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鹿肉の美味さよ

 飛空挺は出発し、安定体制に入りましたと合図がでた。どうせなら甲板で綺麗な雲でも見たいと思い、部屋に鍵をかけ、ホッシーと一緒に外へと向かう。


 外への扉普通の木の扉だが、上空の気圧や衝撃に備え、魔法が掛けられてあるのだ。別の国からエーレに来る観光客は、まずそこに驚くらしい。どうしてこんなただの木の一枚が? となるらしい。


「お! まだ誰もいないね。あー……空綺麗、風が気持ちー」


 ぐぐぐっと背伸びをし、一気に息を吐く。ここの所学校や仕事などで働き詰めだ。のんびりする時間はあったとはいえ、毎日シーナやジャスティーさん、果てはエラまで家に押しかける始末。一人の時間が無かったのである。


「ふおおお、ここから見える景色も最高だね! 箒の上とはまた一段と違ってくるねぇー!」


 四角の木の柵の上にちょこんと仁王立ち、堂々と外に出るホッシーである。


 そういえば、なんだかんだホッシーがいるから完全に一人になることなんて無かったんだ。冷静に考えて、誰にも見せない、本来のありのままの自分をこの星は見ているのだ。あられもない姿もね!


「向こうに着くのは深夜だから、夜になったら今度はお星様でも見てみようか。物凄く綺麗なんだよ? ここまで上空に来るとね、余計な光が入らないの」


「へぇ〜それは物凄くロマンチックな展開だね! エーフィーって星好きだよね。たまに夜一人でふらっとお空に飛んでっちゃうんだもん」


 おっと、気づかれていたか。ホッシーが起きない様に細心の注意を払っていたんだけどな。流石は勘の良い奴。


「……は!! エーフィーは星が好き……つまり!!! 私のこむぎゅうううう!!」


 危ない危ない、段々と人が来始めた。普通の魔法が使えない人にとって、空での旅はかなり新鮮だから、甲板はよく埋まるんだよなぁ。

 とりあえずホッシーには鞄の中に生き埋めになってもらおう。それにお腹も空いたし、下のレストランにでも向かうかな。


 どどん!! 鹿の丸焼き!!


 今日の献立らしい。鴨か。美味しいのかな? 確かシーナが美味いって言ってたっけ。脂が乗っててとろける舌触りだけど、食べ応えは抜群だって。

 お金持ちのお嬢さんは毎日贅沢な物食べてるはずだから、そんな彼女が美味しいって言うほどだ。これは食べずにいたら勿体ないぞ! それに今回の旅、機内の昼食と夜食付きだ。


「ん! ルームサービスで頼んじゃおうっと。ホッシーにも上げないとね」


 正装の店員に声を掛け、部屋に運ぶ様にお願いする。ちょっと時間が掛かると言われたのだが、待つ分には全く問題ない。


「鹿肉なんて食べたことないよ!」


 当然、あんな高そうなの食べさせたことない。

 せいぜい出来る贅沢は、近所のシュークリームくらいである。


「そりゃあお高そうですもんね。買える訳ないじゃない」


「えー……でもシーナとかエラとかお金持ちなんだから頼めば良いじゃん。二人ともエーフィーに欲情しているし、色仕掛けで一発でしょ」


 それが問題なのである。下手におねだりとかしようものなら、何をされるか分かったもんじゃないのだ! 前回なんか何十着の洋服を着せ替えさせられて……ああ、あれはかなり疲れたなぁ。友達なのは良いけど、もっとこう、性欲を真っ直ぐに突き刺さないで欲しいものだ。


「おおう、なんだか闇のある顔になってしまったね。ドンマイだよエーフィー! でも友達は大事にしなくちゃね!」


「そうね……まぁシーナやエラはとても大切な存在よ? でもさ、人を見てよだれを垂らすのは良くないと思うの。私は食べ物じゃないんだぞ」


 すると、小さなノック音が聞こえた。話題の鹿肉のご登場だ。


「お待たせしました。右側が鹿肉のソテー、左側が鹿肉のローストでございます。どちらも赤ワインで香り付、塩だけで味付けをしておりますが、自家製ソースで召し上がられるのもお勧めです。量は多めにしておりますので、余られたら夜食のお供にも良いかもしれませんね」


 そう言って店員は調理場へと戻る。

 これはこれは……なんて美味そうな香りが。


「……え……エーフィー。これ本当に食べて良いのかい!? なんか私には輝く宝石に見えるのだがね!?」


「ゴクリ……言いたいことは分かるよ。ほら、先に一口食べちゃいな」


 そう言うとホッシーが器用にフォークを使い、まずはローストを一口。

 ハムハムハムと金属の体内に吸い込まれていく。


「お次は私が一口。ハムハムハムー……」


 自分は今、どこにいるのだろう。

 この味は、脳のどこで処理するのが正解なのか。答えは見つからない。見つからないが。


「「うっまーーーー!! なにこれーーー!」」


 まさかの星とハーモニー。

 だが仕方ないのだ。今まで経験したことのない、まるで人として一歩扉を開いた様な、世界が広がった感覚がする。


「くそう、シーナこんなの毎日食べてるんだろうなぁ。羨ましい、羨ましいぞう。こりゃ色でもなんでも売りまくって媚び諂うしかないね!!」


「ないねー!! パクパク」


 ん? 待てよ。ここで一個滅殺しておけばこの鹿肉は私の物……。


「犯罪者の目をしているよエーフィー!!」


「あら? うふふ、美味しいねぇ」

鹿肉って美味しいですよね。

あれはワインによく合う。というかワインの為に生まれてきたと言っても過言ではないですよね。

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