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ツンデレダンディズム

「おお君は、先日はお世話になった。ささ、上がってくれ」


 すんなりと家に入れてくれた。しかもお出迎えのメイド付きだ。明らかに待遇が違う。

 

「ふわー、メイドさん綺麗な人……お金持ちは違うなぁ」


 居間に通され、明らかな高級ですよと言わんばかりの紅茶を出された。この喉はコーヒー以外通さぬのだ、と調子こいた事を言ってみようかと思ったが、冷静に考えてみても明らかに調子に乗りすぎているのでその言葉は喉を通らず、胃の中をグルグルと回り続けている。


「ん? 紅茶は好きじゃないかね? 果汁の方が良かったかな?」


「いえいえお構いなく! おほほ、美味しいですわ、おほほ」


 自分の頬を掌でパチパチと叩き、無駄口を叩こうとする唇を戒める。いつかそっとさりげなく会話の中に混ぜてみよう。紅茶は嫌いですと、敵は撲滅するぞ、とね。


「で、どの様なご用件かな? 言っとくがお金は貸さないぞ?」


 何故一々お金の話をするのだろう。心を見透かされてしまったのだろうか。


「いえ、訳あって仕事を探しておりまして……。その、コリーさんは色々な人とお知り合いでしょうから、紹介して貰えたらなーっと……」


「なるほどねえ、君は働いた経験はあるのかい?」


 庭の草むしりは働いた経験になりますか! そんな事を聞ける雰囲気ではない。眼光は鋭く、まるでもう面接は始まってるのだと圧迫してきている感覚がするのだ。これがトップの威圧感、幽霊より震えちゃうね。


「無いです、一回も無いです」


「ううむそうか……」


 うーんと手の指を顎に乗せ、真剣極まりない表情で考え事をしている。

 仕方がないじゃないか、無いもんは無いんだ。


「お、あれなら君の年齢でも雇ってくれるかもしれないな。だがあいつがどう言うか……」


「何でもやります! 覚悟は出来ています!」


「そうだな……しかもちゃんと稼がないといけないんだろう? それだとやはりあれしかない」



 んん? 稼がないといけないって何で知ってるんだろう。確かこの前もそれっぽい事言ってた気がする。


「あれ? コリーさん、私が借金まみれなの知ってるんですか?」


 コリーは一瞬だけ惚けた顔を見せたが、すぐ様眼光鋭い目に戻り、息を大きく吸い込んだ。


「知ってるも何も、君の祖母にあたるミルロにお金を貸したのシュバウツ商会なのだよ。もしかして知らなかったのかい?」


 えーー! そうだったの!? え、って事は自分は知らない間に本陣に乗り込んでいたって訳?   

 だとすると随分間抜けな出来事である。


「し、知りませんでした……。あ、だからお金は貸さないなんて言葉が出てきたのですね。納得です。貸して下さい」


「ははは、まさか天然だったとは、こりゃたまげた。大丈夫だ、マリーの件もあるし、仕事くらいは紹介させて貰うよ。せめてそれくらいのお礼はさせておくれ」


 コリーはよっぽど可笑しかったのか、お腹の底から笑いの声を出していた。

 そんな楽しそうな彼に釣られ、不思議とこちらも笑みが溢れてしまう。最後の一言聞こえなかったのかな? 


「で、それはどの様な仕事なのですか? 我儘かもしれませんが、見ての通り力仕事は不向きでして……」


 今にも噴火しそうな厳しい目つきだ。何を若者が甘い事を言っておる、と怒鳴ってきそうな勢いをしている。怖いなぁ。


「便利屋だ」


「便利屋……便利屋!?」


 便利屋ってあれでしょ? 便利な人って事でしょ? 魔物退治から、廃墟みたいないつ崩れてもおかしくない遺跡を調査したり、草むしりから下水道の掃除まで、あらゆる人がやりたく無い仕事を任される仕事の事でしょ? マジで、まじか。


「ん? 今目が見開いたね? 何でもすると言ったのは君だが」


 痛い所を突かれた。でも危険で汚い割りに収入は破格だと聞くし、背に腹は変えられない。しかもこの年齢で雇ってくれる所なんて他には無いだろう。頑張るしか無いのである。


「い、イーエ? ナンデモヤリマスヨ」


「ふ、棒読みだな。だがそんな甘い考えではお金を稼ぐことすら出来ないぞ? 覚悟を決めなさい、折角私が紹介するのだ。仕事は出来なくてもやる気は出して貰わないとな」


 表にある小脇のガレージに入ると、何台もの小型艇が置いてあった。


「さあ乗りたまえ、言っとくが特別だからな? 私の側近ですらこの助手席には座らせないのだ。光栄に思うがいい」


 ツンデレかな。べべべ別にあんたのためじゃ無いんだからね! プンプンってか。やべ、口に出すと放り投げられそうだから黙っておこう。口は災いの元なのである。



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