規模が桁違いだ
それからしばらくエラと辺りの公園を通りながら散歩した後、とある大豪邸に到着する。その佇まいは一見国の管理施設かと思われたが、きちんと門の横にはモイツ家と名前が掘られていることから、ここがエラの家だと理解できた。
「はぇー……」
普通さ、一般的な家なら門を開いた先には扉があると思うんだ。んで庭が横に広がってたりとか、いくら大きくても花壇が並べられているとか。
なんかもう、規模が全然違うんだ。なんだよあの巨大な噴水。泳いで遊べそうじゃんか。
「どうされたの? 早く家の中へ入りましょうよ」
そっか、エラにとってはこれは当たり前の光景。きっと私の家なんて彼女にとって犬小屋同然なのだ。格差だ。
門がガチャリと閉まると、自動で鍵が施錠された。こんな細かな所に魔法が施されているだなんて。
「お待ちしておりました。お食事の用意をセバスチャンから承って置きましたので、ご準備しております」
噴水の向こう側に、一人の女性が立っている。
短いひらひらのレースのスカート、白と黒を基調とした色使い、あまりにも丈は短いが、すらりと伸びた長い足を覆うような黒色のタイツ。動きやすさを重視したのか、はたまたご主人の趣味なのか。
「アンゲル、ご苦労様」
名前を呼ばれると、噴水で見えなかったメイドさんの全貌が明らかになった。
切れ長の目に、真っ白な肌。耳より少し長めに揃えてある髪は、本人の魅力をこれでもかと存分に引き立てている。
「お疲れ様です、エラッソお嬢様」
きゃわわわわあわわわわわーー!!
何!? 何なのあれ!? 冷たくて人を切り殺してそうな高潔な佇まいな印象とは裏腹に、衣装が可愛すぎるからもう存在そのものが目のやり場に困る!
「あら? 貴方がエーフィー・マグ様ですね? これはこれはようこそおいでくださいました」
シュッとしたタイトなスカートをひとつまみし、律儀に頭を下げてくるメイドさん。
あかん、あかんてこれ、何かに目覚めそう。
「エーフィー、彼女はアンゲル・シューン。セバスチャンと同様私の側近よ。一応マギシューレンの卒業生で先輩にあたりますの。ですがいつも通りに接して下さいね?」
「う、うん。よ、ヨヨヨヨヨヨロシクオネガイシマス!」
噛みそうになった。
だが、アンゲルさんは特に返事もせず、さささっとその場を後にする。
もしかして急な来客で忙しく、仕事も増えて迷惑に思ってるかもしれない。
「ううう、私何か悪いことしたかな?」
「大丈夫ですわ、きっと数時間か一緒にいたら理由が分かります。それよりも、とにかく家に入りましょう」
しばらく歩き、訓練用かと思うほどの長い階段を上り切ると、そこには夜中だろうが関係なく光り輝いている扉があった。四隅に証明を設置しているのだろう。なんて贅沢な。
「開いて」
エラがそう言うと、扉が勝手に自動で開く。
「お邪魔しまー……––––すご」
言葉を失った。と言うより、どう言葉で表現して良いか、頭の中の語彙では到底言い足りぬ。
何せ、箒がまるで生きているみたいに自分で直立し、床を掃いているのだ。塵取りもセットで抜群の連携を保っている。
それだけではない、天井まで箒で飛びたくなる程の空間が広がっており、大量の本が本棚に敷き詰めれているみたいに、そこら中に扉がある。これが一つ一つ部屋だと言うのか。
「すみませんねエーフィー。本家は基本的に来客用には作られておりませんの。ですからそこら中にここに住んでいるメイドや執事のお部屋がありましてね。一般的な富豪の家の作りとは全く逆ですわ」
「御手伝いさんって全部で何人いるの?」
そこで動いてる箒は数えるのかな?
「全部495人ですわ。ここに収容できる人数がおよそ500人、後五人足りませんわね」
え、じゃあ単純に部屋が500個もあるって事!? やば何それ。




