私の秘密、話してあげるね。
「ご馳走様、エーフィー。面白い話が沢山聞けて……とても楽しかったわ」
あれから2時間後、すっかり日も暮れてしまい、上空にはにっこりと微笑んだお月様が私達を見下ろしている。つい先週は、屋上で星を見ても眩しすぎると暗い気持ちになっていたのにね。
生きてると、本当に何が起こるか分からない事だらけだ!
「いいのよエラ、こうやってたまには人と一緒にコーヒーを飲むのもいい物だね! また来ようね!」
そして二人で箒に跨り、遥か上空まで登る。
相変わらず空の景色は最高だ。
色とりどりに輝く家の明かり。きっと中では沢山の物語が進行しているのだろう。
友達と談笑する人、恋人と良い雰囲気になる者、家族と幸せな時間を過ごす者。
あの明かりの中には、まだ自分が知らない道の世界が詰まっている。
「良い空ね。魔法使いを目指して、一番に素敵だったのがこの景色を見れる事」
エラが遠くを見つめ、一言放つ。
そう言えば、彼女はどうして魔法の学校になんて通っているのだろうか。その気になれば、家に先生の一人や二人呼べるだろうに。
「ねぇ、どうしてエラは魔法使いの学校に入ったの?」
エラはちらりと大きな瞳をこちらに向けると、月明かりでも分かるくらいに頬を染めて顔を逸らした。
「どうしてって……それはあなたが––––」
そう言いかけた所で、口を噤んでしまった。
ん? 私何かしたっけ?
「エーフィー、このお話はまだ明かす時ではありませんの。時が来たらお話し致しますわ。私の大切な思い出ですから」
そっか、なら無闇に踏み込む訳にはいかないね。
それなら、先に私の秘密を教えてあげようかな。
二人で夜空を箒で滑空していると、自分の新しい家のが見えた。
エラはまだ来た事ないはずだが、どうせ裏で調べて把握しているのだろう。
「ねぇエラ。そう言えばちょっと話したいことがあるんだ」
エラは疑問符を顔に出し、その場で茫然と立ち尽くした。普段自分からこんな話題は出さないから、戸惑っているのだろう。
「ふふふ、私がガイストと本気で渡り合えたと思うなら、それは大きな間違いよ。ある者から力を借りたの」
えっと驚くエラだが、妙に納得した表情だ。やはり彼女も何かしらの疑問を持っていたのだと気付く。エラは私に対しては盲目だが、基本的にかなりの現実主義。理路整然としない現象を信じる人では無いのである。
どんな関係だって、彼女は私の数少ない大切な仲間––––。
だから、知って欲しい。
「これ、ただの星に見えるでしょ? でもあら不思議、喋るんだ」
鞄の中から、ふわりとホッシーを宙に舞わせる。
星々の空の下、一個のお星様が天に向かう様を、エラは純粋な水晶の様な瞳で見つめていた。
「さ、ホッシー、ご挨拶なさい」
ビターーーーん!!
星と地面が正面衝突をする音が聞こえる。
いつもなら飛翔の勢いにあやかり、気持ちよさそうに天を舞うホッシー。今日は調子が悪いようだ。
「エ、エーフィー?」
星を拾い、砂埃を払う。
「あら? あらあらあら? どうしたのホッシー? いつもの勢いはどうしたのよ? ほら、エラにご挨拶なさい」
そう呼びかけるが、ホッシーは返事を寄越さず、ただの星金属となっている。
「ねぇ? ふふ、ちょっと恥ずかしがってるのかな? 大丈夫よホッシー、エラは友達よ。いつもみたいに軽快にお喋りしなさいな!」
だが、無情にもホッシーは声の一つどころか、体をピクリとも動かそうとしないのである。
「……エーフィー?」
「ははは! どうしたのかしらね!? お腹が減ってるのかしら!?」
おいホッシー、頼むから喋れよ。このままじゃ私が変な事を言ってるみたいになるじゃ無いか。見なよあのエラの顔を。最初は不思議で希望に満ち溢れていたのに、今じゃ心配そうな可哀想な顔で私を見つめているんだぜ? な? だから喋ろうぜホッシー?
「ねえホッシー!? ちょっとちゃんと自己紹介しなさい!? 私がおかしいみたいになるでしょ!? ねぇ返事してよ!!」
「……エーフィー」
「おい喋れって言ってんだろ!? お前この前あんだけ鹿肉食ったんだからちゃんと対応しろよ!?」
それでもホッシーは口を出さない。
「く〜〜〜!! いいから何か反応しなさ––––」
「セバスチャン!!! セバッッッッッッスチャーーン!!!! 緊急事態よ!!! 今すぎここに来て!!!」
エラの怒号の叫びの後、ポツリとお待たせしましたと一言が帰ってくる。
よく見ると玄関の鉄格子の裏側に、虫が張り付いてるみたいに執事のセバスチャンが鉄格子と一体化していた。恐怖である。
「病院よ!!! 緊急外来よ!!! 今すぐ手配しなさい!!!」
評価よろしくぅ!




