悪いのは君だ!
下水道に潜ってみたら、なんとそこには秘密の豪邸が!?
と訳が分からない状況に陥ってるのだが、これは自分と彼女、どっちの頭がおかしくなっているのだろう。
「あ……お茶、美味しいです」
いかにも金が掛かってそうな内装の中に放り込まれ、待つ事一時間。お風呂上がりであろうシーナ・ブルグが石鹸の良い香りを醸し出しながら、お茶を入れてくれたのだ。
「ふふん、流石に勇者には適当な飲み物は出せないからね。それなりに良い物を出させてもらったわ!」
彼女は一対一で向かい合いうと優しいんだ。でもエーフィーといるとガルルルルと牙を剥いてくる。人の変わり様は時として人種さえも超えてしまうものなのか。
「あのー……あの手紙はシーナさんが?」
「ええそうよ! 誰にも悟られない様にするの大変だったんだからね!」
「あの配達員さんはどうしてあそこまで怯えていたんだい?」
「うーん、裏に手を回し過ぎて、回し過ぎてー……なんか魔王の手先みたいな感じになっちゃったらしいよ?」
「そりゃぁぁぁぁビビるに決まってんだろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」
どうしていきなり魔王のアジトに招待されなきゃいけないのか。
「あのね、今日貴方をここに呼び出したのには理由があって……」
そう言ってシーナは小さな一冊の手帳を出して来た。厚い高級な皮に身を包んだそれを手に取り、恐る恐る開いてみる。
「んん……なになにー? 彼女に3メートル以内に近づいてはいけません? 彼女に触れてはいけません……? なにこれ?」
「聖典よ」
聖典じゃなくてただの束縛だろ。
「勇者!! ジャスティー・マンス!!」
「は、はい!!」
彼女の圧に思わず返事をしてしまった。
「彼女を……エーフィーを守るのよ……!!」
シーナの柔らかな手が勇者の手を取り、祈りを捧げる様に、胸の谷間の上にすとんと落とす。それは一見聖なる行いにも見えるのだが、純情な勇者にとってはただの邪念であったのだ。
(ああああああああああああーーーーーー!!! そんなあられもない所に!!!)
しかし、それこそシーナの巧妙な罠だったのである。
彼女は考えた。こいつなら色で落とせるんじゃね? と。
「ま、守るったってどうすれば!!」
思わずその場から離れてしまう。このままでは堕とされてしまうと、勘の良い勇者は本能的に察知するのだ。
「貴方には剣が、力がある。魔王に対抗出来る唯一の人間兵器。人類の希望。その力はお飾りかしら? 一人の市民も守れない程のものなのかしら?」
「ぐ……お……俺は!!!」
「今は知識が無いのね、それならしっかりと洗脳……じゃなくて教育してあげる。我が協会の聖典を、術をね」
それからみっちりと、勇者はシーナにしごかれる。
––––
––––––––
「ほら、狂いなさい」
「へへぇ!! 今日も彼女を邪な目で見た奴の血は美味いぜぇーー!!!」
「ふ、良い感じに仕上がって来たわね。あともう少しよ!」
シーナは気付いていないが、勇者がここまで彼女に付き合ったのは単純に暇だったからであるが、彼はそれを表に出そうとしない。
(中々に新体験……! これがカルトに入るって事なのかー! 勉強になるなー!)
つまり、今度から信徒には優しくしようって事なのだ。
彼らは宗派の為なら戦争をすーぐ起こしちゃうが、こうして見ると一番悪いのは教祖である事が分かってしまう。
見てみろ、あの欲に狂った目を。
「ふっふっふ、これでエーフィーの身の安全は守られたも同然よ。後はしっかりと信徒を増やし、一ミリの危険も介入させない様にしてやるわ! 待っててねエーフィー!」
こうして、シーナはジャスティーを新たな仲間に迎え入れるのであった。
今の彼女は、ただ強い味方を引き入れただけだとほくそ笑んでる。が、時を重ねる事に、彼の使命や、葛藤に触れて行く度に、次第にジャスティーの純真な正義感に惹かれているのを自覚する。
ジャスティーもまた段々とシーナの人柄に魅了され、心の苗が花を咲かせる様に、彼女に想いを馳せる日々を過ごしていくのだ。
将来的に、シーナとジャスティーは国を挙げた壮大な婚姻式を催すのだが、それはまた別のお話しである。




