いきつけのコーヒー屋さんへ!
箒に乗り、エラと一緒に近くのコーヒー屋さんへ足を運んだ。いくら借金があるとは言え、私はコーヒー代は絶対にケチらないと心に誓っているのだ。だってあれは心の栄養分。いくら人々の賞賛で胸がいっぱいになっていても、腹は減るし、喉は乾く。
しばらく飛んでいると、目的地の看板が見えた。
学生から高名な魔法使いまで、幅広い層に人気のあるお店「黒い猫よ休んでいきなされ」通称、猫休。
そう言えば、ホッシーと出会ってからこのお店には一回も来ていない。
ま、あの時は借金問題に出会したばかりだし、色々と環境が変わった目まぐるしい時期だったので、ほっとする間も無かったのだ。
「あら、エーフィーってネコキューによく行くの? そんな情報全く無かったけどなぁ」
「うん、たまーに夜に足を運んでたりしてたんだ。ひっそりと、一人でね。だから、今回は友達を連れて行くのは初めてなの。変な声出したりしないでよね?」
パチリとウインクを決め、合図を送る。
もちろん赤面して目をぐるぐるさせているエラ。どうした? 先ほどの威勢はどこに行ったんだい?
ま、今回彼女を誘ったのは、正気に言うと、もっと仲良くなりたかったからだ。
残り一年もない学生生活、卒業したらエラとも会えなくなるかもしれないし。
「さ、着いたよ。……ごめん、手を貸してくれる?」
エラが超接近して私の腕を自分の肩に回し始めた。
役得だそうだ。
「よいしょっと……フゥ、やっぱり片足使えないと不便だよね」
「大丈夫ですわ、私が付いてますから」
扉に触れるとカランカランと鈴の音が鳴り、店内にいる店主にお客が来たぞと合図を送る。久しぶりに入ると、いつもと変わらない優雅な香りが漂っていた。
「おやおや、今日は珍しいお客さんが来たもんだ。エーフィー久しぶりだね。元気にしてたかい?」
ここの店主のダンディ・ジオサン。
年季の入った手入れされたお髭は風格を現し、大人の余裕を感じさせる。
年齢は不詳だが、私が生まれる前からお店はあり、その歴史は長い。
私が通っている理由としては、コーヒーが絶品なのも当然あるが、なんと言っても魔王討伐の旅に出ていた勇者の一行の一人と言うのがでかいのだ。大叔母様とも親交が深く、旧知の仲である。
「ダンディも元気にしてた? 私は最近すんごく忙しくてね……」
「おお、噂は色々と聞いているよ。立ち話もなんだ、とりあえず座りたまえ」
カウンターの席に案内され、手拭きを出される。
エラッソは珍しくもドギマギとしており、そわそわと落ち着かない。
「どうしたのエラ?」
「いえ、私、このような場所に来る事ってあまり経験がなくて……」
と、しおらしい態度になっている。
なんだか虐めてやりたくなる可愛さだ。こんな一面もあるんだなぁ。
「はっはっは、お嬢ちゃんはモイツ家の次期当主、エラッソだね? ほぅ? まさかエーフィーと親交があったなんて驚きだ。彼女がここに連れて来たということは、それなりに信頼している人物ということだね」
まぁ、信頼はしている。その分警戒もしているけど。
「え!?」
真っ赤な乙女の顔をしながら、エラはこちらを見つめて来た。
待て、慌てるな、色々と早とちりだぞ。
「さ、ご注文は? いつもので良いなら二人分用意するけど」
「いつもので! エラも一緒でいい? コーヒー好き?」
「はいぃぃ! もちろんですとも! エーフィーの事は昔から好きですわ!」
緊張しているのかな? 私はコーヒーじゃないぞ? それに昔から好きなのは知ってるぞ? 服嗅いで興奮してたもんね。




