魔法少女強化合宿:ある魔法少女のお話 ③
「……で、何が聞きたい?」
「「「「「光栄です!!!」」」」」
合宿先にリゾート地にて、ラピリスたちに見捨てられて根負けした俺は、目を輝かせる何人もの魔法少女に囲まれていた。
正体不明の非公式魔法少女、そんな存在に義賊のようなアウトロー染みた憧れがあるのかもしれない。
だが俺からすると見つめられれば見つめられるほど胃に穴が開く思いだ。
「と、とりあえず落ち着いて……質問があるなら一人ずつ頼む」
「「「「「じゃあまず私が!」」」」
《わーモテモテですねー》
「複雑な気分だな……」
我先にと盛り上がる魔法少女たちは、順番を決めるためにじゃんけん大会を始める。
その様子を適当な漂流物に腰かけて遠巻きに眺めていると、じゃんけんに勝ち抜いた猛者が一人、また一人と駆け寄って列を作り始めた。
「よ、よろしくお願いします灰被り姫さん!!」
「その呼び方はむず痒いからやめてほしいかな……」
「分かりました! 早速ですがブルームスターさん、ラピリス様と接吻したという噂は本当ですか!?」
「ぶふぉッ!!」
手持ち無沙汰で口にしていたお茶を盛大に噴出した。
「ど、どこでその話を……?」
「はい、チャンピョンさんから聞きました!!」
考えてみれば当たり前だ、あの場には俺とラピリスの他に気絶したチャンピョンしかいなかった。
まさかラピリス本人が話したわけではないだろう、情報の出所があるとすればそこだろう。
そしてあからさまに動揺した俺の反応は、彼女達には答えを与えているようなものだった。
「本当だったんですね……! シチュエーションは!? どちらから口づけを求めたのですか!?」
「待て、待て、待て! 何か誤解しているようだけど俺とラピリスはそういう関係じゃない!」
「でもキスはしたんですよね……!?」
気づいてみればあれほど順番を争っていた魔法少女たちは皆、横並びとなって同じ話題に食いついていた、
しかし中身が男とはいえ、事情を知らないはずの彼女たちになぜここまで熱が籠るのだろうか。
「お、落ち着け……あれは医療行為みたいなものだ、人工呼吸にいちいち胸がときめくか?」
「良いんです、そこに事実があれば我々は捗るので」
中学生くらいだろうか、眼鏡をかけた魔法少女が手元のメモ帳に凄まじい速度で筆記を続けていた。
何故だろう、彼女の視線から怖気を感じる。
「ま、まあその話は一旦置いておこう! ラピリスも聞いたら気分が悪くなるかもしれないしな!」
「そうですね、私としても拡散されると困る話です」
「だよな…………え゛っ?」
夏の蒸し暑さも忘れるほどに冷たい殺気が背中にぶっ刺さる。
冷や汗が止まらない、なるべく刺激しないようにゆっくりと振り返ると……青い波紋が美しい刀が、俺の鼻先に突き付けられた。
「…………よ、よおラピリス。 元気ぃ……?」
「ええ、先ほどあったばかりですよね? 見ての通り元気ですよ、あなたを切り倒せるぐらいには」
「ど、どこから聞いてました?」
「あなたが飲み物を吹き出したあたりから」
つまりほぼ最初から聞いていたようなものだ、この時点で俺の行動方針は確定した。
刀の切っ先が動くよりも早く、袖から取り出した羽根を箒に変えて飛び去る。
幸いにもラピリスの殺気を感じてか、周囲の魔法少女たちも一足先に避難していたため被害はなかった。
「待て、ブルームスター!! その首差し出せ、今すぐその記憶を消してやるー!!」
「ラピリス、話し合おう! まずはその刀を降ろせ、な!?」
その日、島内では命がけの鬼ごっこを繰り広げる俺とラピリスの姿が目撃された。
修羅場の渦中にいた魔法少女たちは皆、ラピリスの報復を恐れて喧嘩の理由について皆、口を閉ざしたという。
なお、関係があるかは分からないがこの事件のあと、ラピリスに対して酷くおびえた様子のチャンピョンが目撃されたという。




