エンドロールは終わらない ③
燻り続ける炎の中で何度目かも分からない気絶、そして覚醒を繰り返す。
死ぬことはなくとも気を失う事はできるらしい、あるいは頭か心臓が潰れて一瞬だけ死んでいるのだろうか。
そんなことも曖昧になるほどに、俺たちは戦い続けていた。
「ああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!! 鬱陶しいんだよテメェ!!!」
ンロギの振るう剣が腕を斬り落とすと同時に、俺が打ち下ろした箒がンロギの肩を砕く。
ただの人間なら致命に近い負傷、だが俺たちにとっては1秒と掛からず治るものだ。
いや、治療でもない。 “負傷した”という状態すら不明瞭なほど、俺たちの存在が焼き尽くされているだけなのだから。
「ざっけんじゃねえェ、魔力が練れねえ……! お前のせいで無茶苦茶なんだよ、この炎を消せぇ!!」
「消えねえよ、俺かお前が死なない限りはな」
「じゃあテメェが死ねよほらァ!!」
ンロギの蹴りが腹を貫く。 しかし陽炎のように輪郭が揺らめく体は、次の瞬間には元通りだ。
この不毛な殺し合いを続けてどれだけの時間が過ぎただろうか。 この世界には時間を確かめる術もない。
あるのは曇天と雪のように降り積もる塵のようななにかだけだ、それ以外には何もない。
人も、植物も、建物も、何もない。 塵に覆われた足元に下にまともな大地があるのかすら分からない。
地獄があるとしたこういう景色なのだろうか、この世界はすべて魔力に分解されて何も残っていないのだ。
「分かれよ、いい加減にさァ! 魔力は万能だ、賢者の石があれば全知全能にすらなれる! 人類は神にすら手が届くってのによォ!!」
「その結果が……この世界だろ……」
「結果じゃない、過程だ! 最後には必ず僕が笑ってみせる!!」
「なんだよ、結局は自分のことしか考えてないじゃねえか」
「…………あ?」
「何もかも責任を全部他人に押し付け、どれほど犠牲を払おうと駄々をこねる。 お子ちゃまじみたお前は救世主なんかになれねえよ」
黒炎に巻かれながらも分かるほどに激昂したンロギが、俺の喉を鷲掴みにして締め上げる。
呼吸すら必要のない俺たちにこの行為は意味がない、ただものが喋れなくなるだけだ。
つまり、それだけ俺の言い分が図星だったのだ。
「ガハ……挙句の果てに、逆切れかよ……!」
「黙れ、お前のせいで僕の完璧な計画は無茶苦茶なんだよ! お前のせいで魔力もろくに使えねえ、あの世界との門もテメェのせいでズタズタだ、お前のせいで、お前のせいでエエエエエエエ!!!!」
怒り狂った叫び声をあげ、ンロギは力任せに俺を投げ捨てる。
隔てるもののない地面を盛大に転げまわりながら、ようやく停止した俺の身体には幾本もの剣が突き刺さった。
「っ……」
「僕がここでやめちまったらよぉ、今まで払ってきた犠牲はどうなる!? お前のせいで何百もの滅んだ世界の意味が無駄になるんだよ、お前のせいで!!」
「俺じゃ……ない……どこかで、止まることも出来たはずだ……もっと違うやり方もあったはずだ……犠牲を増やしてきたのは、お前の責任だ……!!」
魔力で形作られた剣が、炎に溶かされて空に消える。
やはりこの男、黒衣の炎に焼かれながらも少しずつ魔法が扱えるようになってきている。
野放しにするわけにはいかない、この悪魔はまた同じ悲劇を繰り返す。
「……何度でも言ってやるよ、ンロギ。 他の誰の責任でもない、全部お前のせいだ」
「黙れ、僕は悪くない!! お前の世界だって僕が救うはずだったんだ!!」
喚き散らすンロギを見ながら、元の世界の事を思い返す。
俺の方法は間違っていなかっただろうか、アオたちは魔力なんてなかった世界を平和に歩めているだろうか。
大丈夫だと信じたい、アオは強い子だ。 俺なんていなくても、きっと幸せに生きていける。
だから俺は、心が朽ち果てるまでこの男を足止めしなければならないんだ。
「分からないなら何度だって啓蒙してやるよ、時間はいくらだってあるんだ」
「僕にはお前と遊んでるような暇はないんだよ……! さっさと死ね!!」
死なないはずの身体は鉛がこびりついているかのように重たい。
気力が参ってきているのか、情けない。 弱音をいくら吐いたところで倒れていい理由にはならない。
「―――――摂理反転」
……それなのに、なぜ
「私は……あなたの犠牲を認めない!!」
この耳には、幻聴が聞こえるのだろうか。




