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勝利のための方程式 ⑤

「うぐぐ、胃が痛い……」


ここ最近、心労だけで3㎏は痩せた気がする。

魔女騒動で物理的な痛手を受けた魔法局の修理、そして休む暇もなく街に現れる魔物の脅威、加えて各自魔法少女のケア。

その他雑用諸々含め、最終的な決断権が圧し掛かるのが局長という肩書だ。 心臓と胃がいくつあっても足りやしない。


「局長、そろそろ記者会見の時間です。 ご準備を」


「う、うむ……はぁ、気が進まぬね」


こんな状況だろうと、人は責任の追及を求める。

天の壁の崩落、警視庁からの調査、何より魔法少女ヴァイオレットの逃亡。 全ての説明を果たさなければ納得をしてはくれまい。

差し出すのが自分の首だけで済むなら重畳だ、魔法少女(かのじょ)たちは護られる。


「はぁ、本当に……縁クンはこんな仕事をこなしていたのかね」


ただのお飾りとして祭り上げられていたころがもはや懐かしい、つくづく惜しい人材を失った。

もし彼女が取り返しのつかないところまで進む前に、相談相手になることができていたのなら……未来は変わっていただろうか。


「……過ぎた後悔だね、局長でありながら何も気づけなかった私の罪だよ。 ……ん?」


懐かしむ過去から我に返った時、懐に仕舞っていた通信端末がバイブレーションを鳴らしていることに気付いた。

砂漠のド真ん中だろうが成層圏を超えようと通じる特殊端末だ、これに着信が届くということは少なくとも吉報ではあるまい。


「はい、私だ。 今度は何が起きたのかね? ……ヴァイオレットクンが戻って来た!? 場所は!? ……えっ、それだけじゃない?」


局内に待機している職員からの連絡は2つあった。

一つ目が逃亡していた魔法少女ヴァイオレットの帰還、戻って来た理由は不明だがまだ受け止められる内容だ。

問題は2つ目の報告にある。


「…………う、うーん―――――……」


受け入れがたい報告を耳にした私は、そのまま痛む胃を抑えたまま後方にぶっ倒れる。

ああ、ヴァイオレットクンが帰って来たのなら……一回診察を受けよう……



――――――――…………

――――……

――…


「やあゴルドロス、随分疲労がたまっているようだね。 ちゃんと休息は取っているのかい?」


「たった今貴重な休憩時間が潰されてるところだヨ……」


堂々と魔法局から脱走したドクターが立っていたのは、この街に電力を巡らせる鉄塔の頂上だ。

電線にぐったりと立てかかったまま、消滅しかけているフクロウ型の魔物はまさに今、彼女に倒されたところなのだろう。


「で、なんでボクは出合い頭に撃たれたんだろうか?」


「アメリカ流の歓迎だヨ、知らなかったカナ」


恨みを籠めて放ったゴム弾は、ドクターの足元に発生した某格闘ゲームの主役に似た小人によって全弾弾き落された。

相変わらず腕は落ちていないようで何よりだ、今日はこの辺で勘弁しといてやる。


「……で、なんで戻って来たんだヨ。 秘策は完成したのカナ?」


「いいや、それがまだ全然! おいちょっと待ってくれ流石に実弾は困るぞ」


「遺言を聞こうカナ……私達はドクターが抜けた穴埋めるためにてんやわんやしてたんだヨ……」


「うん、だから現状足りない手を増やすために一度顔を出しに来た。 そして駆け付けたのが君で助かったよ」


「What's……? どういうことだヨ」


「なに、もし駆け付けたのがラピリスならまた怒られそうだと思ってね」


会話を交わしつつ、フクロウの残骸から魔石を回収するドクター、その背後に透明な影が迫る。

それは強く背景を凝視しないと違和感に気付けないほど精巧な保護色、彼女の死角から現れたのは空間に張り付いた巨大なカメレオンだった。


「ちょっ、ドクター!! 危な―――――」


「オ―――――ッラァ!!!!!」


あわやカメレオンにドクターが丸のみになる……その寸前、彼方から投擲されたハンマーがカメレオンの頭部を粉砕した。

間違いなく即死、砕かれた肉片がビチビチと辺りに散らかる様は肉の雨のようだ。

そしてたった今、一撃で魔物を粉砕した「鉄槌」には見覚えがある。


「やあ、遅かったね。 暖機運転にはなったかい?」


「ウッザ、何様だし!? 私いなかったらあんた今ヤバかったでしょ!」


「おま、おまっ……! ドクター、これは一体……どういうつもりだヨ!?」


「だから言ったろ、怒られるって。 だがこちらも非難や正道などを気にしている余裕がないんだ、魔法少女の頭数はどこも足りてない」


「だからって、なんで―――――()()()()()()()()()()()()()!?」

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