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誰が彼女を殺すのか ③

≪あだだだだだだちょっとアンタ入ってる事忘れてんじゃnあだだだだ潰れる潰れる!!!≫


「……ああ、悪い」


怒りのあまり、掌のスマホを握りつぶしてしまいそうだった。

それでも危機一髪で踏みとどまれたのは、ネロの悲鳴と、再びの着信があったからだ。


『やあ、動画は見てくれたかな。 ゲーマチェンジャーの最高画質自動録画機能だ』


「便利だなその杖……まあ、見たよ」


『なら状況は分かってもらえると思う、最悪な事にあと半日ほどで日本は滅びかねない』


門とやらの定着にあと10時間以上、過ぎてしまえばンロギは好きなタイミングで俺たちの世界に足を踏み入れることができる。

もう一度あいつが現れれば、日本全域に漂う魔力の許容値がいつ溢れてもおかしくはない。 そうなればこちらの負けだ。


「破壊は?」


『試みた、だが当然のように駄目だったよ。 地面に張り付いた液体はこちらの攻撃を回避するし、強度も尋常じゃない。 地面ごと吹っ飛ばしてもすぐに再生してしまう』


「そうか……ネロ、お前はどう思う?」


≪ねえ、ついさっきまで頭潰しかけた相手に振る話題?≫


通話を維持しながら画面に話しかけると、不機嫌そうな声だけが聞こえて来た。

自分の不注意とはいえ根に持たれている、素直に答えてくれるだろうか。


『驚いた、彼女は今そちらに居るのか。 てっきり爆散して死んだものかと思ったが』


≪肉体だけは見ての通り爆発四散よ、イチかバチか精神だけ電子端末へ逃げ込んだって話……“門”の設定は肉体に紐づけられていたようだけどね≫


「その言い草だと何か分かるのか?」


≪当然、私はかんぺk……それなりに優秀なんだから。 魔法陣の規模は分かる?≫


『確認した範囲では街はずれの採掘場全域まで広がっている、常に魔法陣全体が蠢いているので正確な直径は不明だ』


≪なるほどね。 それ開いたらほぼ終わりよ、この世界≫


「……どういうことだ?」


ネロの手によって通話画面が切り替わり、検索エンジンによって割り出された採掘場付近の地図が勝手に表示される。

魔法陣の大きさは少なくとも採掘場を覆うほどだと言う、改めて画像で見ればその脅威も分かりやすい。


≪門ってのは比喩じゃないわ、魔法陣は文字通りこちらとあちらを繋ぐ扉の大きさになる。 これがどういう意味か分かる?≫


『……ネロ、確認だが君とンロギが居た世界はどれほどの魔力で満ちている?』


≪流石ね、こちらの世界より圧倒的に多いわね。 常人なら即死よ≫


「待て、あの魔法陣がそのまま世界を繋ぐ扉のサイズになるってなら……」


≪出てくるのは創造主だけじゃないわ、門はこの世界に魔力を吐き捨てる排気口になる≫


言葉を失った。 そんなもの、もはや賢者の石がどうという話ではない。

例えンロギを倒したとしても、残された魔力汚染が世界を滅ぼす。


『……悲観してばかりもいられないぞ、時間がないんだ。 門を塞ぐ手段はないか?』


≪塞ぐのは無理ね、あれ一方通行だから≫


「一方通行?」


≪あちらからこちらの世界にしか進めないのよ、私たちは門の向こう側には干渉できない。 だから向こうの魔力だけがこっちに流出するのよ≫


『なるほど、たしかに双方通行可能だと拮抗してしまうか。 となるとンロギ本人を押し返すのも難しいな』


「そもそもだ、押し返すだけじゃ根本的な解決にならないんだよ」


ロウゼキならあるいは魔法陣の破壊も可能だ、ボイジャーのような魔法なら門の一部を削り取ることもできるかもしれない。

だがそれは問題の先延ばしだ、ンロギという男の悪意は必ず邪魔をした存在へ矛を向けられる。

一度や二度押し返したところで、さらなる災厄を抱えて現れるだけだ。


「悪い、ネロ。 あいつだけは俺が殺す」


≪……何よ、謝らなくていいわよ。 分かっていたことだから≫


それでもネロにとっては生みの親であることに間違いはない。

思う所は少なからずあるはずだ、語気の端々に感じる声の震えからも彼女の動揺が分かる。


『殺す、か。 何か策はあるのか? 相手は世界を滅ぼしかねない化け物だぞ』


「ある、“とっておき”がな。 少しだけ時間をくれ」


『…………分かった、深くは聞かないことにする。 後でもう一度連絡するぞ』


≪ああ、ちょっと待ちなさいあんた。 そっちに魔力の扱いが得意なやつはいる?≫


『魔力の扱い……? とびっきりの人材ならいるが』


≪ならちょうどいいわ、一つ思い出したことがあるの。 ボイジャーとかいうおっぺけぺが回収したものを調べなさい、なんかの助けにはなるはずよ。 それじゃ≫


まくし立てる様に伝言を伝えると、ネロは一方的に通話を切ってしまった。


「お前、人のスマホで勝手に……」


≪あのいけ好かない眼鏡なら十分伝わるわよ。 それに、今は他にやることあるんでしょ≫


「――――お兄ちゃん!!」


浮かない顔をしたネロが画面外に引っ込むと、代わりとばかりに血相を変えたスノーフレイクが駆け寄って来た。


「ハクちゃんの意識が戻って……お兄ちゃんの事を、呼んでる……!」


「……分かった、今行く」


ネロが気を遣ってくれたのか、世界が滅びるかもしれない瀬戸際だというのに。

それでも今は感謝しかない――――もしかしたらこれが、最期の会話になるかもしれないのだから。

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