巫女の守護者 仙痛命酔3
美琴は羽黒にとバイクで学校まで送ってもらい、今現在学校の校門前にいた。羽黒はバイクにと乗ったまま、美琴を見下ろすかのようにして言った。
「じゃあな美琴。僕の学校が終わったらすぐに迎えに行くから校門前で待ってくれ」
「うむ、分かっておる。出来るだけ羽黒も早く来るのじゃよ」
「分かってる、分かってる。僕も出来るだけ早く帰れるように努力するからな。じゃあな」
そう言い羽黒は再びバイクを駆けらせ、自分が通う私立阿知波大学へと向かって行った。
美琴は羽黒が大学に行くのを見送り、慣れない足取りで学校へと入っていった。学校にはすでに何人もの学生、あるいは先生と思われる大人が何人もいた。美琴は真頼に教えてもらった通り『職員室』と書かれた所を探し、職員室前だと思われる扉の前に今いる。
「いざ、となるとどう入れば良いのか分からんの。まぁ、気合でどうにかなるもんじゃろう。失礼するぞ」
そう言い美琴は扉を開け、中にと入って行った。すると、美琴に気づいたのか黒いスーツ姿の一人の女性が美琴のもとへとやって来た。
「もしかして、あなたが黒坂美琴さん?」
彼女は眼鏡をかけておりショートヘアと言うよりは少し長く、羽黒と比べると少し身長が高く遠くからでも目立つ女性であった。更に言うと真頼と比べると胸の方はでかい。美琴は教師であろう彼女を見上げ、問うた。
「そうじゃが、お主は先生と言う奴か?」
「えぇ、そうよ。私はあなたのクラスの担任の先生、南野陽子ですよ」
陽子は笑顔を向けて美琴にと言った。一方の美琴は何とも言えぬ反応、表情を変えずに「そうか」と答えた。
「じゃあ、もう少しで朝の会が始まるからその時に自己紹介をしようか」
「うむ。ところでじゃが、余のクラスの名はなんていうのじゃ」
「美琴さんのクラスは六の二よ、校舎の三階にあるからね。じゃあ、そろそろ教室に行こっか」
美琴は「うむ」と頷き、陽子につられ職員室を出て教室まで連れてこられた。教卓に上る陽子の隣に立ち、美琴は教室の様子を見ていた。
「はーい、皆さん席についてくださいね。朝の会を始めるからね。――その前に今日は転入生がいるの、美琴さん」
陽子は黒板に黒坂美琴と書いた。そして自分の名前が書き終わった事を確認し、美琴は自身の名前を名乗り上げた。
「うむ、余は黒坂美琴じゃ。よろしく頼む」
美琴の自己紹介を確認したかのように陽子は頷き、美琴にと指示した。
「じゃあ、空いているあそこの席に座ってね美琴さん」
そう陽子は空いている席を指差し言った。席の場所は外の風景が窓から見える右端の列の真ん中らへんであった。美琴は頷き、その席へと足を運んで席にと座った。すると後ろから誰かが美琴にと話しかけてきた。
「美琴ちゃん、って呼んでもいいかな。聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
彼女は美琴と同じくらいの身長で、黒髪のショートであるものの、前にと伸びた髪が右目にと少し届いていた。
「うむ、構わぬが、余になに用じゃ?」
「私は北条影楼、影楼でいいよ。でね、美琴ちゃんのその喋り方って素なのかなーって」
喋り方、特に別段と気にしていないことであった。
「ふむ、そうだな。余は特に変とは感じぬからな・・・きっと素じゃろ。羽黒は特に何も言ってなかったがのう」
すると美琴のとなりにと座っている席の女の子が自分も気になるかのように前のめりにとして話にと入ってきた。
「なになに、何の話をしているの。私も混ぜてよ影楼」
彼女も見たところは美琴と同じくらいの身長であり、長く伸びた髪を二つに結ばしてツインテールにしていた。
「あ、美弥子美弥子ちゃん。今、美琴ちゃんの話し方について話していたんだ」
「へえ~、そうなんだ。あ、私は山代美弥子、美弥子でいいわ。それより、美琴が言っていた羽黒って誰なの?」
影楼もふと美弥子同様に気になったのか「教えてよ」と美琴に頼んだ。美琴は別に構わないといった顔で応えた。
「そうじゃな、羽黒は余の守護・・・ではなく余の保護者、いわば兄じゃよ」
口を滑らせそうになった美琴。それでも影楼と美弥子は一段と気にしてない素振りを見せて言った。
「つまり、美琴ちゃんのお兄さんってことで、保護者だってことはもう成人ってことなのかな?」
成人、聞きなれぬ言葉に美琴はすぐさまにミャルクヨの知識にと尋ねた。
「成人?・・・確か十八歳満以上ってことじゃな、多分そうじゃろ」
すると今度は美弥子が更に興味深々にして聞いてきた。
「じゃあさ、美琴のお兄さんってどんな人なの?」
美琴自身が羽黒をどう思っているのか、そしてどんな性格をしているかを整理して言った。
「そうじゃな、羽黒は高名な刀使いでおり剣道の全国大会に優勝しておったのう。あと、大学生じゃ。性格は、生真面目でどこか人間らしさを感じない奴じゃな」
生真面目、人間らしさを感じない、それが美琴が思った人物上であった。人間と言うものはどんな人でも私利私欲と言うモノがどこかにはある。それにもかかわらず、羽黒の心の内には私利私欲と言うモノが無い、あるいはただ単に美琴がそう感じているだけなのかもしれな。それでも羽黒はどこか、何か人間らしさが欠けているように美琴は思えた。
美琴の言葉を聞き、影楼は驚いたかのようにし、目を丸くして言った。
「凄い、全国優勝できる人なんて滅多にいないよ」
その言葉に美琴は改めて考えてみた。確かに黒は凄いかもしれない。彼はただ単に剣道が強いだけではない、特にあの精神力と言いしぶとさも凄い。抑止力団体との戦いではあのしぶとさと精神力があったからこそ勝てたこそある。それにしてもだ、なぜ羽黒は剣道をやっているのだろう。父が剣道をやっていたからと言った生半可な気持ちではないはずだ。だとしたら、なぜ羽黒は剣道をやっているのだろう。