知ったことかそんなものぉッ!
分かっている、分かっているんだ。私がやろうとしている事がただの偽善だって。
気まぐれに自分の感情を満足させたいだけの自己承認欲かもしれない、人から指を指されたら恥ずかしくなって後悔するだけの覚悟だ。何も考えがある訳でもなし。
私は何様のつもりだ? 責任を押し付けられて終わるかもしれないんだぞ? 自分の身も儘ならない借金まみれの奴が、何他人に施しを与えようとしているんだ。
____けど、それでも人は自らの感情に逆らえない。生まれ持ち、後天的に授けられた倫理観には逆らえないのだ。
「こんにちはーーーッッッ!!!」
勢いよく茂みから飛び出すと、ワンちゃんもテシンさんも呆気に取られた顔。急いで食しているドーナツを袋の中に戻し、背中に回す。
「あ、あああああのっ! これ一緒に食べませんか!?」
本来ならホッシーと一緒に食べるはずのステーキが2枚と葡萄ジュース。それに間食として用意したお菓子が数点。
「はぇー? あ! あなたは……今日の魔術師と一緒にいた」
「そうですっ! ドーナツ屋さんでお会いしましたよね! 連れが大声を上げてしまってすみませんでしたっ! そのお詫びと言って___」
そう言い掛けるも、テシンさんは横のワンちゃんを懐に寄せ、子供の様な上目遣いで私を見上げた。
「ぐす……もううちにはお金がないのです。一回謝罪したくらいで許されないのでしたら、私でよければなんでもします。だから……この子を私から取り上げないで下さい」
とんでもない勘違いである。
でもなんかこう、背中がゾクゾクっとしたのは初体験だ。なんだこの気持ちは。
「ちょちょちょ! 違う違う違いまーすってば! 謝罪するのは私達の方ですよ! あれくらいでぷんぷんに怒るあの老害がいけないのです! テシンさんは何も悪くありません!!」
素早く詰め寄り、テシンさんの顔をじっと見る。
やっベーってなるほどの美人さんだ。これは同性でも顔が真っ赤っかになるのでは。
「これでテシンさんの気が晴れるわけでも、仕事が元に戻る訳でもないですけど……お腹は膨れます。一緒にご飯食べませんか? それともご迷惑でしたか?」
段々と彼女の瞳にうっすらと液体が溜まっていく。口をへの字に曲げ、鼻はひくつき、喉から嗚咽っぽいのが聞こえ出した。
「ううう……グシュ」
袖で涙を拭き、満面の笑みを私に向かって溢す。可愛い。
「お言葉に甘えても、よろしいですか? えーっと」
「私の名前はエーフィー・マグ! 落ちこぼれのだけど、これでも魔術師なのです!」
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テシンさんがそこら辺で拾った金網を使い、簡易的なコンロを作った。
衛生的にどうかと思われがちだが、案外火で通せば滅菌されるものである。バーベキューとおんなじ理屈である。
「炭はこれくらいかな? いやー探せば落ちてる物なんだね」
この辺りは山林も多く、川もあるため、野外遊びが盛んに行われている。その影響でこのようなグッズが沢山落ちているという訳だ。
「さ、焼きますよー……じゅわわー」
肉の焼ける音。外で聞くとまた違った風情がある。
「おおお、美味しそうですねエーフィー」
横でわんわんと大きな鳴き声ではしゃぐダイキチ。一匹だけ何も食べないのは可哀想だと思ったので、テシンさんがコンロの準備をしている間、安めだが犬用の餌を市場で買ってきたのだ。
「きっと物凄く美味しいですよっ! まあ焼けるまで待ちましょう!」
本当に私は何をしているのだろうか。
そう思っても、人の喜ぶ顔を見るのは純粋に気持ちが良いし、嬉しい。
いいんだいいんだ、私は私の心の赴くままに行動してやるんだから。
「テシンさんって、どちらの出身なのですか? エーレ育ちでは無いですよね?」
無言で返すテシンさん。これは何かあると見た。
流石に人の闇の部分に首を突っ込んではいけない。こんな綺麗な人だから、大方何処かの貴族の令嬢なのであろう。それで家が嫌になって飛び出してきたと。
だってペットのダイキチは毛並みも金色だし、愛嬌はあるが凛々しさを感じるのだ。高級犬なのだ。
「おっとっと、言わなくても分かりますよ。大方ね。だって私は魔術師ですし。ま、帰れる場所があるにせよないにせよ、どこかで腹を括らねばなりませんからっ! 追ってから逃げるのも時間の問題です。案外心配されてるものですよ」
「え!? ……やっぱ理解してしまうものなのですか。魔術師って凄い」
ほーらねっ大当たりだ。
「でも、今更国になんて帰れません。私はもう懲り懲りなのです。今は確かに貧乏でひもじい思いをしてますが、あの息苦しい生活に比べたらこっちの方が何倍もましですよ」
ふーん、そういうもんなのかなぁ。
「そうですか……。ま、とりあえずお肉でも食べましょう! いい感じに焼き上がってますよ!」
生きてると何かしらの試練は与えられるものだ。
私も人の事言えた義理じゃ無いけど、テシンさんも今壁に直面しているんだ、きっと。
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