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昏い夜明け ④

『ボイジャーが回収してくれた石板の解析を終えた、あれもまた“門”なのだ』


「出入口……そうか、10年前の」


『……思ったより驚きがないな』


「ハクの話を聞いてなんとなく予想はしていたんだ、東京事変の時にシルヴァが手を加えた魔法陣だろ?」


『うむ、そして……スピネが通って行った門だ』


以前にハクが10年前の災厄の日についての記憶を話した時、この世界へ渡って来た出入り口の存在が気がかりだった。

10年前の爆発で巻き込まれ消えたのかと思ったが、違う。 

東京事変で扉が閉まるその瞬間まで、この世界に魔力を排出する排気口として機能し続けていたのだから。


≪横から失礼するわ、その門は今も機能してるの?≫


『むっ? 盟友、この声は……』


「こちらで保護してるネロだ、シルヴァに解析を頼んだのもこいつだよ」


『なるほど、承知した。 石板に描かれた魔法陣は今も機能……させることはできる』


≪歯に物が詰まった言い方ね、今は動いていないの?≫


『以前に我とスピネで閉じてしまった……』


≪なにやってんのよあんた!?≫


スマホから伝わるバイブレーションはネロの動揺そのものだ。

たしかに東京の事変の際、死を悟ったスピネが向こう側へと渡り、両世界の繋がりを遮断してしまった。

あの時はまさか別世界に繋がっているとは考えなかったが、調査を進められなかったことが今となっては悔やまれる。


『だ、大丈夫だぞ。 少し時間はかかるが再起動は可能だ、だが……』


「問題ない、作業を進めてくれ。 その石板が俺たちの切り札になる可能性があるんだ」


賢者の石を宿したンロギを相手に、どうやってこの世界に被害を及ぼさず倒すか。

答えの一つが別世界への門だ。 地球ではない場所でならいくら暴れても被害は出ない。

それに、最悪の場合には臭いものに蓋をして時間稼ぎも出来る。


『……了解した、1時間はかからぬ。 完了次第追って連絡をしよう』


「ああ、頼む。 ……それと、今から伝える場所に魔法少女を1人派遣してほしい、できるだけ魔力耐性の高い子を」


腕の中で眠るラピリスを撫でながら、一通りの連絡を終えた俺は通話を切った。



――――――――…………

――――……

――…


「……助かったよ、ネロ。 シルヴァに解析頼んだのもお前だったよな」


≪いや、流石に私も一人であの魔法陣読み解ける奴がいるのは聞いてないんだけど……≫


ラピリスを魔法局へ預けた後、スマホから聞こえてくるネロの声はドン引きしていた。

俺にはどれほどの偉業なのか分からないが、本職から見ればシルヴァのやっていることは相当なものらしい。

まあ、以前からたびたびシルヴァのセンスは割と片鱗を見せていたが……


≪まあいいわ、今はそれよりあんた、創造主ごと向こうの世界に飛び込む気でしょ≫


「ああ、こっちの世界に迷惑かける訳にはいかないだろ」


≪そうりゃそうだけど、ちゃんと帰ってくるつもりはあるの?≫


「結果次第だ、何とも言えない」


勝機が乏しいわけではない、それでもンロギの力は未知数だ。

相手にも隠し玉があれば戦況は容易くひっくり返る、いざという時のために保険は必要だ。


≪言っておくけど、石板壊して出入り口を塞ごうとしても無理よ。 10年前の爆発にも耐えたんでしょ≫


「大丈夫だ、こっちの大将には世界の破壊者がいる」


≪はぁ~~~! つくづく規格外よこの世界!!≫


「俺たちからすれば魔法少女なんて存在そのものが常識外なんだけどな。 ……それにしても随分と気にかけてくれるな」


≪……私の“姉”はあんたに死んでほしくないらしいから、不本意だけど多少は気にするわよ≫


「ありがとよ」


≪ふんっ!≫


ひねくれた性格はハクとは真逆だが、こうしてスマホを介した会話を続けているとどうしてもあいつの顔が過った。

故人を想うにしても早すぎるが、なんとなく手元に残ったハクの魔石を取り出してはただ見つめる事を繰り返してしまう。


≪……その魔石、まだあいつらの魔力が残っているわね。 今さらこの世界に影響するものでもないけど≫


「そっか、なら一緒に行かないとな」


2つの魔石は唯一の形見だ、無くさぬよう大事に懐へとしまい込む。

それでも剥き身で持ち歩くのは不安だ、もし戦いが終わったらペンダントなどに加工してもいいかもしれない。 


「……そろそろ時間だな、行くか」


≪なによ、どうせワープすれば一瞬でしょ≫


「魔力汚染が広がるだろ、飛んだ方が被害が少ない」


無人の東京を二人で歩き、空を見上げる。

それは偶然か、スノーフレイクが残した影響かは分からない。


「…………雪か」


日の出を遮る厚い雲の下では、少し時期の早い雪が降り始めていた。

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