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皆底に沈む ③

火炎瓶と手りゅう弾を数発、膨張する液体の端部へ投げ込む。

爆発と同時に気化した悪臭が余計に鼻を刺激する、しかし熱と爆風に押しのけられた液面の再生は、ハンマーでたたいた時よりも確実に遅い。


「やはり熱は効果的だな……ゴルドロス、連発は出来るか?」


「無゛理゛だ゛ヨ゛!! 先に私がショック死するんじゃないカナ!?」


「半分冗談だ、まだ中に救助対象も残っているのに無茶は出来ない」


「ヤブ医者、やっぱあんたヴィランの素質あるわ……」


顔色一つ変えずに無茶振りを飛ばしてくる様は、ヴィーラと同じく本当に味方なのかと訝しんでしまう。

私の鼻はともかくとして、ハクたちが取り込まれた状態で何発も同じような爆発は仕掛けたくない。

それに今の攻撃だって慎重な確認の元、内部まで被害が届かないと信じて打ち込んだものだ。


「どうする、まだまだ余力はあるしどんどん削って爆破してみる?」


「旗付きチャーハンを崩さず削るような作業だな、そこまで悠長な真似をしていられない」


「私の武器じゃそこまで繊細な作業は出来ないヨ、こうなったらイチかバチか……」


「待った、無策で突っ込むとバカを見るぞ。 今助っ人を呼んでいる」


「助っ人って――――」


「――――遅れましたッ!!」


土煙を巻き上げながら、私達の中央に2つの影が着地した。

ああそうだ、この街にいる魔法少女はなにも私達だけではなかった。


「サムライガール! 起きたんだネ!」


「ええ、ドクターからの緊急着信を受けたので。 気を休める暇もなさそうですね」


「流石の応答速度で助かったよ、ところで小脇に抱えているのはシルヴァかな?」


「あっ」


「わ、我ぇ……機動力が無いから、抱え……られ……うぐぅ」


サムライガールにぐったりと抱きかかえられていたシルヴァーガールが今、事切れた。


「し、シルヴァー!? ドクター、急患です!!」


「君の高速移動に酔っただけだろう、すぐに目を覚ます。 それより脅威への対処が先だ」


「そうだネ、みんな集まったなら百人力だヨ!」


「ああ、だが行動前に一ついいか、ゴルドロス?」


「むっ、こんな時に何カナ?」


頭数が揃っても余裕はさほどないだろうに、場の流れを遮ってまでドクターが私を呼び止めた。


「単刀直入に言おうか、今も解析を続けているが液体内の様子は分からない。 取り込まれた彼女の生死もだ」


「…………」


「すでに死んでいるかもしれない。 死体の安否を気にして被害が拡大すれば本末転倒だ、それでも救助を優先でいいか?」


「愚問だネ、ハクは生きてるヨ」


「そうか、失礼した。 ならばボクも全力で執刀しよう」


一度決めたら切り替えも速く、ドクターはきびきびとした所作でサムライガールたちに指示を飛ばす。

今の問いかけだってなにも意地悪なものではない、つまるところ“覚悟をしておけ”ということだ。


……救助対象がすでに死んでいるかもしれない、その覚悟を。


「大丈夫だよネ、ハク……生きて帰ってこなきゃ承知しないヨ?」



――――――――…………

――――……

――…



喉が痛い、握りつぶされかけた痛みが熱を帯びて来た。

ネロちゃんへ呼びかけようとしても声が出ない、そもそもンロギに見つかるリスクを考えれば黙っている方が良いのかもしれない。

だが自分と闇の境目が段々と分からなくなってきた、どこまで歩いても続く闇は私の五感を潰してくる。


声の一つでもあげれば気も紛れるだろうが、今は一声上げるだけでも一苦労だ。

本当に私はまだ、生きているのだろうか? とっくの昔にあの世に来てしまったのかもしれない。


「………………」


駄目だ、思考が後ろを向いて来た。 肉体的にも精神的にも限界が近い。

体力も気力も湧いてこない、もしかしたらこの空間自体にそういった作用があるのだろうか。 

流石にこれだけの消耗は異常だ


「ネロ、ちゃ……」


なんとか絞り出した声は蚊が鳴くように弱々しく、誰にも届くことなく消えていく。

それだけでも体力を使い切ってしまったのか、足に力が入らず、頭から倒れ伏してしまった。


「いっ、たぁ……」


助けに来ておいてこの有様とは情けない、いよいよもってもう駄目かもしれない。

意識も朦朧としてきた、あるはずもない幻覚が見える。

だって、あれだけ歩き回って見つからなかったのに。


「…………本当バカね、あんた。 何で私なんかのためにそこまでできるのよ」


ネロちゃんが、呆れた顔して私を見下ろしているのだから。

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