ありがとう! 君は大事な友達さ!
料理はまさに完璧と言わざる得ない物であった。
ハーブで臭みを抑えたローストビーフ、塩味も自分好みだ。備え付けの柔らかなパンで挟んで食べたのだが、周りのソースだけでも舐めまわせるほどの美味さ。こんなのどうやって作っているのだろう。
「うふふ、お気に召したみたいですね。どうでしたか? 我が自慢の一品は」
鼻をふふんと鳴らしながら、どーだと言わんばかりの表情を作るエラ。まぁこれは確かに何も言い返せない。
「さすがだなぁエラは。凄いなぁ〜〜。この遊園地もそうだしさ、私と住む世界が全然別物だよ!」
手放しで褒めてみる。
「エーフィー、次はこちらです。食べたばかりで申し訳ないですが、ちょっと階段を登りますわよ」
エラに言われるまま付いていく。
扉を開けると突風が襲ってきた。この風はよく箒に乗っているときに受ける風だ。
「お、屋上? ってうわーー!! スッゲーーー!!」
思わず走り出す。
下を見ると、それまで歩いてきた遊園地の全体像が絶景の名の下、広がりを見せていた。
昼でこれなのだから、夜になればもっと凄くなるのではないだろうか。一つ一つに明かりが付き、幻想的な夜景を見せてくれるはずだ。
「エーフィー、貴方に見せたかったのはこれなのです。これを見てどう思いますか?」
「え? どうって……すげーとしか、うーん。エラは凄いなぁ」
「なっ……!! ええい! 今は真面目な時間なのですよ!」
いや、勝手に拡大解釈をしているのはエラの方なんだけど……。いくらシーナでも今のセリフで顔真っ赤っかになんてならないぞ?
「ふぅ……もう貴方って人は」
エラがゆっくりと前の手すりまで歩き、目を細め、しっかりと遊園地全体を眺めていた。
「最初は……絶対できっこないって言われてましたの」
「え?」
「色々な人から反対をされましたわ。お前には出来ない、規模が大きすぎる、絶対に失敗する、とね」
まさか、この世で彼女にそこまで言える人間がいるなんて思いもしない。なんたって世界で希少な魔法使いの中でも、トップに躍り出ることの出来るAランク魔術師なのだから。あ、今はSランクか。尚もっと凄い。
「でも、いくら不可能と言われ、周りから罵られようと、私は諦めませんでしたわ。これ、モイツ家の資産で作ってると思うでしょう? 実は違うの、別で事業を行っておりまして、全部自分で稼いだお金で作りましたのよ?」
「は!? えーーーーー!?!?!? まじで!?!?」
思わず乙女とはかけ離れた声を出してしまった。
「それ学校とか行ってる暇無いんじゃ……」
「いいえ、そんなことないですの。それじゃぁそのゴニョゴニョゴニョ(エーフィーの顔を見ることできないじゃないですの!)
また赤面しているから、きっと自分のことなのだろう。
とんでもない女に惚れられちまったもんだぜ!!
「お、おほん! よ、要はですね! 人に不可能など無いのです!! 貴方ももっと努力すれば必ず成果は出ると伝えたかったのですわ!! あ、でも努力はやり方を間違えると普通に裏切りますわよ。そこは履き違えたらいけませんわ!」
プクク、一生懸命説明している顔のなんと可愛らしいこと。
でも、なんだか元気が湧いてきた。
「ありがとう、ごめんね心配させて。まさかエラがこんな事してくれるなんて思ってもみなかったなぁ〜。学校ではいつもツンケンしてるのにさ!」
「な!? ああああああれは違いましてよ!? よく男の子が好きな相手にちょっかいを掛ける原理と同じでございましてって何を言わせるんですかあああ!!!」
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「じゃ、今日は本当にありがとね。元気出たよ」
再び小型艇に乗せられ、元の公園へと戻ってくる。
初めて彼女と一緒の時を過ごしたが、割と楽しかった。今度ホッシーでも紹介してみよう。びっくりしすぎて腰を抜かしてしまうかもしれないけど。
「うふふ、頑張ってくださいまし! セバスチャン! 帰ったら仕事の続きを行いますわよ!!」
ふわりと小型艇が浮き、地上から離れる。
「それじゃあエーフィー、ご機嫌よう。また一緒のお食事でも行きましょうね」
そのままビューンと飛んで行ってしまった。忙しい女の子である。
「ぷハァ! ……なんだか嵐の様な人だったね! 良いなぁ、あのお肉私も食べたかったなぁ」
「ごめんねホッシー。こそっとあげたかったけど、中々隙が見つからなくてねぇ」
いきなり肉を鞄の中に入れ始めるなんて狂人の極みである。
「あのさエーフィー、どうして彼女とそこまでの仲になったんだい? 物凄い好意を向けて来るじゃないか。過去に何があったの?」
「うーん、きっと何かはあったんだろうけど。私の記憶ではね……」
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入学から半年後。
マギシューレンではたまに体育の授業がある。私の科目は主に基礎体力の向上。
「あちゃー、怪我しちゃった。やっぱり球技は苦手だなぁ」
バットで小さな球をおもくそ打ち上げる競技だ。球が小さすぎて掴めず、そのままおでこにクリーンヒット。見事なタンコブが出来てしまったのだ。
「およよよよ……痛いなぁ」
保健室に向かう途中、自分の着替えを行う教室の前を通りがかる。
どうせならと、自前のコーヒーで一杯やるかぁと教室に近づいてみた所、中から蠢く影を見つけてしまったのだ。
「は! もしかして変質者!? く……逃げられる前にせめて顔は見ておかないと……!! そして先生に報告しなくちゃ!」
そろりそろりとゆっくり横開きの扉を開ける。僅かな隙間から必死に犯人を探し出した。
「ん……? あれはエラじゃない。こんな所で何をしているのかしら」
彼女がとある机の前に立っており、何かを自分の顔に押し付けているのだ。
「あれって……私の服……?」
何をしているのだろう。しばらく観察してみるか。
「ああ……これがエーフィーの匂いなのですね……!! クンカクンカ、クンクンクンスゥーーー………ハァっーー。なんて良い香りなのかしら!! 彼女のいつも使っている香水に加えて、洗濯物の洗剤の香りが見事にマッチングしておりますわ……!! スゥーーハァああああああああ! 我慢できませんわ!!! 持って帰って家宝に……は! でもそんなことをしたら彼女の着る服が無くなって可哀想じゃありませんか! く……! 角なる上は……じゅるり、ペロリ、この味覚を一生涯脳味噌の中に刻み込んでやりますのよ。ええ、そうするしかないじゃ無いの。ちょっと唾液が染み付いても普通なら気付くはずもないですわ! ああでも聡明な彼女ならもしかしたら気付くかもしれないわね。いやでも結構ぼーっとしてるから……ペロリ あっはああああああん!!! たまんないですわーーーーーー!!!!!」
(ひ、ひいいいいぃぃぃ………ひいいい……ひえええええええ!!!!)
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「つまり! エラは私の事を性的に見ているのよ!」
「エーフィー、貞操だけは気をつけてね、まじで」




