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雨降る夢

作者: 神馬

バスに乗っているときに雨が降ってきて、まるでその空間にいる人全てが哀しんでいるようにすら感じられてこの作品を書きました。

 永い眠りから覚めるとそこには君が静かに座っていた。

 窓の外では雨が降っているのであろう。バラバラと天から落ちる雫が地面を叩いている。

 僕はそれを見ないようにしながらおもむろにベッドから出て立ち上がり、昨夜から閉まりっぱなしだったカーテンを開ける。


 雨が降っている日は、君と一日中、時間を共有していた。

 僕が作った目玉焼きを君は美味しいと言って頬張り、君の作ったお味噌汁を僕は美味しいと言って啜った。昼は一緒にゲームをして、夕方には一本の傘で夕飯の買い出しに出掛けた。

 

 ずっと会いたかったとか、今更何をしに来たとか、言いたいことも言うべきことも沢山、沢山あるのだろうけれど、上手く気持ちがまとまらず、どうしようもない感情が泣き出してしまいそうになる。

 雨は嫌いだ、あの日から。

 いつも君が腰を掛けていた僕の勉強机に備えられた椅子から君が立ち上がり、窓際へ、僕のほうへと歩み寄る。


 2人はそのまま少しの間見つめあった。

 透けそうなほどに白い肌、細い指先と艶やかな黒髪・その頬は雨に濡れたように薄っすらと濡れている。

 そして彼女はさらに歩み寄る。そしてそのまま、2人の唇が重なる。

 感触はなくとも、冷たい空気だけがそこには在って、彼女の温かみはもう感じることが出来ないのだと悟る。

 僕は夢中で、ただ必死に、君を抱きしめようとした。しかし身体がする抜けて大きくバランスを崩す。

 薄れ消えゆく君を捕まえようと、何度も何度もかき集める。拾い上げるように。

 それでも、もう届かない。

 彼女は最後に「ありがとう」とだけ、その一言だけを呟いた。

 僕も何かを伝えたい。伝えなければいけない。ありがとう。ごめんね、好きだよ。全てが言葉にならず、喉の奥に引っかかっている。

 まだ何も伝えられていないのに、もっといっぱい話したいのに、君はどんどん消えていく。


「行かないで」


 やっと発した自分の声で僕は起床する。いつの間にかカーテンは開かれていて、窓から差す光がへの中をいっぱいに覆っていた。

 目元を拭うと、雨に濡れたように涙が溢れている。

 今日は晴れだから、君の下へ足を運ぼう。

 明日が雨だったら、君のことを部屋で感じよう。


 彼女がこの世を立ち去って今日で49日目。

 

 僕はやっと、永い夢から覚めた。


拝読いただき、ありがとうございます。

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