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足は折れてるし、魔力は尽きたし、頭はフラフラするし

 人の言葉を……話した。間違いなく誰かの名前を呼び、しかも敬った呼び方であった。

 どうして? 攻撃の手を止めて、わざわざ近づいて話しかける意味は何? それに誰の名前だったのだろう、上手く聞き取れなかった。ア……トア? 


 ガイストは何もせず、じっとこちらを見つめて離さない。

 今が反撃のチャンスでもあるし、逃げるチャンスでもあるのだが、片足は上手く動かせず、しかもかなりの激痛。


「貴方は、誰?」


 体全体が深い悲しみの色を出し、時間が経つにつれ、段々と濃ゆくなっていた。

 しかも対象者を自分に向けてだ。私は君に悲しまれる覚えも無いし、君の親戚でも無い。


「ア––––ス––––……。お迎エ––––シマ––––」


 言葉を喋る器官が無いのか、それとも元々喋れないのを魔法か何かで無理やりしゃべらそうとしているのか、さっきから滑舌が悪いなんてもんじゃ無い。

 でも、お迎えしますと確かに喋った。狙いは誰だ?


「あのね、私は––––」


 そう言いかけた瞬間、ガイストの顔面が、大きな鉛玉によって深くへこんだ。

 そのまま玉の勢いに釣られて、隣の壁に黒い影は叩きつけられる。


「わわわわ!! 何!?」


 辺りを見回すと、そこにはここ一週間、ずっと自分の周りで大砲の玉の積み込みの作業をしていた屈強なお兄さん達が自分に向かって盛大に手を振っていた。どうやらこしらえたばかりの大砲の玉をここぞとばかりに使っているみたいだ。おかげで助かった。


「お嬢ちゃん!! ここからは俺達に任せた!!! 行くぞ野郎ども!! あんの影の一匹くらい俺達で追い出してやろうぜ!!」


 何人もの男達の掛け声が合図になり、その周辺にあった大砲をこれでもかと使い、床で倒れているガイストに鉛玉を叩きつける。


 十発目の玉が黒い影を埋め尽くそうとしたとき、下敷きになっていたガイストは激しい高音の雄叫びを上げ、無理やりその場から脱出していた。だが、相当なダメージが入ったのか、少々ふらついている。


 再び耳をつんざくような高音を上げると、天高く飛び、遥か東の方まで退散していくのであった。


「あ、あれ……?」


 ふと、現実に戻る。

 自分はもしかして勝ったのか? あのガイストに? 大魔法使いの位でしか戦う事の許されない、魔王の直属の魔物に。

 

「あ、ホッシーと……君、大丈夫?」


 懐に潜り込んでいた女の子は、自分の体にしがみつき、離れようとしない。

 でも無事でよかった。本当によかった。


「エーフィー、怪我が酷そうだね。立てないだろう?」


 ホッシーの言う通り、さっきから片足の激痛が治らない。でも、不思議と耐えられている。それもその筈だ、頭はずっと興奮状態だ。

 初めての強敵との戦闘、糸が千切れそうな命のやり取り、回転する頭、自分を信じる心。

 

「うん、痛くて立てないや」


「随分と平気そうな顔をしているね〜。おっと、人が集まり始めたよ。私はバッグの中で物置にでもなってるかな!」


 それから私は、最寄りの病院へと運ばれた。

 聞く話によると、どうやらこの国のお抱え魔法使いが、今日この日だけ外出しているのもあり、魔物の接近に気付かずにこのような事態になってしまったと言う訳だ。

 最初は、ふーんそうなのかーくらいにしか思ってなかったが、冷静に考えればこんな大きな国を魔法使い一人で補う方が原因なのではないだろうか。


「文句を考えても仕方ないか。にしても……いててー、まさかの松葉杖を使うなんて思いもしなかったよ。箒には乗れるけど、これじゃあ普段に日常生活が不便になっちゃうな。とほほ……」


 病院で1日治療をして貰い、翌日速攻で退院となった。

 流石にガイストを退けたお詫びとして、一流の医者を用意してくれていたのだ。

 それに、時期が整ったら、報奨金も頂けるのだと言う。が、あまり高い金額は出せないとのこと。


「ちぇ、けちだなー。折角強い魔物と命を張り合ったのにさ!」


 ホテルに行って荷物を取り、今回お世話になった職場へと挨拶に向かった。

 

「貴方! もーすんごい大変だったんだってね!? みんなから話しは聞いたよー!」


 仕事の引き継ぎを行った先輩魔法使いだ。


「いえいえ、お役に立ててよかったですよ」


「にしてもガイストが現れるなんてね……そしてそれを退けたのが“マグ”の名を引き継いでる者だなんて! いやぁ、歴史は繰り返すものなのね〜」


「え? どう言う事ですか?」


「あれ? 知らなかったの? 以前にもこのリンドはガイストの襲撃を受けた事があるの。もう何十年前の話しだけどね、その時孤軍奮闘した魔法使いが居たのよ」


「それって」


「そう! 貴方の親族のマーフィー・マグよ! 残された記録によると、ガイストを一人で何十体と倒したんだってさ! 凄いよね、偉大よね。そして––––感慨深い」


 魔法使いのお姉さんはしんみりとした表情で、じっとこちらを見てきた。

 

「魔法使いなんだから、運命って言葉を信じるわ! 貴方は紛れもなく持ってる人間よ! もしかして今度こそ本当に魔王を倒してしまうかもね!」


 そんな、私なんて一人じゃ何も出来ない。


 顔を下に俯かせると、後方から二つの足音が聞こえた。


「おねーちゃん! 足大丈夫?」


「エーフィー様! お怪我はもう痛く無い?」


 振り返ると、そこには自分が救えた二人の子供の姿があった。

 一人は顔に絆創膏を貼っており、そちらがあの連絡橋にいた子だとすぐに分かった。


「すごいよね、エーフィー様は! 私、将来貴女みたいな魔法使いになる! なって見せるのだ!」


「え! ずるーい! 私だって、お姉ちゃんみたいな魔法使いになるって決めたんだもん!」


 元気いっぱいの笑顔を見せる二人。

 もし最悪の選択を続けていたら、二人の笑顔を見る事もなかった。

 何を考えているんだ私は、過程にこだわるな、起きた結果を噛み締めるんだ。

 自分の意地に拘らなかったから、命を助ける事が出来たんじゃないか。


「ふふふ、二人なら私よりもすんごい魔法使いになれるよ」


––––

––––––––


 飛空挺の自室で、のんびりとコーヒーを嗜む。

 振り返ると色々あった。短い期間だったけど、得るもの学ぶ物、何より貴重な経験が出来た。

 私は決して天才じゃない。だから人並み以上に泥に塗れ、惨めな思いをしながらも、前に進んでいかなければならないのだ。

 

 だって決めたんだ。

 私は大叔母様の様な、偉大な魔法使いになるって。


「エーフィー! 私は今回かなり頑張ったんじゃ無いかな!? だから残りの鹿肉も私の物だと思うんだけど!?」


 意地汚い星だが、事実は事実だ。

 思う存分食べるが良い。


「なんだいその視線は!? 私だって時たま贅沢な欲求に駆られることもあるのさ! いけないよエーフィー、この星で生きる全ての生命には褒美を与えられるべきなのさ。でないと不公平じゃないか、私だって生きている、君と同じ一つの生命体なのだよ。つまり私達は平等。この鹿肉を独り占めする権利くらいあるってもんさ!」

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