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世の中腐ってやがるぜ!

「あらあら、大変な目にあったねぇ。怖かっただろう」


 シャーリーに強く抱きしめられ、窒息死する間際で何とか顔だけ脱出する。これはこれで命がけである。


「ええ……まさか勇者に襲われるなんて思ってもみなくて……友達が駆けつけてなければ今頃どうなっていたか」


 あの後、勇者の剣は別の人が持って行ってくれたらしい。しかし、あの邪悪な存在が本当に魔王を倒す者なのかと思うと、正義とは如何なるものかと考えさせられる。

 だが、いくら勇者でも世の中には勝てないだろう。今日の裁判はシーナが弁護台に立ってくれている。ブルグ家の令嬢と言えば人々も味方になってくれるだろう。


「まあこれにておつかい終了ね! 良くやったわエーフィー、これから色々な仕事が貴方を待ってる。とりあえずこれで遊んできなさいな」


 今回の報酬として、1万デルを受け取った。


「おお、相場がいくらか分かりませんが、これで多少生活が楽になります!」


「もっと難しい依頼があれば、その分報酬は大きくなるわ。仲間を集めて挑むも良し、一人でするのも良し。これが便利屋の仕事よ。やり甲斐があるでしょう?」


 確かに言う通りだ。

 一攫千金を狙うのなら、この手の仕事は持ってこいだろう。その内もっと強度な魔法を勉強して、遺跡の調査などの依頼も受けてみるのも面白いかもしれない。


「はい! ありがとうございます! では私はこれで、一旦家に帰りますね」


 久しぶりの我が家。

 そういえば失念していた。今日くらいに鑑定の結果が出るんじゃなかったっけ。


「後でエーデル院長の所に寄るかぁ。ふあ〜何だか眠いなぁ……」


 昨日からきちんと睡眠を取れていない。今は寝ておくのが先決である。


「このベッドで寝れるのも後何日かな〜……。にしても毎日濃ゆ過ぎて時の流れが遅く感じるよ」


 天井を見上げる。何度も見たこの景色、今度から見られなくなると思うと寂しい気持ちで一杯になる。


「ん、どうしたんだいエーフィー。不安で眠れないのかい?」


 枕の横でホッシーも一緒に寝ている。今まで色々あったが、君の存在が一番大きいのだよ。


「うーん、不安といえば不安だね。ついつい考え込んでしまうって言うか。本当にこれから先やっていけるのかって思うとね……」


「そうなんだね! でも大丈夫さ! 君には私が付いてる! この最高の一番輝く星がね!」


 よくもまあそこまで自分を持ち上げれるものだ。

 でも、実際にあの鍛冶屋でホッシーはとんでもない実力を見せてきた。自分の何倍もある魔力の塊。一体どんな存在なのだろう。


「はいはい、頼りにしているからね。じゃあおやすみ」


––––翌朝。


 呼び鈴の音で目が覚める。このボタンの押方はシーナだ。


「はいはーい、ちょっと待っててねー」


 相変わらず鼻ちょうちんを作りながらホッシーはグースカ眠っている。気持ちよさそうな寝息だ。邪魔したら悪い、そっとしておこう。


 扉を開け、シーナを中に招き入れた。きっと裁判の結果の報告だろう。


「シーナ? シーナ? どうしたの俯いちゃって」


「……勝てなかった」


 シーナは両手で顔を隠し、その場に座り込んでしまう。


「うう……勝てなかった……ごめん、ごめんねエーフィー」


 つまり、勇者は無罪となった訳だ。


「ううん、いいのよシーナ。全力で庇ってくれたんだもん。その気持ちだけで嬉しいよ」


「でも、でも……あの勇者またエーフィーを襲うって……。しかも裁判長とぐるだったのよ! 信じられない!」


 うう、また襲うってほど怖いものはない。これからはしっかりと自己防衛に務めなければ。


「世の中腐ってるね……。でもね、そんな中シーナみたいな人がいてくれるだけで私は救われるんだよ? 元気だしなよ! 勇者なんて返り討ちにしてやるんだから!」


 たまにやらしい目で見てくるのは別だけどね。でも好意が突き抜けてるのは本当に嬉しい。


「ってちがああああああう!!」


 突然後ろから大きな声が聞こえてきた。その見た目には覚えがある。


「違うんだ!! 君達!! 誤解なんだよ!!」


 そう、勇者である。


 なんと、目の前の勇者はいきなり土下座をし始めたのだ。これにはびっくだ。だが油断してはいけない、こうやって相手の心に付け入り、チャンスを伺ってる可能性も否定は出来ないのだ。


「ひ!」


 頭を地面に擦りつけ、お尻は上がり、なんとも変態的なポーズに不気味さを感じる。本当に謝る気があるのだろうか? いややっぱり罠だ! 近づいた所をズドンなのだ!


「な、なあ。俺の話を聞いてくれよ。本当に誤解なんだってば!」


 間髪入れずにシーナが声を上げる。


「なんてデタラメを! 聞いてたんだからね、裁判長との話し! 二人してエーフィーを捕まえて……何を企んでいたのよ!!」


「違うんだって! 確かにあの場面だけ切り取って見れば俺は変質者だろう。けど違うんだ。その子に悪魔が取り憑いていたんだ! それを退治しようとしたんだ!」


「ふーん、それが何で鼻血を出しながらシャツのボタンを開けるにまで至った訳? しかもダッシュで逃げるし」


 二人して大喧嘩だ。


「それは……気が動転して。誤った判断だとは反省しているよ。でもいたんだ! 本当なんだ! 星の悪魔が彼女の中に入っていくのを見たんだ!」


 ん? なんだって?


「は! 今度は星の悪魔と来ましたか。それはそれは一生懸命言い訳を考えてきたんですね。嘘を吐くならもっと––––」


 シーナが言いかけて止まる。何故かこちらを見ているのだ。


「どうしたの? シーナ」


「あの、エーフィー。以前星の金属を抱きしめて独り言を言っていたわよね? あの星はどこに行ったの?」


 あーーーーいたたたたたたぁあああ。しまった! そういえばそんなこともあったっけ。


「へ? ああ、あれはね––––」


 しまった、何も言葉が浮かばない。シーナにはまだ話していなかったのだ。というよりも誰にも話していない。


「ねえエーフィー。そのお星様。持ってきてくれない?」


 ヤッベえええどうしよう。

 いや待てよ、何も隠す必要ないじゃないか。ここは正直に話すべきである。


「……はーい。ならさ、その人見張っててよ」


 とりあえず家の中に入り、息を整えた。

 勇者は勝ち誇った顔をしながら、シーナに言葉を並べている。


「ホッシー、聞いてた? どうしようか」


 胸の谷間からニョキッと鋭角が出てくる。その位置熱くないのだろうか。


「ふーむ、どうしたもんか。なんとなくエーフィー以外にはバレない方がいいかなと思ってたんだけど。この際、喋ってもいいんじゃないかな」


 いいのかホッシー。あの様子じゃ勇者に切られてもおかしくないかもだぞ。


「それなら、今度はきちんと喋ってよね。前みたいにダンマリは嫌だからね!」


 家から出る。

 痴話喧嘩かと言わんばかりにシーナと勇者の口喧嘩は揺らめく炎の様に過熱を極めていた。


「何よ! 勇者の癖に! さっさと魔王を倒しに行きなさいよ!」


「なんだと! 魔王はそんな簡単に倒せる相手じゃないし、東の魔王城では徐々に魔物達も復活しているんだ! 脅威なのは何も魔王だけじゃない、その周辺の魔物だけでもかなりの強さなんだぞ!」


「ふーん、そう。まあ、可憐で素敵な一人の女の子を夜道で襲うしか能のない勇者なんてそんなものよね。知ってた」


 うぎぎぎーー! と白い歯を立て悔しそうにしている勇者。いやまあ正義感の塊だというのは分かったよ。


 扉を閉めた音に反応し、二人の視線がこちらを向く。ドキドキの緊張の瞬間である。


「はいこれ、これが貴方達が見た星の金属、ホッシーよ。ほら挨拶なさい」


 両手から放たれ、空に浮遊したホッシーはまたもや胸の谷間へと着した。そんなにそこがいいか。


「よう、初めまして、星だぞ」


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