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何が彼を突き動かすのか エピローグ

「……烏羽? 葵ちゃん、本当にその子たちはそう名乗ったの?」


「はい、その通りです……」


作戦室の床に正座したサムライガールが縁の質疑に答える。

意気消沈とした彼女の首には「私は闇雲に刀を振り回した挙句乙女の臀部を鷲掴みにしました」と書かれた札がぶら下がっている、まあ私が書いたんだけどネ。


「烏羽か……縁、その名前に心当たりがあるのかい?」


「うん、ちょっと待ってね。 えっとー……」


縁が白衣のポケットから電子端末を取り出し、素早く操作を始める。

思い当たる節はあの中に入っているのか。


「……じゃあその間に2人の魔法少女について話をしようか」


「はい……あの、煙幕弾の解析をしていたようですが何か分かったんですか?」


「そうだそうだ、それ気になってたヨ。 前に比べてかなり早かったみたいだケド」


魔物の討伐を確認し、魔石を持って帰る直前にドクターから煙幕の成分調査を頼まれた。

幸いアスファルトの弾痕から弾丸そのものを回収できたため簡単だったが、あれから何か分かったのだろうか。


「ああ、予測通りだった分かなり早く済んだ。 コルトが回収した弾丸には血球以外の血液成分……おそらくは涙液と思われるものが検出できた」


「るいえき……涙ァ? 泣きながら弾でも撃ったのかヨ?」


「そんなわけないだろう、先に言っておくと前に回収された赤い弾丸からは髪や爪を削った粉末に血液が検出……まあ色々含まれていたわけだが主に血液から生成されたものだった」


「……体液を弾丸に変える魔法、ということですか」


ドクターの話を聞いた葵がぽつりと呟いた。

その通りだとしたらなんとも生々しい魔法があったもんだ。


「そうだね、仮に『魔弾の魔法』とでも呼ぼうか。 推測するに血液や涙液以外にも同じような弾丸を生成できるはずだ」


「……ぞっとしない魔法だネ」


涙はともかく血液をどうやって抽出したのか、考えたくはない。

烏羽朱音、『災厄の日』を生き延びたという彼女は何故こんな魔法を身に着けたのか。


「……ああ、あった! 皆、これを見てこれ!」


「ちょっと縁、今大事な話をしているんだから後にしてくれヨ」


「こっちも大事な話なんですけどぉ! もう、良いからこれを見て!」


そういって縁が見せた端末画面には古い記事が載っていた。

日付は今から10年前、というよりこれは……


「……『災厄の日』の記事ですか?」


「そう、名前に聞き覚えがあるはずだわ。 ほら、この人」


縁が画面をスクロールさせると全ての根源である魔力拡散の中心地、つまり当時の魔力研究所について書かれた記事に移る。

記事の横には研究所で働いて研究員たちの名前が羅列されており、その中から「烏羽」の名を見つけた。


「―――烏羽久郎(からすばくろう)、第一魔力研究の主任か。 まさか彼女達は……」


「ええ、彼女達の話が本当ならね」


偶然の一致で片付けるには少し珍しい苗字だ、それに彼女達も東京で生まれ育ったと言っていた。

もしその言葉に嘘がないとするならば……


「……彼女達は烏羽主任の娘さん達よ、考えにくい話だけど災厄の日から10年間あの東京を生き延びた。 そして彼女達の目的は……」


「…………東京の再生、ですよね」


――――部屋の中はただただ重い沈黙に満たされた。


――――――――…………

――――……

――…



「で、なぁーにやってたんだよ馬鹿姉貴」


「ご、ごごごごめんねぇ朱音ちゃん……」


姉の魔法を用いた空間跳躍によりようやくアジトへと戻ってきた。

まったく、二言目にはすぐ謝罪だ。 コイツのせいで余計な()を使わされた、腹立たしいったらない。


「し、しししし私用で出かけていたんだけど、メアリーちゃんの範囲に入ってたみたいで他の魔法少女が邪魔しないようにそのあの……」


「あ゛ーもぉー分かったよ、余計なお節介焼いて余計な厄介事持ってきたわけだ」


「ううぅ……ごめんなさい」


「……キヒッ、まあいいよ。 あんたのグズっぷりは知ってんだ、フォロー回したんだからまず謝るより感謝の言葉だろぉー?」


「う、うん。 ありがとうねぇ朱音ちゃん……」


……本当に頼りがいの無い姉だ、何でこんな奴が魔法少女になれたのか。

この世に神がいるというのならそいつはとんだ性悪なのだろう。

何でこいつに才能を与えて私には―――


「……っ、くっそ頭がいてぇ」


「あ、朱音ちゃん! ややややっぱりお薬の使い過ぎじゃ……」


「誰のせいだよ、あんたみたいな純正じゃないんだからアタシはこんなものに頼らなきゃ……」


割れるように頭が痛い、出力を上げた代償だ。

こんなもんに頼らなければまともに戦う事も出来ない自分に腹が立つ。


「……で、そのダークネスシル何とかってのは役に立ちそうなの?」


「う、うん! 私たちよりもね、ずずずずっと魔力の扱いが上手かったの! だからね、()()()()()()()()()()()()!」


興奮した様子の彼女はべしべしと壁を叩く。

そこには助けを乞うように伸ばされた人の手が、苦痛を叫ぶ表情で固まった顔が、何かから逃げ出そうとした足が、壁一面にびっしりと生えている。

いつも通りだ、変わらない。 この東京にはこれくらいの地獄絵図は幾らでもある。


「……キヒッ、だったらまずはそいつをとっ捕まえてだな。 残りは殺して()にするのは変わらないけど」


「で、ででででもだいだだだ大丈夫かな? あ、あの子たち東京に乗り込んで来たり……」


「キヒ、キヒヒヒヒッ! そりゃ無理だろ、あいつらじゃここには届かないさ!」


割れた窓の外へ視線を向ける。

10年変わらない灰色を見せる空、もはや住まう人もいない廃墟の数々、そして誰もいない町を悠々と闊歩する魔物たち。

ああそうだ、これが私達の東京だ。 私達が取り戻したいと焦がれる故郷の姿だ。


「……あいつらにゃこの魔物の壁を突破出来ないよ、つまらない質問するなっつの」


「そ、そそそそうだよねぇ。 ごめんなさい……」


「すぐ謝んのやめろ、ったく……少し寝る、起きたら飯にするから準備しといて」


「は、はぁーい! ふ、ふふふふ、今日のご飯は期待して良いからね!」


「ほいほい、飯ぐらいしかとり得ないんだから精々腕を振るってよ、お姉ちゃぁん?」


騎士の調整ももうじき終わる、決戦はもうすぐだ。

どういう結果になろうとも後悔はしない、その為にも体調は万全に戻す必要がある。


……大丈夫、間違ってなんかいない。

父さんが遺した力で、この街を取り戻すんだ。


未確認飛行型魔人・メアリースー

【能力】自身の影に接触した知的生命体を精神世界へと引き込む。


巨大な未確認飛行物体に埋まった宇宙人のような姿をした魔人。

細かく区切った様な喋りと子供っぽい性格が特徴。

その巨大な下半身で街を飲み込むほどの影を作り、触れた生物を精神世界へ引き込むことができる。

精神世界はメアリースーの思う通りに書き換える事ができ、彼が許可しない限り眠りから目覚める事は出来ない。


精神世界では肉体的な強さより心の強さが優先される世界。

故にメアリースーは他人に悪夢を見せ、精神的な優位を保とうとする。

作中では心が壊れかけてた陽彩はこの魔人に出会う事も出来ずに悪夢の中をさまよい続けた。

逆にハクは彼の許可もあり、すんなりと出会う事が叶い、その上怒りに任せた拳のお見舞いにも成功している。


「メアリースー」という名は魔法少女オーキスに名づけられたもの、

作中で自慢したとおり、強い名前を持つことで心の優位性を引き上げる狙いがあったと思われる。

ただ幾ら強そうに見せようと、現実世界では高空に浮かんでいるという特徴を無視すれば戦闘能力はかなり低い。

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