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昏い夜明け ③

≪――――何やってんのよバカァ!!!≫


重苦しい沈黙を切り裂いたのは、ハクがいなくなった端末から轟く怒号だった。


≪悲しんだって2人は戻ってこないのよ、もうあんたしかいないのよ!! 立ちなさいよ、早く!!≫


「ちょっと……待ってくださいよ、あなたはブルームの何を知って」


≪知らないわよ、何も! いままでずっと敵だったんだもの、だからこんな事言えるの私ぐらいでしょ!!≫


点灯した画面に映ったネロの瞳からはボロボロと大粒の涙がこぼれていた。

それはもはや泣くことすらできない俺よりもずっと、人間らしい感情だ。


≪無駄にしちゃ駄目でしょ、あんた託されたんでしょ!? なら、なら……!≫


「……ああ、そうだな。 分かってる」


感覚の鈍い足を床から引き剥がし、ろくでなしの心になけなしの闘志を灯す。

もはや痛覚を超えて触覚すら曖昧になって来た、俺ももうじき()()()()()はずだ。

その時はこの世界に禍根を残さず、一人去らなければならない。


「ありがとよ、ネロ。 そしてラピリスも、月夜を連れて来てくれて助かった」


「……いいえ、私は何もしていません」


「月夜が最期に何を頼んだくらい、だいたい分かる。 あいつのことを覚えていてくれ」


「ブルームスター、その言い方だとあなたは……」


「善処はするよ、ただ期待するな。 どうやって耐えてるか分からないけど、辛いだろ?」


制御役のハクが消えた今、賢者の石を抑える存在はいない。

俺から溢れる魔力の量は今までの比ではないはずだ、何らかの対策を施しているだろうラピリスでもいずれ限界が来る。


「……方法は、ないのですか。 あなたが助かる」


「思いつかねえや、この石を切り離そうにも命に関わる深さまで一体化してる。 まあ、無理ならその時はその時だ」


「ダメです、諦めないでください。 ……絶対にダメです」


ラピリスが俺の両手を掴み、祈るように自分の額へと当てる。


「……根拠はありません、方法も到底思いつかない。 でも、最後まで諦めないでください……ごめんなさい、私のわがままです」


「なんだよ、もっとちゃんとした言い分で追い詰めてくると思ったのに」


「無理です、怖いんです。 死には慣れていたつもりでした、でも……スノーフレイクが目の前で死んだ瞬間、震えが止まらなかった」


「当たり前だ、慣れるなよそんなの」


ああ、やっぱりこの世界は狂っている。 こんな子供に死ぬほどの覚悟を背負わせるなんて。

人らしい死も与えられず、氷のように砕けた死体を見て恐怖を感じる事こそが正しいんだ。

魔力なんてものがあるからこの世界はおかしくなってしまった。 そして、その元凶を垂れ流しているのは……俺自身だ。


「目の前で……誰かが死ぬのが怖い、大事な人がいなくなってほしくない……!」


「分かってるよ、分かってる……俺だってずっと泣きたくなるほど怖かった」


握られた手を解き、ラピリスの頭を撫でる。

こうして触れるのももう最後かもしれない、久々に触れたラピリスの髪は砂汚れが酷くて、クシャクシャで、以前よりも背が伸びていた。


「大きくなったなぁ、将来はきっと美人になるよ」


「いやです……いやですっ、一緒に生きてください! 来年も一緒にお花見がしたいです、夏祭りも一回や二回じゃ足りません! ずっと一緒に、いてください……!」


「……そうだな、また行けたらいいなぁ」


「まだ、お兄さんの料理だって……食べたいです、私は……私は……っ!」


「……ごめんな、舌が使えないんだ。 俺はもう、料理は作れない」


頭を撫でる指先から、少しだけ魔力を放出する。

ラピリスの許容量を少しだけ上回り、眠るように意識を奪うだけの絶妙な量を。


「お兄さん……私は、あなたのことが……」


疲労もすり減った精神も限界だったラピリスは、そのまま抵抗する間もなく眠ってしまった。

俺は最低だ、この東京にやってくるまでのラピリスの苦労を全部無下にする事になるのだから。


「大丈夫だ、アオ。 お前の未来に余計なものは連れて行かない」


≪……あんた、酷い奴ね≫


「知ってるよ、それより誰かから連絡来てないか?」


≪えっ? ……あ、本当だ。 何これ、どうやって画面変えるの?≫


バイブレーションで震える画面の中でワタワタと慌てるネロを端に避け、着信を受ける。

スピーカーから聞こえて来た声は、もはや懐かしいとさえ思えるものだった。


『……盟友? 聞こえているな? 我だ!』


「ああ、聞こえているよシルヴァ。 そっちの解析は終わったか?」

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