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いきなりそんなこと言われたって

––––星よ、精霊よ、我に力を与えたまへ。業火を司る自然の力、滾る情熱を手中に具現せよ! ファイ!


 掌からほんわかな炎が溢れ出してきた。揺らめく陽炎がチリチリと視界の中に入ってくる。ひとまずは成功だ。ここまではね。


「はあああああ!」


 掌の炎を訓練人形に向かって投げ込む。本来ならそのまま直進し、あらゆる物を燃やし尽くす炎の魔法は、見事に90度真下に向かって勢いよく落下していくのだった。


「はい、試験終了です。相変わらず問答無用にFランクですね。次も期待していますよ、エーフィー・マグ」


「ガーーーン!! そんなぁあああああ」


 変わらない日常の風景が、またもや繰り広げられている。魔法の才能がとことんない私に取っては打ち破りたい日常なのだが、現実はそう甘くないのである。


「ハァァ……––––またFランクかぁ……全然進歩しないなぁ」


 ついついその場で項垂れてしまった。こうも努力が実らないと、いくらポジティブの塊である私でも、流石にへこんでしまう。


「こら! エーフィー・マグ! 次の生徒が控えているのですよ、早く退室しなさい」


「はーい……わかりましたよー」


 教員の叱責を背に、ガラス細工が施された扉を開け、トボトボとその場を後にした。


「はぁ……なんでこんなにも出来ないんだろう、嫌になっちゃうなーもう」


 今日のカリキュラムはこれで終わり、明日からしばらく春休みに入るのだが、当然Fランクである私にはそんな悠長に休む暇も無く、せっせと毎日勉強に費やしなければいけない。ギリギリなのである。


 背中を丸めがなら廊下を突き進むと、大きなエントランスに出た。国一番の学院なだけであって、装飾も豪華で走り回れる程の広さである。その中心に、最近出来たばかりのこれまたでかい石像が、祀られているかの様に鎮座していた。


––––偉大なる魔法使い、マーフィー・マグ。ここに眠る––––


 石造の真下のネームプレートに、そう書かれてある。

 そう、この祀られるほどの偉大な魔法使いは、私の親族なのだ。


「大叔母様、凄いなぁ、尊敬するなぁ」


 下から見上げた石造の顔が、いつもより顰めっ面に見えるのは、今の自分の心を反映しているからだろうか。

 

「はぁ、それに比べ私ったら……は! いけないいけない! こんな気持ちじゃ何やったって上手く行かないよ!」


 と、空元気を注入してみるものの、深層意識はそう上手くコントロール出来るはずもなく……。


「はぁ」


 溜息ばかりついてしまうのだった。


「おーい、エーフィー、おーい」


 背中から自分を呼ぶ声が聞こえた。この声はいつもの声、小さい頃からの友達であるシーナの声だ。


「あ、シーナ、こんにちは。今日もいい天気ね……」


「何その挨拶!? ……ははーん、さてはまた試験ダメだったな? ねえねえ今回はどうだったの?」


「ふーんだ! どうせ万年Fランクですよーだ! いいもんいいもん」


 いじけてそっぽを向いてしまった。まだ少しでも現実から目を背けたいのだ。目の前の結果に引きづり戻されるのはちょっと精神が和らいだ後なのだ。


「まぁまぁ……後でお向かいにあるシュークリームご馳走してあげるからさ、元気だしなよ」


「シュークリーム!? まじで!? あの微妙に高くて微妙に手が出しづらい値段設定のケーキ屋さんのシュークリーム!? まじで!?」


 直情的な甘い誘惑にまんまと引っかかってしまうのは昔からだ。食べ物には逆らえない、それが奢りとなると拍車が掛かる。


「ふふふ、だってエーフィー背中丸めて落ち込んでるんだもん。あ! そうだそうだ、貴方に別に用があるんだった」


「用って? 珍しいね、そんな言い方するなんてさ」


「うん、魔導院長が呼んでたよ。エーフィーを連れてきなさいって言われたの。……もしかして何かやらかした?」


 魔導院長、この学院で一番偉い人である。その名もエーデル・フィルロ。

 私の大叔母様の親友であり、戦友でもあるそうだ。昔の話をあまりしたがらないらしいが、大叔母様から少しだけ耳にした事がある。

 どうも、過激派みたいなのだ。


「えええええ! 何もしてないよぅ……。は! もしかして万年Fランクで進歩が無いから……まさか退学!?」


 その場にしゃがみ、頭を抱え込んだ。


「いやいやいやそれは無いと思うよ!? だって言うてFのランクが与えられてるじゃない! この学院は少しでも魔法が使えれば卒業は可能なんだからさ、いくら万年Fだからってそんな仕打ちする訳ないと思うよ」


「えぇぇぇーーそうかなーー……、まぁ行ってみるかぁー」


 重たい腰を上げ、院長室に向かおうとする。


「あ、待ってエーフィー、今日は夜ご飯一緒に食べない?」


「ん? んー、ごめん、今日はいいや、ありがとね」


「そう……、気をつけてね! 落ち込んだらうちに来るのよ!」


「はーい、なら行ってきます」


 中央エントランスから右斜め前を歩くと、大きい絨毯が敷かれた階段がある。その上を5階登ったところに院長室はあるのだ。どの学生も近寄りたくないのか、あまりこの場所を訪れない。

 さすが魔導院長というだけあって、おぞましいオーラが扉の隙間から垂れ流されている。魔王かな? もはや魔王かな?


コンコン

コンコン


入りなさい。


ガチャ


「失礼します! こんにちは、ご無沙汰しております。エーフィー・マグです。先程、シーナ・ブルクより伝言を受け取りまして、ご挨拶に伺ったのですが……」


 エーデルは眼鏡の隙間から伺う様に、こちらに視線を向けていた。何かを見透かす様な、それでいて強い圧を掛けてくる様な。とにかく、蛇に睨まれたネズミに気持ちが分かる。


「……こんにちはエーフィー、また試験ランクFだったってですね? きちんと勉強はしているのかしら?」


 おっと、いきなり痛い所を突かれてしまったぞ。効果は抜群だ! もう既に瀕死の状態だったのに、これでヒットポイントが0になってしまった!


「……はい、またFでした。ちゃんと勉強はしている……つもりです。結果は出せませんでしたけど」


 あーん! 自分で言わされるとさらに落ち込む。言霊を馬鹿にしてはいけない。


「ふん、まあいいです。それはそうと、あなたギャンブルに首を突っ込んだりしましたか?」


 ん? んんん? ギャンブル? いきなりなんの話しだろう。


「へ? いいえ、特にそんな趣味はありませんが……」


「そう、そうよね。と言うことは……ミルロか、そうに違いない」


 ミルロというのは私の祖母にあたる人物だ。その妹がマーフィー。ミルロはとっくに亡くなってるけどね。


「祖母がどうかしたんですか? 何があったんですか?」


 エーデルは深い溜息を吐いた後、とんでも無いことを口走らせる。


「あのね、落ち着いて聞いて頂戴……マーフィーにね、約3億デルの借金があったみたいなの」


「へ?」


 1デル

 10デル

 100デル

 1000デル

 1万デル。

 お分かり頂けただろうか?


「でも、あのマーフィーがそんな大層な借金をする理由なんてどこにもない。となると、人の良い彼女のことだから、どこか親族の借金を肩代わりしたってのが正常な判断ね。貴方じゃないとなると……そんな馬鹿するやつなんて決まってるわ。ミルロしか考えられない。ギャンブル中毒だったもの」


 あまりにも衝撃的な発言を受けてしまい、一瞬硬直してしまう。が、現実は足早く私に近づいていき、掴んで離そうとはしないのであった。


「えええええええええ!!!!!!」

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