稼いだお金は、殆ど借金の返済に充ててしまっていた。
生活費分くらいは直ぐに稼げるだろうと鷹を括っていたのが仇になる。どうしてこうも自分は考えが足りないのだろうか。
「やっぱり一番はシャーリーさんの所かな。で、直ぐに用事が終われば、エーデル院長の家にも寄って行こうっと。でも……素直に渡してくれるかなぁ」
と言うか、ホッシーを見たら腰を抜かす可能性がある。
逆に腰を抜かさなかったら、それはそれで悔しい。
☆〈黒く染まりたいぜ……




