色んな奴に会ってたぜ!
「どうぞ、こちらが猫休秘蔵の豆を使ったコーヒーだ。と言っても、あのモイツ家の当主様だ。お口に合えばいいのだがね」
エラは背筋を伸ばし、静かにティーカップに触れる。
その仕草は普段の彼女からは感じられない程繊細で、まるで芸術を目の前で行っているかの様だった。
鼻を少し近づけて香る。天の使いがそっと口を添え、生の息吹を吹き込む様に、息を吐きながらそっとコーヒーを口の中に含んだ。
その佇まいは、周りでガヤガヤと喋り込んでいた主婦も見惚れる程である。
まさか、エラにこんな場面が隠れていただなんて。
「……まさかこれ程の腕を持つ方がこのエーレにいらしたなんて、世の中はまだ私の知らない事だらけですわ」
「お? それは褒め言葉として受け取っていいのかな?」
「いいえ、違いますわ。褒め言葉ではなく、大絶賛です。素晴らしい。ここまでの物は味わった事あありませんの。うちに雇われる気は無くて?」
「おっと、魅力的な提案だが、それじゃあここに来てくださるお客様を楽しませられなくなってしまうな。それに俺はコリーさんにお世話になっている」
やっぱりエラでも大絶賛する程なのか。
凄いなぁダンディは。
「残念ですわ。ま、相手があのシュバウツ協会という事でしたら大人しく身を引いて置きましょう」
そう言いながら、エラは再びコーヒーを口に含み、幸せそうな顔をしていた。
「へー、ダンディってコリーさんと知り合いだったんだ! 奇遇だねぇ」
私がそう言うと、ダンディとエラが同時にこちらに目を合わせて来た。
「ん? エーフィーはコリー・シュバウツと面識があるのかい? 言っとくが、俺は単にシュバウツ協会にお世話になってるだけで、コリーさんとは面識は無いぞ」
「エーフィー? コリー・シュバウツというのはね、それはもう商人として一流を超えた存在なのよ? そのお陰か、彼に近こうとする者も沢山現れてね。それが嫌になって、彼はよっぽどの側近としか顔を合わせなくなったって有名なのよ?」
え、何言ってるんだろこの人達。普通にお茶とか誘ってくるんだけどあの人。人嫌いだなんて嘘だぁ。シャーリーさんとも事務所で飲んでる時もあったし、酔っ払って楽しそうに服着ないで変な踊りとかしてたあの人が? 誇張しすぎなのでは無いか?
でも、彼の名誉の為、その話は黙っておこう。
「へーそうなんだ。私は今の便利屋の仕事、コリーさんに直接連れられて紹介されたんだよね。仕事くださーい! って言ったらさ!」
二人はまさにびっくり仰天という顔をしていた。この中では自分がおかしな事を言ってるらしい。
「なんと、あのコリー・シュバウツが……いや、やっぱりマーフィーに昔助けられたのもあって、エーフィーの事も放って置けなかったのかもしれない」
「嘘……私でさえ面会を断られるあの方が? いやでもエーフィーの可愛さなら籠絡出来るかも……そうだわ、そうに違いないわ!」
うーん、でも確かに最初のコリーさんは冷たかったしな。やっぱりマリーちゃんの一件があったから親交が深めれた訳で、普通の人は話すことすら出来ない存在なのかも。だとしたら勿体ない。今度お茶くらい一緒に行ってあげよ。
「エーフィー! 男はどんなに歳をとってもケダモノには変わりありません! いくら相手がコリー・シュバウツだとしても、決して油断なさらないように!」
いや、大丈夫。エラよりケダモノな奴なんてよっぽどいないから。君を警戒するレベルまで引き上げればどんなのが来ても平気だろうから。心配しなくてもいいんだよ?
「今私が住んでるお屋敷は、元々コリーさんが所有していた物なんだ! それであれよこれよで接点が出来ちゃってねー。案外良い人だよ!」
「そうか……ま、凄い人が身近にいると分かっただけで俺は安心したよ。エーフィーは昔っから危なっかしいからね。一人にしておけない」
「確かにそうですわ! 一週間見ないだけでこうして骨折して戻ってくるんですもの! もう、今度は私も付いて行ってやろうかしら?」
それ骨折よりももっとダメージが深い何かの危険が大きくないですかね? ちょっと会うだけでもこれなのに、数日でも私と共にしたら理性無くなる恐れがあるんじゃない?
「はっはっは、出来ればそうして欲しいね。これで勇者も仲間にいれば完璧かな? もう魔王倒しに入れるパーティだよ」
ジャスティーか。仲間と言えば仲間かな。
「ジャスティーのこと? この前引越しの手伝いをしてくれたんだ。シーナと一緒にさ」
またもや二人が視線を合わしてきた。
最近感覚がズレて来たのだろうか。でも星とか喋るし、そこまでおかしくはないでしょ?




