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呼び出しと罵倒。しかし彼はちょっとMっ気なのである。

 ある日の事、勇者のちょっとぼろい家の前に、一枚の手紙が送られてきた。心当たりのない勇者は配達員に問う。


「ん? 宛名が無い。これはどこからのご依頼ですか?」


 配達員は少し怯えているみたいだった。唇が震え、何かを喋ろうとしてもすぐに思い返すように口元を押さえ、変な独り言をぶつぶつ喋っている。


(……なんなんだ? この嫌な感じは)


 彼は勇者と呼ばれるだけあって、一般人よりも勘が鋭い。すぐにこれが異常な事だと気付くのであった。

 手紙を受け取ると、配達員は逃げるようにその場を去っていった。しかも、彼は去り際にとんでもない一言を放つ。


「へ、とんでもねぇ奴らと関わっちまったな」


 勇者がその言葉を聴き逃す筈も無く、配達員を捉えて尋問しようとしたが、彼の怯えている表情に情が湧き、逃してしまうのであった。

 勇者はこう考える。彼も脅されているのだと。


「……とんでもねえ奴らか、そんな組織と関わった覚えはないのだがな。もしかして爺様の縁かもしれん。それはそれでかなりの面倒だ。俺に振らないでほしいな」


 勇者は踵を返し、ちょっと臭い家の中へと入っていく。

 どうやら今日の晩ご飯はカレーらしい。スパイスから作ると匂いが部屋に篭って大変なのだが、所詮は男の一人暮らし、換気と言う概念がないのである。


「手紙……開ける前にカレー食うか」


 魔女の大釜の様な勘無しの大きさの鍋しか持たない勇者、ジャスティー。長い杓子を使い、底辺が焦げない様にしっかりと具材を混ぜ合わせる。

 ご近所のおばあさんから貰ったニンジン。今の季節だとフルーツの様な甘さが特徴なのだ。だからちょっと今回は辛口仕様。


「ん、んまいな」


 小皿に取って味見をする。良い香りに舌鼓。ピリピリと舌の上で辛さが踊る様に舞っているのだ。これは大成功。

 お供はちょっと硬めのパン。これをカレーに漬けると良い感じにふやけて食べやすくなるのである。


「いっただっきまーっす」


 今日は休日なのもあって、意気揚々と手の込んだ? 料理を作ったのだが、アホみたいな量を作ったおかげでかなり早めに処理をしないといけないのを彼は気付いていない。意外や意外、カレーは意外と保たない物なのである。


「パクパクもぐもぐ」


 だが、血気盛んな食べ盛りの青年にとって、この手の量など朝飯前なのである。魔王を討伐するため、日頃から厳しい訓練に明け暮れてるジャスティー。体は食べ物を求めているのだ。


「ぷはぁ、半分以上食っちまった。ケップ。さて、手紙を開けるかな」


 バリバリと緊張感もなく適当に紙を破るジャスティー。


「ん?……これは!?」


 そこに書かれているのは、訳の分からない数字の羅列。


「どこかで見た事があるな……そうか! これは座標番号だ!!」


 数字から読み取る。エーレの役西側になるが、それでも中心地からかなり近い。こんな場所のヤバイ組織のアジトでもあると言うのだろうか。


「行って……見るか。なーに、食後の運動だと思えば良いさ。大した事ない」


 彼にとって、犯罪者など紙切れ同然。伊達に勇者ではないのである。

 

「剣も一応持って行こう」


 彼の得意とする技、それは剣に魔力を込め。威力を高めると言う単純なもの。だが、その破壊力は絶大で、今までどんな魔物と対峙しても負けはしなかった。

 これを攻略出来た者は、たった一人しかいないのである。


「よし、準備バッチリだ! 行くぞーーーー!」


 一人で虚しく号令を挙げながら、現場へと向かうジャスティー。果たして彼に仲間は出来るのであろうか。


——

––––––––


「っと、この下か? 下水道じゃないか」


 いかにも犯罪者らしい所に潜んでいる。確かにチンケな奴らは臭い所を好むかもしれない。早くやっつけて家に帰りたい。


「ん……?」


 下水道に入った瞬間、かなりの違和感に襲われてしまった。本来ならあるべき場所にある物が無いような、明確な居場所を間違えている印象を受ける。


「あれ? 臭くないぞ? それに流れている水もかなり綺麗だ。しかも照明もやたら明るい。空調も聞いているし、どう言う事だ?」


 すると、どこからともなく曇った声が聞こえて来た。


––––勇者ジャスティーよ、よくここまで来られましたね。正直地図とか絶対読めないであろうと思っていましたが、期待以上の動きです。合格ですね。基本知能指数30位上はあるとみました。まぁ貴方の為に基準値は教えない様にします。


 いきなり変な声が喋ったかと思えば、コケにしてくるなんて中々挑発してくるじゃないか。

 まぁ? 確かに馬鹿なのは否定しないけどね? でもさ、人の能力なんて掛けた時間じゃん。自分は勇者として全うする為に、基本は戦闘能力に重きを置いたのよね。だから決して元からという訳ではなくてね、仕方のない後天的な事なのだよ。


「ふ、馬鹿にしてくるじゃないか。だが、数字だけでは判断出来ないのが勇者の力、隠れてないで姿を見せるが良い!!」


 今度はこっちが挑発する番だ。言われっぱなしも尺だし。


––––おお、勇者ジャスティーよ。普通の一般的な人でも考えたら分かる事なのだけれど。もしも? 仮によ、悪の親玉がいたとして、こんな所で姿を表すと思う? ふつーに考えてそれはないと思わない? ああ思わないか。だって女性をひん剥く事しか考えてない頭と股間が直結してる程度の脳みそなんだもんね。ごめんごめん、変な事期待し過ぎちゃった。だから脳筋って嫌いなのよね。ちっとも冷静に理屈で考えようとしないんだから。はぁ、もう面倒臭いからそこにある扉から入って来て頂戴。じゃ」


「うぅ……ぐすん」


 なんとなく犯人は誰か分かってしまったが、それ以上に精神に傷を負うジャスティーなのであった。

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