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壁とは上手に付き合おう!

「ふーーーーー疲れたああああ。やっと苗巻き終わったーー!」


 まさか本当にタネがゴミ箱に成長するなんて。世の中摩訶不思議な事ってあるもんだね。品種改造したって言ってたけど、一体どうすればここまで出来るんだろう。


 公園の長椅子で座っていると、遠くの方からジャスティーが走ってくるのが見えた。彼も配り終えたのだろうか。


「やあエーフィー。もう配り終わったのかい?」


「うん! 結構体力使ったけど、こんな簡単な依頼なのに100万デルなんて貰っても良いのかな?」


「うーん、本当はもっと苦労する筈なんだけどね。ほら、魔術師は基本こんなの受けないから」


 そうか、魔術師でこんな事をしているのは自分くらいなのか。でもでも、普通の稼ぎに比べて随分高額なのはどうしてだろう。やっぱシャーリーさんの力なのかな?


「ズーン」


「どうして急に落ち込んだんだ? 良いじゃないか楽に稼げて」


 彼の言う事も最もである。

 けど、私は、誰かの力に頼り過ぎている気がする。

 こんなので本当に大叔母様の宿題を成し遂げる事が出来るのであろうか。


「ねえジャスティーさん。私ってどうすれば良いのかな」


「へ?」


 漠然とした不安が広がる。自分は結局何がしたいのだろう。

 学校を卒業して、大叔母様の宿題を終えて、莫大な借金を……返し終えたとして、その先は? 終着点が見えない。

 私が成りたい姿って、一体なんなのだろう。


「ごめん、質問変えますね。ジャスティーさんは将来って考えてます?」


「将来……か。とりあえず魔王を倒す事かな。それ以外は考えてないよ」


 けど、勇者にとってはそれが将来だ。

 偉大なる実績を残した者には、莫大な富と約束された未来がある。晩期によっぽどヘマさえしなければ、何世代にも渡る資産が形成されるのだ。

 例え、魔王を倒せなくてもね。


「ふーん……そうですか」


 体に元気が無くなってくるのを感じた。ひとまずこの仕事を終わらせ、シャーリーさんの所へと戻ろう。


「僕は、君はまだ目の前の責務に向き合う時だと思うよ」


 何気ない一言にハッとさせられた。

 思わず目の前の勇者の目を見てしまう。


「エーフィー、君はまだ、問題の壁を見ているに過ぎないんだ。漠然という名のね」


「壁……ですか?」


「そうさ。壁を破る方法なんていくつもあるだろう? 爆弾を使うもよし、体を鍛えて正拳突きをするのもよし、そして、魔法を使うも良しだ」


 でも、そのやり方が分からないんだ。実際爆弾で解決出来れば良いけど、現実はそう上手くは行かない。


「偉大な人物というのはね、一見壁を破壊する方法を沢山知っていると思うだろう? けどそれは大きな間違いなんだ。彼らでも超えることの出来ない壁は沢山持っている」


「超えることの出来ない?」


「そうさ! 足が悪い人、手が悪い人、目が悪い人。世の中には沢山の壁を持っている人がいる。けど、そんな状態にも悲観せず、楽しく前向きに生きている人達。実際には壁を乗り越えたわけでもないのに、周りから見れば壁を乗り越えてる様に見えるのさ」


 頷く事しか出来なかった。


「君はね、壁との付き合い方を知らないだけなんだ。馬鹿みたいに正面から向き合おうとし過ぎなんだよ」


 ジャスティーが続ける。


「僕は、全てを知っている訳でもないし、どんな人かも知らないけど。君にホッシーを託したマーフィー・マグ。彼女ですら星の解放という壁を乗り越えれなかった。けど、託す事は出来たんだ」


 そうだ、私は大叔母様から託されたんだ。


「あの偉大なる、歴代最強の魔法使い、マーフィー・マグでさえ解決出来なかった問題だ。そんな簡単に事が運ぶ訳ないだろう。全くエーフィーは焦り過ぎなんだよ。まぁ借金は可哀想だけど」


 彼の言葉には重みがあった。

 それは、しっかりと向き合った言葉の力。魔法など使いもしない、言霊の力。


「……なんか、ちょっとだけ元気が出て来たかもです」


「ふふん、それなら良かった。あ! そうだ、市長が配り終えたらそのまま帰って良いって言ってたよ。えーっと、ペグヴェームのシャーリー・エルマーさんだっけ? 彼女に払い込みをしておくだそうだ。それじゃ! 僕はこれで」


 それを言う為だけに、わざわざ自分の事を見つけてくれたのだろうか。なんて律儀な男、ジャスティーである。

 彼に、興味が湧いて来た。今度お礼をしよう。


「じゃ、私達も帰ろうか。ホッシーも退屈でしょ?」


「ううん、私は見てるだけでも楽しいよ! だって色々な感情に触れる事が出来るんだからね! なんだかエーフィーの周りはほっこりするなぁー」


 そういえば、最近ゲフュールを使っていない。

 でも、使わないに越した事はないのである。人の心を盗み見ている様で申し訳ないし。


「シャーリーさん横領とかしないよね……」


 すぐに帰って報酬を貰わなければ。

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