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飛空挺にはしゃぐ星

 とある鞄屋さんで買った旅用のトランク。深めのキャラメル色に、ちょっと高級な皮を素材に使った優れもの。お気に入りの一品である。

 その中に一週間分の着替えと小物を詰め込み、後は飛空挺の発着場に向かうだけになった。


「なんか緊張してきたー! えっと……忘れ物ないよね? トランクにポーチに財布にお金に砂時計に……ホッシーに」


 折角預かった旅費だ。無くさない様にしっかりと財布の中に入れておこう。


「でも楽しみだねぇ。まさかエーフィーと二人で旅行に行けるなんて!」


 何を言っているんだこの星は。これは遊びじゃない、仕事なのだぞ。何気に魔術師として初めての依頼なのだ。いくら錆びれ星金属だからと言って、真面目に仕事に取り組んで貰わないとこっちが困るのだ。ルンルン♪


「何か失礼な視線を感じるよ!? 錆びてないよ私は!?」


 そう言いながら、鋭角の先でくまなく体を調べ始めるホッシー。勘のいい星である。

 やっぱり常に思うのだが、絶対元は人間でしょこれ。


「今回はもしかしたらホッシーの力も借りなくちゃだし、私も初めてのことばかりだから、ある程度真面目にして行こうね。終わったらとろっとろの美味しいお肉を食べさせてあげる!」


 リンドは軍事都市だ。

 だからなのか、体を鍛えている者も多く、食文化もかなりの肉食系なのである。

 特にステーキに関しては、国の目玉と言っても過言ではない。


「うへえええ! そんなに美味しい物を食べさせてくれるのかい!? やったー! サンドイッチも飽き飽きしていた所だし! これは楽しみになってきたなぁ」


 かなり聞き捨てならないセリフを吐かれてしまったが、実際ホッシーの身になれば分からないことでもない。彼が目覚めてからずーっとサンドイッチなのである。ここいらでテコ入れさせとくかぁ。


「それはようござんすね。じゃあ行こうか。はよ」


 カスタム箒に跨り、目的地への場所まで飛ぶ。

 やっぱり空は気持ちがいい。青空は飛んでいると心も晴れやかな気分になるし、風は熱がこもった体内に息吹を吹き込んでくれるかの様だ。


「ねえねぇエーフィー。そういえばあの砂時計さ、全然光らなくなったね。中の砂もあれから増えてないしさ」


 それなりに人の願いを叶えてきたと思っていたけど、あの砂時計が反応するまではいかない。何か、何かが足りないのだ。重要な何かが。


「色々試してみようかねぇ。何か心辺りある?」


「全く無いね!!」


 元気に無知の証明の返事をされても困るのだが、実際知らない物は仕方ない。そう言う私も知らないし、これはこれでおあいこである。


––––

––––––––


 箒でかっ飛ばしながら一時間後。エーレの空への門、空港に辿り着いた。基本的に国から出ることは学校の行事以外に無いので、来るのはかなり久しぶりである。


「去年にみんなで旅行した以来だなぁ。えーっと、観光客の多さよね」


 箒を背中に担ぎ、トランクを両手で持ちながら中に入る。

 

(ねぇねぇエーフィー! 何これ床がツルツルだよ! ピッカピカに光ってるよ!)


 こしょこしょと小声で話してくるホッシー。興奮しているのか、外での決まり事を忘れてしまっている様だ。ま、流石に初めてくるのだから仕方ない。私だって最初ははしゃいだもん。


(中に入ってお話ししようね……?)


 受付を済ませると、先に飛空挺の中に入って良いとのことであった。どうせすることも無いので、先に部屋に荷物を降ろしに行くことにする。


「うわー、やっぱりいつ見てもでっかいなぁ。これが飛ぶなんて、やっぱり魔法ってすごいよね」


 飛空挺とは、遥昔から存在する空の乗り物である。

 元々は、海で運行していた船を改造したのが始まりらしい。だからか、大まかな設計は殆ど船と一緒なのだ。

 底辺に術式を組み込んだ魔鉱石をくっつけて、船全体に魔力の層を作り、浮遊すると言う仕組みだ。基本的な飛び方は箒で飛ぶのと変わらないらしい。全く想像出来ないのである。


「中に売店も食べる所もあるし、さっさと入るか」


 フカフカの絨毯の上に、金色の刺繍が彩られ、いかにも豪華だと言わんばかりである。


「えーっと、部屋はーっと……あった。301号室ね」


 部屋の中は簡素な作りだが、逆にこっちのが落ち着ける。


「ぷはぁ! エーフィー凄いぞ! この世の中にこんなのがあるなんて!」


 ベッドの上でぴょんぴょん跳ねながらはしゃぐ星。中々の見ものである。


「ふふ、リンドはもっと凄いかもよ? なんたって城塞都市だしね。見れる時間あると良いなぁ」

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