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思い出・アップデート ②

「やはりね、野良とはいえ魔法少女も生きているのだよ縁クン」


「はぁ……?」


急ピッチで仕上げた野良少女対策計画書を提出すると、先ほどから掌を返したような局長の言葉が返って来る。

少し外に出かけてきたらしいが、一体どういう心境の変化だろうか。


「だからね縁クン、こういう強引なやり方はどうかと思うよ私は。 君も功を急ぐ気持ちは重々分かるが少し辛抱の気持ちを持とうじゃないか」


「えっ、何? ぶん殴って良いのこの(つら)?」


「縁、どうどう」


局長と一緒に帰って来たコルトちゃんが、荒ぶる私の感情をなだめる。

危なかった、今のフォローがなければ今頃局長の顔面は原形を留めていなかっただろう。

けど一体どういう心境の変化だろう、ヒントを握っているのはやはり隣のコルトちゃんか。


「ねえコルトちゃん、これは一体どういう事?」


「とても深い事情があるらしいヨ、詳細は知らないヤ」


「はぁ……わけがわからない」


「そこ、何をこそこそ話しているのかね! ほら、お仕事しようじゃないかお仕事!」


今目の前にいる局長の顔面を殴り抜いたとしても無罪を勝ち取れる自信がある。

だがいけない、あなたは大人よ縁。 大丈夫、この程度の煽りは日常茶飯事だから。


「しかし……ふむ、しかしだね、そのぉー……この、白髪の魔法少女についてなんだが」


「……? ああ、ブルームスターちゃんですか。 彼女が一体何か?」


「ブルームスター! そうだそうだ、とても可憐な名前だよ、名は体を表すと言うが正しくだね!」


「もしもしポリスメン?」


「コルトちゃん、抑えて。 この人これでも権力持ってるから」


素早く携帯を取り出して通報の体勢に入る彼女を寸でのところで止める。

局長にペドフィリアの気があった事はショックだ、それでも今ある仕事の始末をつけてから消えてもらわないと色々困る。


「違わい! 私は至ってノーマルだよ、距離を取るんじゃないよそこ!」


「性癖倒錯者は皆そういうんだヨ……」


「局長、罪を償ってください」


「違わい! ……ああもう、これ以上話してもややこしくなるだけだね。 縁クン、君は仕事に戻り給え!」


「はいはーい、コルトちゃんも一緒にお茶しましょう。 局長と一緒にいると危険よ?」


「大丈夫だヨ、襲われるより早くテディの腹からミニミが火を噴くからネ」


「君ら私の命軽んじすぎではないかね……?」


まあ万が一に局長が極度の変態であろうとも、この場で魔法少女に手を掛けるような真似はしないだろう。

そういう意味では彼は信頼できる、この局一番の小心者なのだから。



――――――――…………

――――……

――…



「……行ったネ、もう大丈夫だヨ」


「ううむ、中々肝が冷えたよ……」


縁が去って行ったことを確認し、隣に立っていた局長が胸を撫で下ろす。

まったくなんでこんな事をしないといけないのか、テディの腹から局長が着ていたジャージと紙袋を1つ取り出す。


「しっかし服装まで変えてスイーツ買ってたなんてネー、仕事もせずに、私達に隠れて」


「ふ、福福堂の大判焼きは絶品なんだぞう! ……ま、まあどうしてもというのなら君に分けてやらんこともないがね?」


「おっ、悪いネ! それじゃ2つほどもらおっカナ」


「ふ、二つもかね!?」


「あーあー、1個じゃ物足りなくてつい口が滑っちゃいそうだナー?」


「え、ええい! いくらでも持ってけドロボー!!」


言質は取った、遠慮なく袋の中から包みごと大判焼きを3つ引き抜き、テディの腹に度収納する。

有名どころの菓子なら味は期待して良いだろう、三時のおやつが楽しみだ。


「み、三つも……う、ううむ。 だが良いだろう、その代わり一つ聞かせてもらいたい!」


「むっ、急だネ。 別にいいけどなにカナ?」


「ブルームスターという魔法少女についてだ、君は何か知っているのだろう?」


「……むしろ局長であるあんたの方こそ知らないと問題あるんじゃないカナ」


すると局長は露骨に視線を逸らして下手な口笛を吹き始めた、さては報告書もろくに目を通してないな。

しかしどういう風の吹き回しか、理由は知らないが素直に教えるのは何だか癪だ。


「サボってたツケだネ、自分で調べなヨ。 私は私でやることがあるのサ」


「そ、そんな後生なぁ。 私の頼みより優先すべき事とは一体何かね!?」


「あんたと喧嘩してた男だヨ、警察に引き渡したけどどうも様子がおかしいらしくてネ。 一緒に来る?」


「うむ、職務に懸命で実に結構。 その調子でこれからも頑張り給え、怪我と無茶にだけ気を付ける様に」


ありゃ絶対来ないな、ナイフで襲われかけたのが随分と効いたらしい。

……それにしてもなぜ局長はこれほどブルームスターに執着するのだろうか。



――――――――…………

――――……

――…



「……よっ、そっちは無事終わったか?」


「むぅ、いつものおにーさんに戻ってる……」


魔法局を後にし、待ち合わせ場所に指定したコンビニ前ではブルームスターの姿から戻ったおにーさんが待っていた。

残念、あの姿のままなら今度こそいいとこのブランド店に引きずり込んで着せ替え人形にしていたのに。


「なんとなーく嫌な予感したんでな、しっかしまさかあのジャージのおっさんが件の局長だったとはね」


「酷い偶然もあったものだネ、おにーさんの方はどうだった?」


「ああ、男島のおっさんから良い話を聞けたよ。 局長さんを襲った男だが、酒を飲んでいたわけじゃないらしい」


「……イホーな薬物?」


「いや、おっさん曰く薬物中毒にしてはどうも様子が違うようだ。 話を信じるならさて原因は何でしょうかとなるわけだが」


なるほど、それはとてもきな臭い。

遠目から見ただけでも分かるほど、男の行動は常軌を逸していた。

身なりからしてそれなりに社会的な生活を営んできた人間のはずだ、それが突然おかしくなったのなら……


「……魔物絡みカナ?」


「可能性としちゃありえる、俺はシルヴァと一緒に調べてみる。 そっちは?」


「ドクターに話を通してみるヨ、また後で落ち合おっカ」


この件が魔物絡みだというのなら、杭が出る前に叩いて損はない。

そうと決まれば善は急げ、と魔法局へ戻ろうと脚を向けた時、ふとあの事を思い出した。


「……そういえばおにーさん、ブルームスターの時に局長と出会った事はあるカナ?」


「ん? いや、今回が初めてだと思うけどなんでだ?」


「ソッカ。 何でもないよ、ただちょっと謎が深まっただけだからサ」


野良の魔法少女にあれだけ敵愾心を燃やしていた局長が急に手のひらを返した、それには相応の理由はあるはずだ。

だが当人に面識はないというなら一体何だというのか。


「うーん、ミカちゃんカー……」


「誰の話してんだ?」


「私もよく分かってない話だヨ、それじゃまた後でネー」


おにーさんと別れ、魔法局へと戻る道のりを歩く。

そしてコンビニ前の交差点を渡った時、テディの腹に突っ込んでいた携帯が震えた。


「はいもしもしー、こちらコルトだヨ。 何用カナ?」


『ボクだ、今どこにいる?』


電話越しのくぐもった声はドクターのものだ。

心なしか緊張気味なものに聞こえる、彼女がこうして連絡を取るということは何かあったということか。


「ちょうど魔法局に戻るとこだヨ、急いだほうがいい?」


『そうしてくれると助かる、我らが局長様を襲った男について調べたら嫌な事が分かった』


「仕事が早いネ、ちょうどその件を調べてほしかったんだヨ。 それで分かった事って?」


『ここで話すより来てもらった方が早いな、いつもの作戦室で待つ』


伝えるべきことを伝え終わると一方的に通話が切れた、魔法局まで急いで向かえばここから10分程度か。渡ってきた交差点を振り返ると、向こうに見えるコンビニにはすでにおにーさんの姿はなかった。


「……ま、あとででいいカナ」


急げと急かされた以上、余計な道草を食うと後で何を言われるか分からない。

気持ちを切り替え、私は駆け足で魔法局へと向かっていった。

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