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こうして私は仕事にありつけました。

「可愛いなぁ、このこのこのー!」


 人差し指で頬をこれでもかと突かれる。酔っ払いの絡み方そのものである。


「いいのかいコリー? 返してって言っても返さないからね? これは私の物なんだ!」


 まさかの物扱いである。まあでも仕事にありつけるのだ、ここは我慢しなければいけない場面。


「ああ、エーフィーも問題無さそうな顔をしているし、君の好きな通りにすればいい。お金を稼がせてあげてくれ。大層な借金をしてしまったそうなんだ」


 私がした訳では無いんだけどね。まさかの祖母の遊び金の尻拭いですけれど。


「へぇ〜、その歳でカジノにでもはまったのかい? 難儀な子だねえ。ちなみにいくらあるんだい?」


「私の祖母の借金ですよ……。金額は3億デル……あります」


 遺産整理でちょっとは少なくなっている筈。いくらかは知らないけどさ。


 シャーリーにそれまでの経緯を話した。

 祖母であるミルロがカジノにハマり借金。その保証人となっていたのがマーフィー・マグ。大叔母様である。

 大叔母様が亡くなった事で親族である自分が借金を引き継ぐ事になり、遺産整理を進めているのだがそれでもまだ足りないと事。その為に仕事を探しているが、年齢も年齢であり、雇ってくれる所が少なく、尚且つ稼げる仕事でも無い為迷っているのだ。


「へー、前途多難だねえ。しっかし3億デルか……それなりにでかい仕事だったら返せそうなもんだけどね。如何せん能力が足りないだろう? 頑張って鍛えるしかなさそうだね」


「鍛える?」


「ああ、ひたすらに鍛える。感覚、魔力、身のこなし、話術、技術。仕事には全て必要でね。何事も高いレベルが必要なのさ。例えばね、今こうして私がお酒をかっ食らってるじゃない? それも技術の一つなのよ。お酒を沢山飲んで欲しいと思う人の前では有効なの。そこから出る一瞬の気の緩み、付け込む要素なの」


「相手を満足させるって事ですか?」


「それだけじゃないね。情報を引き出そうとしたいのなら、相手のペースに合わせる必要がある。向こうの一番得意なやり方でね。勝とうとしなくていいのよ、認められさえすればこっちの物。目的と方法を間違っちゃいけないのよ」


 接待力という事だろうか。便利屋の仕事は大変そうだ。


「……頑張ります。ともかく借金を返さないといけないんです。私に出来る事でしたらなんでもします」


 今は、それしか言葉に出来ない。

 自分には何も無いのだ。高尚な血だけ受け継いだ最弱の魔法使い。何の取り柄も能力もない役立たず。


「お! いい意気込みだね、ますます気に入ったよ。能力なんて最初はあてにしてないのさ。必要なのは礼と常識、それに可愛さね。おいコリー、中々にいい人材を連れて来るじゃないか、見直したぞ」


「見直したとはなんだね……。まあいい。珍しいな、君が一発で採用するなんて。どういう風の吹き回しだい?」


 シャーリーは深く葉巻を吸い、吐き出す。


「簡単な事だよ、この娘はあんたが恩を感じる事をしたのだろう? とんでもない奴さ。どんな偶然が重なったとは言え、一般的な芸当じゃない。そこに興味を惹かれるのは当然だろう?」


 なぁ? とまたもや頬を指で突いて来る。

 そこまで大それた事をした覚えはないが、彼女がびっくりするほどの事みたいだ。


「ああ、私も驚いたよ、でも事実だ。よろしく頼むな」


 ぎゅーっと大きな胸に顔を寄せられ、包容と言うなの窒息死を迎えるか否や、コリーが声を掛けてきた。


「じゃあ私はこれで失礼しようかな。後は若い二人でやってくれたまえ。エーフィー、帰りは箒で帰れるね?」


「ぷはぁ! はい! 大丈夫です! ありがとうございました!」


「えー、コリー帰っちゃうの? 一緒に一杯やってこうよ、胸くらい触らせてやるぞ?」


 痴女だ、この人は痴女だ。

 ホッシーなら喜んで受け入れる提案であろう。


「ええい! 私は小型艇で来てるんだ。飲酒運転は即厳罰、それに人としてして良い事ではない。君も程々にな」


 そう言ってコリーはドアノブに手を掛け、店を後にするのであった。


「け! 堅物何だから、そんなんじゃ奥さんとも仲直りできないぞーっと!」


 喧嘩中らしい。

 それに一つ気付いてしまった、お酒は否定しても胸を触る事は拒否しなかったのだ。最低である。そりゃ喧嘩するよ。


「まあいいや」


 シャーリーは深くソファーに腰掛け、濃いルビーの瞳でこちらを観察している様だ。もしかしたら第二の面接が始まってるのかもしれない。


「それじゃあエーフィー・マグ。最初の仕事を君に振り分けたいのだが、この三つのグラス、君にはどう見える?」


 どう見える、か。高そうには見えないし、かと言って安物にも見えない。入ってる飲み物も普通のお茶だ。


「うーん、そうですね。正直あまり何も感じない、というのが意見です。とりあえずお片付けしましょうか?」


 ほう、とシャーリーは言うと、おもむろに自分の頭を撫で始めた。人から頭を撫でられるのはとても久しぶりで、何だか少々照れ臭い。


「はっはっは!! エーフィーやるじゃないか。試験はこれにて終わり。今日から君は、晴れてこの店のスタッフとなる訳だ。良かったな」


「へ? へ? どういう事ですが?」


「ああ済まない。いくらコリーの頼みだからと言って、しょうもない奴を雇ったりするのはデメリットが大きいんだ。いくら私が美人でグラマラスでお人好しだからと言って、そこまで親切じゃないよ」


 つまり、しょうもない奴ではなかったという事だ。それは安心。

 途中自画自賛が入った所は一旦無視しよう。


「気に入ったよ。些細で小さな事かもしれないが、自分から仕事をする姿勢を見せてくれたね。中々人の癖を直すなんて労力無駄だし、安心したよ。これなら早速仕事が出来そうだ!」




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