襲来、お金持ちお嬢様! パート2!
「おーっほっほっほうほほほほ!! エーフィー、御機嫌麗しゅう。今日も太陽の様な輝かしくも美しい私に出会えて貴方はとても幸運ですことおおおおおおってーー!? どうしたのですかその足は!? いつ、誰にやられたのですか!? ムッキーーー許さん許さんぞおおお!! 見つけ出してボッコボコのボコにしてやりますのよ!!」
朝からアホみてーにテンションの高いエラッソ・モイツ。
なんだね君は、何日間か合わないと人間関係がリセットされる症候群にでも侵されているのかね。毎回毎回高飛車な挨拶を交わしてくるくせに、数分経っただけで籠絡されるくせに。
そして今日も増幅器がかった叫び声でこちらの鼓膜を破壊してこようとする。少しは淑女として身の振る舞いを考えたまえ!
「つい先日、リンドで仕事があってね」
「それは知ってますわ!」
え、話してないのになんで知ってるんだろう。怖。
「じゃあ、私が何をしてたのか知ってる?」
「ええもちろんですとも。砲弾を魔弾に変える仕事ですわよね? 朝の七時から夜の五時が定時、お昼休憩は2時間で、報酬は約100万デル。そして滞在期間は一週間。どこにも怪我する要素はないと思いますけど」
だからなんでそこまで知ってんだよ。まじで怖ぇーよ。
「う、うん。そこでね、なんとあのガイストが現れたんだ!」
「ガイスト!? ガイストってあの……魔王軍率いる魔物の精鋭の一種族のことですわよね!? そんなのがどうしてリンドに!? 魔王軍はもうそこまで力を付けて来ているのかしら!?」
「さぁ、どうしてかは知らないけど。丁度その時戦える魔法使いが私しかいなくてね。こうやって足が折れながらも、箒で必死に応戦して追い返したのです!」
ふふん、鼻高々である。
後から冷静になってもう一度ガイストについて調べ直したのだが、やはりそれなりの高ランクの冒険者集団でしか相手出来ない魔物であった。それはただの一介の学生が追い返したのだ。いくらホッシーの力を借りたとは言え、対等に渡り合ったのは事実である。
もしかして自分って案外腕が良かったり、慢心慢心!
「あのガイストを? エーフィーが、一人で?」
「えへへ、まぁ最後の一撃はみんなに手伝って貰ったんだけどね! それでも中々じゃない?」
エラは開いた口が塞がらないみたいだ。
それもそのはずである。基本的にガイストを相手に出来る学生がいるとすれば、彼女みたいにSランクの魔術師。学生でないとすると、経験豊かな位の高い魔法使い。
何周回ったって、こんなFランクの落ちこぼれが相手をして良い魔物ではないのである。
「エ、エーフィー……凄いわ、素晴らしいわ。まさか貴女がガイストを相手取れる程の気骨の持ち主だったなんて。もう、まるで白馬の王子様じゃない! よくまぁ無事に戻って来られましたね」
しんみりと泣きそうになってる所悪いが、全然無事になんて戻って来てないのである。
よく見ろ、よく見ろよ。足折れてんだろ? 松葉杖で必死になって歩いてんだろ? 視界が顔面に集中してて他が見えないのかい?
しかも白馬の王子様ってなんじゃーい!
「ま、命があっただけでも良いさ! それはそうと私はけが人なんだから、荷物の一つでも持ってくださいまし! ましまし!」
無理やりエラに荷物を持たせた。
いつも小馬鹿にしてくるお返しだ! っと言いたい所だが、なんと彼女は私の鞄を持っただけで興奮し始めた。とんでもない奴である。
「ふー、意外と自由に歩けないと、鞄の教科書が重く感じちゃうのよねー。あー不自由だなー」
(……クフフ、今なら抵抗する力はない」
めっちゃくちゃ小声で独り言を喋っているが、完全に漏れているのである。
それに考えてる事が恐ろしいと言う事だけは理解した。彼女に鞄を持ってもらう選択は愚かだ。
「ね、ねえエラ! 最近なんか楽しい––––」
「クフフ……今なら誰も邪魔出来ない、どこにも逃げれないじゃない。こんな絶好の機会を逃す手はないわ。さてどうしましょうか。この荷物を持って走って逃げながら彼女を誘導すれば人気の無いところまで連れ出せるわね」
完全に犯罪者思考に陥ってしまってる。
しかも被害者になるであろう自分の前で計画を練るなんて、とんだヤベーやつだ。
「エラ、エラ!!」
「は! はいどうしましたエーフィー?」
どうしたもこうしたもないのである。
とにかく彼女には別の事を考えて貰わないと。
「いやー、ちょっと喉が乾いちゃったと思ってね! どこかで一緒にお茶しない?」
「へ? ぁあ、良いですね。でも今日は睡眠薬持って来てないしな……」
怖い怖い怖い怖い。
何? 私と居る時はいつも睡眠薬を持って来ている訳!? しかもかなり自然な感じで口滑っちゃってるけど大丈夫!? 理性が本能に負けそうなの!? って今更しまったみたいな顔しても遅いよ。筒抜けだよ。カーテンとガラスの無い窓だよもう。




