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もう相棒だね

 翌日、私とホッシーは現場に向かい、そこのお偉いさんに謝罪のご挨拶をした。

 お偉いさんは、こんな事もあるさ、そう落ち込むなと言ってくれたのが救いだった。もしこれで依頼を取ってくれたシャーリーさんに文句でも言われよう物なら、自分はただ迷惑を掛けに来ただけだ。

 そうはならない様に、最終日までしっかりと仕事に励む。


「えっこらしょっと……ふぅ、これで今日の分はおしまいかな? それなら一昨日と昨日の残りに着手しなきゃね。ホッシー? ごめんけど力を貸してくれる? 私一人じゃこなせなさそうだしさ」


「りょーかい! この星に任せてよ!」


 それから深夜までホッシーと一緒に作業をする。

 事情を話し、砲弾の積み込みを遅らせてもらったのだ。必ず数の埋め合わせはするからと。


「うわぁー! やっぱり二人ですると作業の速さが段違いだね! 助かるよホッシー」


「なんのこれしきさ! 私達は二人で一つなんだ、存分に頼ってくれたまえ!」


 偉そうにふんすと鼻を鳴らす星。

 いつもならその行為に疑念を抱く所だが、今はとても頼もしい。


––––

––––––––


 時刻は深夜三時。

 何度も一息入れながら、地道に作業をこなしていくと、いつの間にかするべき数を全てこなしている事に気付いた。


「やったーーー!! 終わったぁーーー!!」


 両腕を思いっきり上に伸ばし、縮んだ体に力を入れる。


「疲れたねぇーー……」


 ホッシーもぐったりと床に寝そべり、鋭角をこれでもかとぐぐぐっと伸ばしていた。ちょっと不思議だけどもう何も言うまい。


「ホッシー、ホテルに戻ってお風呂に入ろう? あそこは24時間空いてるみたいだし、今の時間なら誰も入ってないと思うよ!」


「おお! いいね! 暖かい湯に浸かると身も心もスッキリするってもんさ! 私は錆びない様に気を付けなければいけないけどね!」


 それから汽車に乗ってホテルまで戻り、着替えの準備をし、屋上のお風呂場まで向かった。部屋に据置してあるお風呂でも良いが、足も伸ばせないので堪能は出来ない。


 扉を開くと、そこにはシンプルながら大きい丸い形の大浴場。周りに人はいなく、自分達の貸し切りである。


 入浴の前に、仕事で汚れた体を丹念に洗い流す。

 背中はいつも通りホッシーに任せる。この光景も見慣れたもの、この星はもう自分の日常の一部になっているのだ。


「ホッシーが溺れない様に桶を用意してあげるね! と言うか溺れるの?」


「うーん、試しに潜ってみようか。私も気になる所なんだ」


 そんな事言いながらぴょんと浴場に飛び込む星。


「んー? 大丈夫かぁ? 十秒したら引き上げてやるか」


 やっぱり中々出てこない。

 と言うか無造作に飛び込み過ぎてどこにいるのやら。


「おっと、こんな所に沈んでる、よいしょっと」


「ぷはぁーーー!! 案外息は続いたけど、金属だから問答無用に水に沈んじゃうね! これは水系の魔法も習得しといた方がいいかも」


 近くに桶を置き、熱々の湯を入れ、そこにホッシーを入れる、

 自分はその近くの角に座り込み、しっかり肩まで湯船に浸かる。


「ああーーー……気持ちいい。ん、んーーー……っと」


「おお、なんていやらしい声を出すんだいエーフィー! そんな声をあの二人の前で出したら襲われるなんて物じゃ済まないよ! 気を付けたまえ!」


 案外否定出来ない所が恐ろしい。

 普段から発情しているエラは、常に発散するタイプだから良いとして、問題はシーナである。彼女は普段そんな素振りを少しも見せる事は無いが、ある日突然爆発するタイプなのだ。


「エーフィーは男の子に言い寄られないの? 客観的に見ても見目麗しいのに! まあ近付いてくる奴はこの星の鋭角打撃で粉砕するけどね!」


「何よそれ……、私に近付いてくるのなんて殆どいないよ。言ったでしょ? エラのおかげで一人でいる事が多いんだって」


 そう、エラは他の人が私に話しかけない様にわざとあの様に振る舞っているのだ。正直一人が好きな私にとって、それは好ましい環境だ。


「そうかー……エーフィーも忙しいもんねー……」


 トロンとした声で眠そうに受け答えする星。

 長く浸かりたいが、明日も早い。


「ほーら、寝ないのホッシー。もうベッドに行こうか?」


 部屋に戻る頃には、タオルの中で寝息を立てていた。

 それもその筈だ。なんたってここまで付き合ってくれたのだから。


「ありがとねホッシー。あなたが居てくれてよかった」


 数時間後、私達は最後の仕事を片付けに、再び汽車に乗って職場へと向かった。

 正直、多忙すぎて時間の感覚など殆ど無く、一瞬と言う言葉で片付けてしまうほど、日が流れるのが早かった。


「おはようございます! 一応昨日の分までの魔力は注ぎ込みました。ご迷惑をお掛けしました。今日の分の作業が終わり次第、積み込みのお手伝いまでしますのでよろしくお願いします!」


 責任者の人は断ろうとしていたが、それでは自分の気が済まない。事実迷惑を掛けたのだし、罪滅ぼしはきちんと行わなくては。


「よーっし、まだ魔力は完全には戻ってないけど、ホッシーの力を借りれば––––」


––––キシャアアアアアアアア!!!!


 いきなり、耳の中までつんざく様な高音が鳴り響く。

 あまりにも違和感のあるその音、汽車の音でもないし、ましてや大砲が暴発した音でも無い。


「きゃあああああ!!!!」


 誰かの声が響いた後、みんなして一斉に声を上げ始めた。

 一体何の騒ぎだろう。


「もう、なんなのこの音……? へ? あ、あれって––––!!!」


 地上に映し出される大きな影。まん丸い黒い影の正体は、上空に舞う一匹の生物の姿。

 

「ガ、ガガガガガガイスト!?!? どうしてこんな所に!?」


 ガイスト。

 影の魔物の一種。黒い大きなオンボロな擦り切れた布を見に纏う、闇の魔力の塊。

 その存在はあまり公には知られておらず、自分達エーレの国の中でも、魔法に関与する人物しか知られていない。

 だが、リンドの様な軍事都市では有名な魔物の筈だ。

 本来なら魔王城の近くの様な、魔力密度の高い場所でしか生息しない筈なのだが、何故あれがここにいるのだろう。

 

「み、みんなーーー!! 建物の中に隠れろーー!!」


「え? わ、わわわわちょっと!?」


 周りから跳ねのかされ、地面に突っ伏しる。

 我先にと、沢山の人が施設の中に入り込もうとしていた。


「大丈夫かい? エーフィー」


 いやに冷静な声ぶりで自分の心配をしてくるホッシー。


「あつつー……。ちょっと肩に強く当られたけど、怪我はないよ」


 確認の為にもう一度上空を見上げると、ガイストの頭から大きな火球が繰り出されていた。自分のファイの魔法とは比べものにならない程の巨大な炎。喰らったらひとたまりもないのである。


「ねえ、ど、どうすれば良いかな?」


「ひとまず逃げよう……あちゃー、今鍵閉められた音したね。なんて薄情な人達なんだ!」


 ガイストの攻撃かかれば、こんな建物すぐ吹っ飛んでしまうのに。


「リンドの人達はガイストの存在は知ってても、がどんな攻撃をしてくるか分からないんだよ! 私達も、とりあえず影に隠れよう!」


 自分の荷物を回収し、建物の影に隠れ、やり過ごす。

 ガイストの標的はどこか遠くの方で、自分達には向いていない。

 今のうち逃げ様にも、奴らの索敵能力は計り知れないのだ。


「エーフィー、そのガイストとの戦闘経験は?」


「う、うーん……一回だけ」


 昔マギシューレンに入りたての頃、エーデル院長の元、野外授業として、ガイストを実際に目にしてみようと言うのがあった。彼らの行動パターン、そして行使する魔法を実際に目にし、脅威を知るといった内容だ。


「それって戦闘経験0じゃないか!」


「見た事があるって言いたかったの! もうそんなに声上げたらこっちに気付いちゃうって––––」

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