やっぱ金持ちってのは違ぇなぁ
「さ、着きましてよ。降りてくださいまし」
「おお、なんか色々とでっかいなぁ」
エラに降ろされた所、まだ看板に「開発中」との文字が書かれている。
上には「ようこそ」と書かれたアーチ状のボード。豪華絢爛な飾り付け、人が横に三十人は並んで立てるくらいの大きな門。
ここは確か、モイツ家が所有する土地である。去年辺りから色々と事業を起こしているとの噂は聞いていたが、まさかこんな建造物を建てようなど誰が予想できたであろうか。
「ふっふっふ、驚いておられますねエーフィー。そう! ここは私が考え出した子供や大きい子供の為の一大エンターテイメントテーマパーク!! その名は「モイツーランド」ですわっ!!」
「モッ、モイツーランド!?」
どどん、と胸を張り、自慢げに鼻息を荒くしている所悪いのだが、いくら何でも名前がダサすぎやしないだろうか? いや、それが彼女らしいと言えば彼女らしいのだ。
「目的地の場所はこの最奥ですわっ! では、施設をご案内するわね」
ほほう、なるほど。体験型の機材が沢山並ばれている。この大きな丸いのは観覧車というらしい。なるほど、あの高度から見る景色はまさに絶景。夜景なんてもうため息が出てしまう程である。
次のエリアは水系のアトラクションみたいだ。
首が痛くなるほどの上空から、水を使った滑り台で一気に下降するらしい。そう言えばもうそろそろ夏真っ盛りの時期に突入する。水浴びなんてとても気持ちよさそうだ。
「ここですね、冬には温水が流れる仕組みになっていますのよ。決して夏だけではないの。年中遊べる所じゃないと意味がないわ」
「へー……すっごい。夏になったら私も遊びに来ようかなぁ。あ、でもどうせ入園料は高そうだし、遠慮しておくかなー」
(な! 何を言ってるのよエーフィーは! 貴方なんて当然タダに決まってるじゃありませんか! 何せエーフィーの水着姿がタダで見れるのですのよ!? あの透き通った透明の肌、張のある膨らみ。お月様みたいな印象なのに、そんな子が煌びやかな太陽の元、活発に動いてる姿なんて見過ごすなんてこと決してあってはなりませんはうへへへへへへじゅるりあーよだれが出てきてしまいましたわ!」
何を考えてるかは分からないが、途中から丸聞こえだったのは黙っておく事にしよう。とりあえず今年の水着は布面積の少ないのを選ぶしかなさそうだ。
「おお、このエリアはなーに?」
「ご覧の通り、飲食の区画ですわ! 世界中から腕に自信のある料理人に来て頂きましたの。何せエーレを代表する施設ですからね。食文化で国は分かります。エーレこそが世界で一番のグルメ国だというのを分からせて分からせてやりましょう!」
さっきまでよだれを垂らしていたのに、今は瞳の奥に炎が揺らめいてるのが見える。エラは表情豊かだななぁ。
「で、目的地はこのさらに奥。あの建物が見えるでしょう?」
細長い棒の様な四角い建物。さっきの観覧車に匹敵する高さだ。
「おおー! 高いね! あそこは何をする所なの?」
「当然、この様な場所ですもの。各国のお偉いさん方も沢山いらっしゃるご予定ですの。その様な方達の為に、所謂特別来賓のおもてなしをするために建造しましたのよ」
えー、ここってそんな重要な施設だったんだ。ただの遊園地かと思った。
「ま、それは上層の話ですけどね。中部から下部は、宴会場でしたり、結婚式場でしたりを作っていますの。一般客も泊まることの出来るホテルも兼ね備えていますのよ」
「ふわぁー……。こんな所で結婚式を開けるなんて、本当に夢見たいな出来事だね!」
すると、エラがメモ帳を取り出し、鬼の形相で何かを書き始めた。分かった、下手なことは口走らない方が身のためなのだな。
「じゃ、じゃあ中に入ってみようよ! 上まで行って良いの?」
「もちろんですわ! 目的地はこの最上階。一気に駆け上がりましてよ!」
扉を開けると、輝かしい大理石の様な床に、落ち着いたシックな壁紙。至る所に芸術的な一品の絵画や花が置かれている。魔法の力で浮かせているのか、台は無い。
「えーっと、何これ? この中に入れば良いの?」
「ええそうよ!」
自動で開く鉄の箱に閉じ込められたかと思えば、いきなり動き出すてびっくりしてしまった。耳の圧からして、どんどん上まで登っていってるのだろう。
(ウヘヘ、今はエーフィーと二人で密室の状態! こんな千載一遇のチャンス、滅多に訪れないですわ! あぁ……今日もなんて良い香りがするのかしら! 一生嗅いでいたい……止まらないかなぁ。それで閉じ込められないかなぁ。じゅるり、とーまーれ! あっそれとーまーれ!! とーまーれ!!」
シーナもそうだが、たまにこうして欲望をだだ漏れさせるのはわざとなのだろうか。しかも、美味しい物を見るかの様に口元を麗せている。たまに本気で恐怖を感じる時があるんだよねぇ。
チーン! と到着の合図が鳴り、扉が開く。エラが一瞬だけ舌打ちしていたのは突っ込まずにしておこう。
「お待ちしておりましたお二方、どうぞこちらへ足をお運び下さい」
そこには、先にコウモリの様に滑空して行ったセバスチャンの姿があった。
さらに、案内される部屋に近くにすれ、良い香りが漂ってくる。
木目の思い扉が開かれる。
そこにはこじんまりとした小さな四角い二人用のテーブル、中心には大皿に銀の被せ物をしたのが置かれており、横には小皿とナイフとフォーク一式が一切のズレも無く置かれていた。
「ささ、お食事のご用意が出来ております。冷めない内にお召し上がりください」




