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雪野原にて ①

「……雪だ」


「雪だネ、どおりで寒いと思ったよ」


ドクターと一緒に見上げた空からは、ぱらぱらと雪が降り始めていた。

まだ雪が降るには早い時期だが、いまさら異常気象のひとつぐらいで驚くほどの状況ではない。


「こりゃ積もりそうだヨ、今のうちに除雪剤でも撒こうカナ」


「その必要はないさ、むしろこの雪はボクたちの味方かもしれないぞ」


「What's? どういうことだヨ?」


「ほな、その先はうちから説明させてもらうわ」


「うひぇあぁ!?」


いつのまに背後まで接近した気配に耳元で囁かれ、思わず変な声が口から漏れる。

慌てて飛びずさってみれば、いたずらな笑みを浮かべて立っていたのは魔法少女ロウゼキだった。


「うふふ、あかんよゴルドロスはん。 決戦前にそない油断してると食べてまうで?」


「そ、sorry……じゃないヨ!? なんで魔法少女総大将がこんな最前線にいるのサ、しかもそんな脚で!!」


魔法少女ロウゼキ、自他ともに認める最強の魔法少女。

それは本来ならば魔法局の本拠地である京都を守らなければならない存在だ。

しかも杖を突く彼女の片足は、膝から先がまるっきり無くなっている。 東京で敵から受けた致命的な負傷だ。


「ちゃんと傷口は塞いでもろたから心配あらへんよ、それに最前線やからこそうちが必要やろ?」


「欠損部位についてはボクも検診済みだ、問題はあるが問題ない」


「どっちだヨ!!」


「うふふ、戦力として侮ってもらいたくはないなぁ。 それに世界が滅びるかもしれない瀬戸際でどこに隠れても一緒やろ?」


ころころと笑いながら、ロウゼキさんが指ではじいた小石が音の壁を突き破って直上へと打ちあがる。

三秒、四秒、そして五秒後に低いうめき声をあげ、墜落してきたのはコウモリの羽が生えたライオンのような魔物だった。

濃密な魔力の気配を嗅ぎつけ、いち早く現われた魔物だろうか。 それを小石で貫いて一撃、たしかに足一本分の衰えは感じさせない。


「ええか? これから魔物も仰山集まってくるで。 もし魔法陣が開けば魔力が一番濃くなるのはここや」


「……つまり、人手が必要って事だネ。 ブルームの邪魔をさせないために」


「そして集まってきた魔物を外に逃がさないために、だ。 ここが最前線であり、最終防衛線となる」


「せやせや、なんや海外やと核落してしまおうかなんて言うてはるけどな。 そないなもんで滅びてくれたら苦労しいひんのやけど」


「シャレになってないネー……」


人間が持てる科学の全てを絞り尽くしたところで魔力は滅びない、不毛な焼け跡を残すばかりだ。

それでも魔法少女が敗北した場合、この国は爆撃されるのだろう。 つまり日本が滅びるかどうかの瀬戸際に私達は今立っている。


「……作戦の最終確認に入ろうか、石板は?」


「ここにあるで。 ほな―――うちらの運命、たった一人に託そうか」


――――――――…………

――――……

――…


厚い雲のせいだろうか、日は出ているというのにひどく暗い。

降り続く雪のせいで視界を阻まれているうえ、代わり映えのしない景色のせいで自分がちゃんと前へ進んでいるかも不安になって来た。


「ネロ、道はこっちで合っているか?」


≪聞かれたって私も土地勘ないから分かんないわよ、自分で調べたら?≫


相棒の代わりに居ついた案内人はつっけんどんな態度を取るばかりだ。

仕方なく虚空から呼び出したスマホにナビゲートを頼むが、幸いにも道は間違えていない。


≪そんなに不安ならもっと地上に近づいて飛べばいいじゃない≫


「賢者の石があるんだ、なるべく人がいる場所に近づきたくはない」


≪……そう、だったらいいわ。 好きにすれば≫


ネロとの会話は長続きしない。 一言二言交わせばすぐに口を噤んでしまう。

元々敵同士だった気まずさもあるのだろうが、一番はこれからまた創造主(ンロギ)と対面することへの緊張だろう。


「無理しなくていいんだぞ、なんならどこかに隠れているか?」


≪馬鹿言わないでよ、私だって……あいつの仇ぐらい取りたいのよ≫


「……そうか」


そうこうしている間に、マップのナビゲートが終了する。 目的の採石場へ到着したのだ。

すぐに羽箒の高度を落とし始めると、すでに積もり始めた雪の隙間から覗く黒い魔法陣がはっきりと見えた。


≪……だいぶ活性化してるわね、時間的にはドンピシャよ≫


「そりゃよかった、遅刻するよりはずっとまし……ん?」


さらに高度を落として行くと、白景色の中に浮いたカラフルな人だかりを見つける。

日本中から集めて来たのだろう、それは色とりどりな魔法少女の集団だった。

ついでにこちらに手を振るゴルドロスたちの姿も見つけると同時に、スマホへシルヴァの着信が届いた。


『盟友、聞こえているか? 今地上から盟友の姿を確認したぞ』


「シルヴァか、悪いけど皆をいったん避難させてくれ。 俺に近づくと魔力汚染を受ける」


『問題ない、ドクターがラピリスと同じ処置を皆に施した。 簡易的な措置ゆえ長持ちはしないが、少し話す時間はあるぞ』


「……わかった、今行くよ」


観念してそのまま地上に降りると、殺気だった魔法少女たちの視線が一斉に集まる。

すでに俺の話は伝わっているのか、好奇心の中にも恐怖や怒りが入り交じっているのを肌で感じる。


彼女達には俺がどう見えているのだろうか――――世界を滅ぼす元凶となる、災厄に等しい存在が。

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