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巫女の守護者 連載版  作者: 司馬田アンデルセン
巫女の守護者
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巫女の守護者

 科学が急速に進歩する20XX年。そんな中未だに人がたどりつくことができてない神の領域、そして神の存在。だがそんな神の領域、神の存在にと一歩手前にいる者がいた。それが巫女である。

 巫女と言っても、ただ普通の巫女ではない。正真正銘の巫女である。正真正銘の巫女と言うのは、神と会話することもでき、神のいる領域へと行くこともできる。はたまた神の加護を持っているのであった。

 そんな正真正銘の巫女がいるならば科学者がすぐにでもその巫女を捕まえてモルモットにしようと真っ先に考えるだろう。しかし、そう簡単に事が運ぶわけでもない。なぜなら、そんなことがうまくいけばもうとっくのとうに人類は神の領域へと到達しているのだ。科学者たちは何年の間巫女を守る存在によって邪魔されていたのであった。その存在は守護者と呼ばれる者であった。守護者は一人ではなく何人もいる。守護者は自分が信仰する神のために巫女を守る。そう、自分の信仰する神のためである。少し昔話をしよう。

 それはかなり昔の話、まだ日本の民が様々な神を信仰していた時代のことだ。

 ミャルクヨと言う神を信仰する人たちが多く暮らしている集落のところに一人の守護者の男がいた。彼は他の守護者とは少し違ったのであった。何が違ったかというと、守護者は皆が皆自分から志願して守護者へとなる。だが彼は周りの人からの勧めでいやいやと守護者へとなったのであった。

 守護者にとなったが、彼は守護者らしい仕事などは全くせず隙を見ては自分の持ち場を離れては散歩や市場にと行き遊び歩いていたであった。

 そんなある日のこと。彼はいつものように隙を見て持ち場を離れ、桜の咲く丘にと向かい、桜を見に行った。そこで彼は自分が守護する巫女に始めて出会った。巫女はまだ自分より幼く、自分の妹と変わらないくらいの歳の子供であった。巫女いわく、見張りをかいくぐり神社から抜け出し桜を見に来たのであった。守護者である彼はまだ見習いであり、巫女がいったいどの様な生活を送っているのか分からず聞いてみた。

「巫女さんて、どんな生活を送ってるんですか?なんか堅苦しいような感じに思えるんですが」

「まったくじゃよ。巫女と言う仕事はただ単に神と会話するだけなのに余を社へと閉じ込めておくのじゃよ。しかも四六時中余には見張りが張り付いておる。外を出たくても見張りは余を外へと出してくれぬ。だからこうして隙を見て抜け出したのじゃよ」

 巫女ははにかんだ笑顔でそう答えた。すると彼は大きな声で笑い言った。

「それ、僕が守護者だってことを知っていて言っています?知っていて言っているなら笑いものだ」

 巫女は頬をぷくぅと膨らませ言った。

「そんな事知っておるはずがあるまい。なぜ余がお主らのような守護者の名を覚えなければいけないのだ」

「確かに君は僕が想像するような巫女だ。高慢で自分以外の人の名を覚えない。――だけど僕みたいに仕事を抜け出すなんて高慢ではなく半端者だな」

 彼ははにかんだ顔で巫女を見つめて言った。巫女はプイっと顔を逸らし、顔をそらしたまま彼にと言った。

「誰がお主のような半端者じゃ。余はお主よりはしっかり仕事らしいことをしておる。そもそもお主の事なぞ余はどうだってよい。――だが、こんな騒がしい会話をしたのはお主が初めてじゃ。これが人らしい会話なのか?」

 巫女は逸らしていた顔を戻し言った。そこにはどことなく儚さを夢見るような気品あふれる表情であった。

「人らしい会話ってなんですか。そんな風に思っているならそうじゃないんですか。それにしても巫女さんがまさか僕の妹よりも幼いなんて驚きましたよ」

「お主には妹がおるのか?だったらなぜ余の守護者をしているのじゃ。遊び歩いておるのなら妹と遊んでおればよいじゃないか。それに守護者などという仕事に就かなくてもよかろう」

「そうですね、ちょっと小話でもしましょうか」

 彼は少し遠くを見るように自分の過去を話した。母と父を亡くしたあの日のことを眺めるように。

「ある日のお祈りの時のことです。僕の父と母は熱で寝込んでしまってお祈りに行けず仕方なく僕と妹だけでお祈りに行ったのです。そして数日後私の父と母は病気が悪化して死んでしまったのですよ」

 彼は少し歯を食いしばって顔をこわばらせ言った。そこには何に対して向ければいいのか分からない憤りを持ち、どこかにそんな想いを投げるような。

「その後僕たちの周りの人たちはこう言ったんですよ、“お前の父と母はお祈りに来なくてミャルクヨ様が怒ってバチが当たって死んだのだよ。だからお前は守護者になって親の罪滅ぼしをしろ”って」

 守護者の男は更に憤りさを表にと出すように、腕を強く握りしめた。

「本当におかしいことですよ。僕の父と母は病気でお祈りに行けなかっただけなのになんでバチが当たるんだ」

 それほどまでに意味が分からなかった。裏切者とも言われる時もあった。だからこの想いは今でも胸のどこかにとあり、忘れてはいけないモノだと思っている。

 男は我を取り戻し、柔らかな口調にと戻り、苦し紛れの笑顔を作り言った。

「――ごめんなさい、こんなこと巫女の前で言うものじゃないですよね」

 するとそこには泣きじゃくった顔で彼を見つめる巫女の姿があった。

「そんな酷い、ヒクッ。ミャルクヨ様はそんな事では怒らぬのにヒクッ。きっとこれは余のせいじゃ。何か余に罪滅ぼしは出来ないか」

 これには流石の彼も慌てて、何か泣き止ます方法はないかと考えながら彼女の頭を撫でてあげた。

「悪いのは巫女さんじゃないですよ。勝手にそう思い込む周りの人がいけないんですよ」

 それでもなお巫女は余のせいじゃと、言い泣き止まない。そこで彼はある事を思いつき、一つの提案を出した。

「じゃあミャルクヨ様に聞いてみてくださいよ、怒っているのか怒ってないのか。これはミャルクヨ様と唯一話せる巫女さんにしか出来ませんからね」

「うむ、分かった。確かにミャルクヨ様と会話できるのは余だけじゃ。怒っておるか怒っておらぬかくらい簡単に聞ける。して、お主は名をなんという?」

「僕の名前か、僕の名前は――」

 剣道日本全国大会決勝戦。これを勝てば二十歳である黒坂羽黒(くろさかはぐろ)、は大学二年生で全国優勝したこととなる。とは言っても相手は剣道八段持ちの森近(もりちか)小夜威(さよい)であり、対する羽黒は剣道三段、五段もの差がある。だが羽黒は先輩や後輩からの応援に応えたるめ最後まで自分の実力を信じてやるしかないと決心した。「両者構え」と審判員が構えの声と同時に小夜威の面の奥から羽黒をにらみつける目線を感じ取ることができた。(小夜威の最初の行動は大抵面を打っていた。ならばその後に引き胴をしよう)そう羽黒が頭の中で思考していると審判員が「始め」との試合が始まるの合図を出した。

 小夜威の最初の行動はなんと面ではなく突きであった。これには予想外の羽黒は、とっさの行動で突き垂れにと竹刀を持ってくることによって小夜威の攻撃を塞ぐことができた。しかし、あと一歩遅れていれば必ず突きで一本を取られていただろう。そして、そのままの勢いで鍔迫り合いになった。小夜威の方が羽黒よりもひと回り体格が大きく、羽黒は小夜威との鍔迫り合いに押されるまま場内と場外を分ける境界線のテープまで押されてしまった。羽黒は退かず、自分の竹刀で小夜威の鍔を押し、小夜威を退かせた。小夜威が退いた後の隙を羽黒は見逃さず、小夜威との距離を詰め、小夜威の面にと竹刀を打ち込み後ろに下がり残心をした。『面あり。一本』と審判員が旗を挙げて言った。

 一本目はあっさりと羽黒が面で一本を取った。両者とも開始線へと戻り竹刀を構えた。そして再び審判員の「始め」との声が聞こえた瞬間小夜威は直ぐに前に出ず羽黒を誘い込むかのように構えて立っていた。羽黒はその誘いに応えるように小夜威が構えている竹刀を払い面が打ち込める距離まで距離を縮め面へと打ち込んだ。しかし、面に打ち込む瞬間に小夜威は羽黒の一歩前にいき残心を取らせまいとの意思で近づいた。

 一本目のようにまた鍔迫り合いになり、今度も羽黒が押され続けた。羽黒はこのままではまずいと思い自ら後ろへと一歩下がったがその瞬間に小夜威は前に出て羽黒の小手を打った。だが羽黒は小夜威が打ち込んだ後に残心がされないように小夜威の目の前までいき鍔迫り合いに持っていきそのまま小夜威を押した。羽黒は自分の竹刀を少し上に上げた。小夜威はすぐ羽黒が面を打って来ると予測して面を守る形に入った。しかし、羽黒はこれを狙っていたのだ。

 羽黒はこれを狙っていたかのように、隙ができた小手を見てすぐに小手にと打ち込み小夜威の右側を抜けて残心をした。『小手一本。勝負止め』審判員が旗を上げて言った。

 羽黒は自分が勝ったことに信じられず数秒間その場に放心状態になった。それでもすぐに我に返り開始線まで戻りそんきょをし、竹刀を納め後ろに下がり礼をした後羽黒は試合場の外にある畳の上で面を外しその場を後にして各選手の控室へと向かった。

 面を抱えて控え室に戻り、羽黒は胴と垂を外していると控え室のドアを開ける音がした。

「全国大会優勝おめでとう。羽黒」

 そこには羽黒より身長が少し上で、明るさを際立たせるかのように鮮やかな茶色髪の女性がいた。彼女は剣道部部長をしており、弥栄真頼(やさかまより)と言う。真頼はスポーツドリンクを羽黒へと差し出した。「ありがとう」と羽黒は言いスポーツドリンクを受け取った。

「いやーまさか最後の一本をフェイント技で決めるとは。審判員はただ単に小手を決めたように見えたけど私の目は騙せなかったね」

 真頼はドヤ顔で答えた。羽黒はフェイント技に関しては誰よりも上手く、ちょっとした隙でも見逃さず技を決めることができる。そして小夜威が面を守る形になった瞬間にできてしまった隙を狙ったのだ。羽黒はそれを意図してきっかけを作り、その僅かな隙を見逃さず小手に打ち込んだのであった。

「さすがは真頼姉ちゃん。やっぱり何年も僕の剣道を観ているだけあるよ」

 羽黒は彼女のことを実の姉のように慕って言った。

 真頼が羽黒に姉呼ばれされるのには理由がある。羽黒がまだ十二の時に旅先の帰りに交通事故にあった。高速道路に乗った帰りみちのことだ。居眠り運転中のトラックが自分の乗っている車に激突したのだ。羽黒自身にはちょっとした怪我で済んだのだが、車を運転していた父、黒坂和徳(くろさかかずのり)は不幸にも事故死してしまったのだ。このことから羽黒は自分が死に掛けたこと、父の死を目の当たりにしたことからASD(急性ストレス障害)に陥ってしまった。羽黒の母、紀子(のりこ)は仕事の関係上で家に帰ってくることが少なかったため、羽黒の心の支えになれないと思い和徳の知り合いの真頼の父、弥栄信明(やさかのぶあき)にと羽黒を預かってもらう事をお願いした。信明は和徳には恩があったためか、分かったとの二つ返事であった。羽黒は最初の間は部屋に閉じこもっており、七歳の時からやり始めていた剣道にも一切手も付けず筋トレすらやっていなかった状態であった。しかしそんな彼を真頼は積極的に彼の横で応援し、見てあげていた。羽黒が夜うなされて泣いていた時も彼女は羽黒を慰めていた。そのおかげもあり羽黒は二週間半でASDを克服して見せた。そのため羽黒は真頼に対し親近感がわきいつの日か真頼のことを“真頼姉ちゃん”と呼ぶようになった。

「他の部員はどうしたんだ。まさかおいてきたんじゃないだろうな」

「まさか、ほかの人たちがこう言ったのよ “一番初めに羽黒の優勝を祝うのは姉である弥栄さんですよ”って言われたから一人で来たの」

「姉であるってただ単に僕が勝手に“真頼姉ちゃん”って言っているだけなんだけどな」

 頭を掻きながら困った顔で言った。羽黒の通っている大学の友人たちにはよくからかってくるが皆が羽黒の過去に何があったかを知っている。そのため、羽黒に対して馬鹿にしているわけではない。勿論羽黒もそのことは知っている、そしてそれが羽黒に対しての心遣い的な優しさということも。だから羽黒もその優しさにあった応え方をしている。

 しばらくこうして真頼と羽黒が会話していると、真頼以外にも羽黒の控え室に入ってくる人がいた。

「やぁ、羽黒君。優勝おめでとう、面をつけてないで会うのはこれが初めてかな?」

 大体六十代中半ばの男が袴姿(はかますがた)でそこに立っていた。だが羽黒にはどこか聞いたことのある声だった。羽黒は必死に思い出そうと手を頭に当てて考え込んだ。するとそこに真頼が苦笑いで言った。

「ちゃんと自己紹介もしなきゃだめだよ。羽黒が困っちゃてるよ、小夜威のおじさん」

 どうやら大体六十代中半ばの袴姿で立っているその男はさっき羽黒と試合をしていた小夜威だったのだ。小夜威だと分かった瞬間羽黒は慌てて小夜威にとお辞儀をした。

「ハハハ、そんなにかしこまんないでもいいよ。いやー本当に僕が大学生に負けるとはね、やっぱり齢なのかな」

「大の大人が言い訳はよくないよ。羽黒は普通に強いからね。私のお父さんを負かすくらい強いんだよ。それに、羽黒は剣道をやり始めたのは七歳ころだよ。中学生から始めた小夜威のおじさんとは腕が違うよ」

「確かに、それだったら凄いな。七歳からなんてまるで生まれてから剣道をやってきたようなものじゃないか。それに君の父親は和徳さんなんだろ?当時活躍していた和徳さんは現代の土方歳三と言われるほどの強さと剣道をやっている時に感じ取れるあの威圧感は凄かったよ。――なのにあの人が交通事故で死んじゃうなんて神様は意地悪だ」

 しばらくの間沈黙が広がった。

 和徳の剣道は羽黒とは違って激しい剣道をする。何が激しいかというと打ち込みの多さだ。しかもその打ち込みの全てが正確に相手の防具などに当ててくる。想像してみれば如何に恐ろしいかが分かる。それに和徳は打ち込む速さは常人並では無かった。そんな速さで正確な攻撃ができるのだ、普通に戦って勝てるはずもない。そのため彼が大会に出た瞬間その大会の勝者は決まっているも同然と言う者も多くいた。

 また彼の祖先はそのまた昔、名のある武士の家柄らしい。詳しいことは分からないがそれもあって黒坂家の家には剣道場がある大きな庭園のついた豪華な書院造でもある。

 そして和徳は常に誰よりも自分に対して厳しく、威張ることもなく自分の力には決して自惚れることのない男であった。そんな和徳の手によって羽黒は父から剣道を鍛えてもらっていたのだ。

 だが羽黒の剣道は和徳とは基礎的に違った。なぜなら羽黒は、積極的に打つのではなく、相手に打たせて自分の有利の立場に持っていくといったスタイルなのだ。勿論この方法だけでは勝ち続ける事はできない。そのため羽黒は出来るだけ練習試合では自分の不得意な戦い方を練習し、克服しつつあったのであった。

「さて、二人ともいつまでそんな顔しているの。羽黒、小夜威のおじさん。次は表彰式だよ、シャキッとしなさい。そしてそのあとは打ち上げ会なんだから。もちろん小夜威のおじさんも来てね」

「僕もその打ち上げ会に参加してもいいのかな?――おっと、どうやらそろそろ時間のようだね。僕は一足先に行かせてもらうよ」

 そう言い小夜威は逃げ出すかのようにさっそうと羽黒たちのいる控え室を後にして行った。

「真頼姉ちゃんも早く皆のところに行かないといけないんじゃないの?」

「確かにそうかも。じゃあ、私は先に行っているからね」

 そう言い慌ただしく羽黒の控え室を出て行き羽黒の控え室は羽黒一人になった。

「さて、僕も会場の方へ行かないといけないと。まさか本当に優勝するとは」

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