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エンドロールは終わらない ⑤

巻き上がった白い炎を払いのけ、変身が完了する。

灰を被ったような白い髪は艶のある黒髪へと変わり、纏うマフラーも黒い。

見た目こそブルームスターと変わりないが、全身の衣装はすべて白と黒が反転していた。


≪……うまく行ったわね、調子はどう?≫


「ああ、悪くない。 ……ラピリス、あとは任せてくれ」


「遅いんですよまったく……! 正直かなりしんどいので、頼みます……!」


今の今まで弾幕をしのぎ切ってくれたラピリス達に代わり、あらためてンロギと対面する。

相手も丁度頭部の再生が終わったのだろう、怒りと憎悪に染まった表情で全身から魔力を吹き出している。

黒衣の変身を解除したせいで黒炎の燃焼も弱まって来た、おそらく二度はない。


「邪魔なんだよテメェら!! 退け、どいつもこいつも僕の邪魔をするんじゃねえ!!」


「ゴルドロス、ここまで来た道があるんだろ? 全員連れて退路の確保だけ頼む」


「わかった……けど、大丈夫なのカナ?」


「心配するな、すぐに終わらせる。 5分以内だったか?」


「はっ、なんだよカッコいいなァ。 ガキの前で格好つけてんじゃねえぞ僕の前でさあ!!」


ンロギの足元から塵が舞い上がり、それはまるで竜のような形を成して天へと昇って行く。

ご丁寧に燃え残った黒炎も巻き込みながら煌々と燃える塵の竜に飲み込まれれば、火傷どころでは済むまい。


≪試運転も無し、ぶっつけ本番だけど自信のほどは?≫


「負ける気はしないな、こっちはもう独りじゃないんだ」


「ああそうかよ、だったらお仲間諸共さっさと死んじまえ!!」


見上げるほどに巨大な火炎の竜を前に、首に巻いたマフラーを外して箒へと変える。

これ一本で十分と言わんばかりの態度が気に障ったのか、青筋を浮かべたンロギはためらうことなく竜を俺へ襲わせる。

だが灼熱の大口に飲み込まれる寸前、形を与えられた竜は再び塵へと戻り、空中で霧散してしまった。


「はぁ……!?」


「忘れたのか、お前が育てたネロの力を」


「テメェ――――びぶっ!?」


まさか防御でも回避でもなく、無効化されるとは露にも思わなかったのだろう。

呆けたンロギの姿はあまりにも隙だらけで、その顔面に箒を叩きつけるには十分すぎるぐらいだった。


「ああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!? クソが、なんで……治らねえ!?」


「賢者の石はもう使えねえよ、それはお前が一番よく分かってるだろ」


「ふざ、け――――」


抵抗する言葉を遮り、俺の脇をすり抜けて飛んで来た銃弾がンロギの肩を貫く。

後ろを振り返って見れば、硝煙が立ち上る拳銃を構えたゴルドロスがウインクを返してきた。


≪なかなかやるじゃない、あんたの仲間≫


「あのバカ……」


「ぎ、あぁ……ッ!! ガキィ!!」


ンロギは久方ぶりに感じたであろう治らない激痛に悶えながらも、未だ逆転をあきらめていない。

足元の塵を鋭く隆起させようとするが、どれほど魔力を集めようとも纏めたそばから散っていく。


「クソ……クソ、クソ、クソッ!! ネロォ!! 僕に力を貸せ、誰がお前を創ってやったのか忘れたのか!!?」


≪………………≫


「なにか伝える事はあるか?」


≪結構よ、最後までこの人にとって私達は道具だったみたいだから≫


「クソ……クソがあああああああああああ!!!!」


絶叫しながら、ンロギは足元の塵を掴んで俺の顔へ投げつける。

反射的に目を閉じてしまった瞬間、ンロギは俺の脇を抜けて避難していたラピリス達目掛けて走り出した。


「はは……ははははハハハ!!! そこだな!? そこにお前たちが渡って来た門があるなァ!?」


≪ちょっと、何してんのバカ!≫


「チッ、悪い……!」


 ――――キヒッ、なぁにしてんだよ間抜け


「…………え?」


霞む視界の中、ンロギを止めようと振り返る寸前、あるはずのない声が聞こえて足を止める。

戦闘の衝撃で舞い上がる塵の中、キラリと光る「何か」が俺の視線を釘付けにした。


≪ちょっと何してんの!? 逃げる気よアイツ!!≫


「…………そうか、そうだな。 お前もこっちに来てたんだな」


≪はぁ? 何言って……ちょっと!?≫


ンロギとは逆方向に駆け出し、塵に埋もれていた「それ」を拾う。

そうだ、同じ門を潜って来たなら俺たちよりも先に居たはずだ。

この惨劇を引き起こした元凶に文句を言いたい奴が、もう一人。


≪魔法少女名:()()()との接続を確認、固有魔法により接合を完了≫


≪限定解除承認省略、相乗します≫


ネロのものではない機械音声が流れ、指先から俺のものではない魔力が流れ込んでくる。

恐らく死体は既にこの塵に紛れて風化しているはずだ、それでもこの力だけは残してくれていた。

彼女の杖である拳銃だけが、塵の中で一切朽ちる事も無く。


「ハハハハハハ!! 僕は、死なねえ……! 必ず生きて―――ギャアッ!?」


ンロギの腕が立ちはだかるシルヴァたちに届く前に、間髪も入れずに放たれた二発の銃弾が奴の脚を撃ち抜いた。

弾丸の衝撃で転げるように倒れるンロギ、さらに風穴が開いた脚からはあの黒炎が再び燃え上がる。

そして、それが最期の力だったかのように……二発の弾丸を吐き出した拳銃は、音を立てて砕け散った。


「……ありがとよ、スピネ。 お前たちの無念も、全部連れて行く」


「あ、が……ああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! テメェ、ふざけるな……なんで、なんで僕の邪魔をしやがる!!」


「何度話したってお前にゃ理解できないよ、相互理解は不可能だって散々思い知らされてんだろ? ……互いに次で最後にしようぜ」


虚空からスマホを呼び出し、画面に表示されたアプリを押下する。

ネロの力があれば、賢者の石は破壊できる。 だからこれが正真正銘最後の一撃だ


≪――――BURNING STAKE!!≫


承認と同時に、俺の片足に紅い炎が灯る。

やはり最後を飾るには、初めてハクに貰ったこの技がふさわしいと思ったから。


「クソ……クソがぁ……! 賢者の石は無敵だ、魔力は万能だ……僕が、負ける訳ないだろうがよォ!!!」


満身創痍でありながらもなおも立ち上がり、ンロギもまた余力の全てを賭した最後の技を練り上げる。

奇しくも脚へ収束される魔力に合わせて燃え上がるどす黒い炎は、こちらと同じ構えにも見えた。


「――――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


「死ねえええええええええええええええええええええええ!!!!!」


互いに跳躍し、空中で両者の脚が交錯する。

激突は一瞬だった、二色の炎がぶつかり合い、文字通りの火花を咲かせて……着地する。


残る魔力の一滴まで注ぎ、膝をついた俺に対し――――立ち上がったのは、ンロギの方だった。


「は……はははぁ……ハハハハハハ!!!」


勝利を確信したかのように高らかに笑うンロギ……しかし、その身体は一瞬にして紅い炎へと包まれる。

交錯した瞬間、蹴りを命中させていたのは、俺の方だ。


「はは……ハハハ……なんだよ、僕の負けか……」


「ああ……お前も疲れたろ」


「そうだなぁ……そうか、これで終わりかぁ……」


ネロの力が籠った蹴りを受けたンロギの身体は、火あぶりになる中でも再生することはない。

炭になるまで焼き尽くされたその身体は、巻き上がる塵に混ざって崩れ去って行った。

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