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秘密結社「エーフィー協会」

 ここ最近、エーレに移住してくる人達が後を経たないだそうだ。市長として市民が増えるのは喜ばしいことではあるのだが、問題が無いとは言えないのである。それが今回貰った依頼の街の大掃除だ。


「なるほど、このゴミ箱を至る所に設置してくれば良いのですね」


 ゴミ箱と言っても、貰ったのは小さな花の苗である。これで一体どうしろと。


「その苗はね、特殊な術式を組み込んであるんだ。どこでも良いからその苗を放り投げて、その上からこの瓶の水を掛けてご覧。するとあら不思議、一瞬でゴミ箱の完成なのさ!」


 そう得意げに話すのは、このエーレの市長、ヘンティーさんである。一見なんてことない普通の優しそうなお爺さんに見えるのだが、シャーリーさん曰く、夜の女の子達と毎晩飲み歩いているそうだ。とんでもない奴である。


「これを三十個ですか。うへぇ、結構な手間が掛かりますね」


「でもゴミ箱とは単純で良い提案だよ。ゴミ拾いなんかいくらしても解決にはならないからね。捨てる環境を整えるなんて、流石市長だ!」


 ジャスティーは素直に感心しているみたいだ。

 だが裏の情報を聞いた私はそう受け止めれないのである。


「ジャスティー君は素直で良い子だなぁ! それに比べて……」


 下から上まで舐めるような視線に嫌悪感を覚える。その視線は吟味している視線だ。いやらしい下心が透けて見える。


「いや……ドストライクだ」


 ぼそっととんでもない事を口走ってるのを聞き逃さない。瞬時に全身に鳥肌が立ってしまった。早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいである。


「じゃ、じゃあ私はこれで……地図は秘書さんから貰いますね!!」


 早足でその場所を離れた。急いで階段を降り、受付にいる美人なお姉さんから地図を受け取ると、さらに早足で市役所を離れた。


「うえー……百歩譲ってもシーナやエラから性的な目で見られるのは許せるけど……あんなお爺さんは嫌だなぁ。うわぁまたゾッとして来た」


 にちゃあと獲物を狙う鋭い瞳、気を付けなければならない。


「えーっと、とりあえず最初の一個はっと……」


 気を取り直して仕事を進めていく。まぁ今回は報酬も莫大だから多少の身の危険は許容しなければいけない。何たって100万デルだ! 私の取り分が8、シャーリーさんの取り分が2という破格の設定である。でも冷静に考えてみたら、シャーリーさんただ行きたくなかっただけじゃないのか。


––––

––––––––


「く……小僧!! 離せぇ!!!」


 エーフィーが去った後、勇者は間髪入れずに市長の首を掴み、体ごと持ち上げた。

 市長は悟る。この若者の瞳には本物の怒りが秘められている事に。


「おい、貴様さっきエーフィーを汚らわしい目で見ていたな? もし彼女に手を出してみろ、公衆の面前で裸にひん剥いて絞首台に足から吊り下げてやる」


「ひっ……! 分かった! 分かったよ! 頼むから降ろしてくれぇ!」


 みっともない声を上げる市長を憐んだのか、本来なら腕の一本くらいへし折ってやろうとしていた勇者は、突き飛ばす様に床に落とすだけで勘弁してやろうと考えた。


「市長ヘンティーよ、よく聞いておけ。このエーレにはな、秘密結社「エーフィー協会」というのがあるのだ」


「エッッッッッエーフィー協会!?!?!?」


「ふ、聞いて驚いてしまったか。まぁ知らないのも無理はない。何せかなりの秘密結社なのだからな。だが、規模はこのエーレを既に呑み込んでいる」


 市長の汚い額から、一滴の汚い汗がポタリとこぼれ落ちる。床も嫌がって吐きそうな表情を醸し出しているが、可哀想な事に、彼らにはその手段が無い。


「そ……そんな物が……このエーレに……!!」


 市長は知らなかった。このエーレを襲う闇に。

 だが、彼は幸運な事にも気づく事が出来てしまった。この領域に足を踏み込んではいけないと、彼ら彼女に決して関わってはいけないのだと。


「く……目的は何だ!? このエーレを……市民をどうしようって言うんだ!?」


「ククク……ハーーーーーーーっっっはっはッハ!!! ハハハハ!!!!ゴホォ、ゲホン!!」


 市長は怯えてしまった。勇者のあまりの奇行ぶりに。

 きっと、宗教か何かなのだ。彼は、操られているんだ。だって目が尋常じゃないほど狂っている。あれは信仰に重きを置き過ぎてしまい、盲目な信徒として育て上げられた、哀れな人の末路。


「どうするだって? クックック、そんなの簡単な事さ」


 にわかに信じられない光景だった。

 勇者は懐にある剣を取り出し、刀身を舐め回し始めたのだ。


「へへ、彼女を邪な目で見た者の血の味がするぜ……ぺろり、ペロペロ」


「わ……分かった……! 私は知らない、私は関わらない。私は何も聞いてない!!」


 怖くて、逃げ出したかった。

 終わりなのだ、勇者が変な宗派に洗脳されてしまった。これで魔王の討伐は遅延を繰り返し、数々の死者が出てしまう事だろう。


「ああ……神様……お助けください……我らを……」


 市長は神に祈る事しか出来ない。


「はは、それで良いんだぜぃ。じゃ、僕もタネを配ってくるかな」


 勇者はその場を後にし、エーフィーの後を追いかけるのであった。

 何かトラブルがまた起こるかもしれない。彼女はまだ駆け出しだ。きちんと見守ってやらなければ、契約違反で罰金させられる可能性だってあるのだ。


「これで良いんですよね? シーナさん……」


 エーフィー協会とは、シーナ・ブルグが設立した、かなり身勝手な協会である。

 メンバーは今の所、シーナ含めた三人「ジャスティー・マンス」に「エラッソ・モイツ」

 しかもタチの悪い事に、この三人ともかなり位が高く、エラッソに限っては。「全財産を投入しますわーー!!」と言う始末なのである。


「そこまでするなら借金払ってあげれば良いのに……」


 当然の問いだが、彼女らの性癖はねじ曲がり過ぎてトルネード。


「エーフィーの追い詰められる表情か……そそる」


 じゅるりと、一致団結してしまったのである。


「それで僕が騎士か……とほほ」

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