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勝利のための方程式 ④

「ぶへっきちんっ!! うぅ……誰か私の悪口言ってるわね……」


孤独なくしゃみが倉庫内を反響し、静寂に慣れていた耳が痛む。

ここに隠れて何時間過ぎただろうか、日の差し込まない場所では昼夜の感覚も曖昧になる。

創造主が戻って来るまであと何時間かかるのか。


「うぅ、さっむ! 温感なんて邪魔なだけ……いや、私は完璧なのよ、無駄な機能なんて一個もないわ……!」


こちらの世界はまだ四季が生きているのか、日に日に気温が低下している気がする。

ろくに断熱設備もない倉庫内など酷いものだ、完璧な私でなければとっくに凍え死んでいる。


「はぁー、いつまでこんな生活しなきゃいけないのかしら……それもこれも全部あの―――」


「――――おぉい、誰かいるんか?」


「っ……!!」


叫びそうな口を両手で塞いで言葉を飲み込む。

ガラガラと鉄扉を引いて入って来たのは、作業服とヘルメットを装備した男たちだ。

この倉庫で働いている連中だろう、どうしてこのタイミングで私の存在に気付いた?


「誰もいねえな、聞き間違いでねえか?」


「うんやぁ、確かに聞こえたんだ。 誰かがくしゃみしてる声」


(何ばっちり聞いてくれちゃってんのよ……!!)


どうする? 相手は一般人、とはいえ2VS1では分が悪い。

騒ぎを起こすと魔法少女も駆け付ける可能性がある、創造主を待っている状況で余計な面倒ごとを起こすのはごめんだ。

高く積まれた荷物の陰に隠れ、表から入って来た男たちの目を避けつつ裏口から抜け出す。


「うぐっ、もう日が昇ってたのね……目がシパシパするわぁ……」


長いこと暗所に順応していた瞳が、高く上った日の光に照らされて眩む。

冷え切った体が軋む、ふらついた足取りは方向感覚もあやふやだ。

それでもとにかくこの場から離れようとしていた私の足は――――偶然にも東北に向けて歩き出していた。



――――――――…………

――――……

――…



「はい、これでOK。 あとはスマホに戻って大丈夫だヨ」


『モッキュ』


《ありがとうございます……しかし、何だか実感がありませんね》


一時的に実体化し、バンク君に噛まれた人差し指を眺める。

指の付け根に赤い線を結んだような痕が浮かび上がっているが、何か魔法が発動した感覚はない。


「バンクの魔法は私もよく分からないからネ、ただ縁結びの力は折り紙付きだヨ。 これまでも何度か救われているからサ」


《ええ、私も良く知っています》


縁結びの魔法とでもいうべきか、ゴルドロスちゃんの相棒が扱う魔法は私が知る中でも稀有な代物だ。

人と人との縁を結び、出会いを手助ける。 ある種運命にすら干渉できる最強クラスの魔法かもしれない。


《うーん、しかしネロちゃんとエンカウントするまでどれぐらいかかりますかね》


「物理的な距離もそうだけど、縁の強さも影響するからネ。 ハクと関係が薄い相手だとそれだけ手繰り寄せるまで時間がかかるヨ」


《それなら問題はありませんね、なんてったって姉妹のようなものですから!》


「そりゃなにより。 じゃあそちらの願いを聞いた分、私のお願いも聞いてもらおうカナ?」


《あっ、はい。 えーと何から話しましょうかね……》


ゴルドロスちゃんたちの力を借りる代わりに、マスターの情報を提供する。 2人の間に結んだ簡単な取引だ。

そして今の状況を所々搔い摘みながら説明すると、ゴルドロスちゃんは難しい顔をしながら、大きく息を零した。


「……まだ生きてはいるんだネ、そこだけは安心したヨ。 そこ以外は何も笑える状況じゃないけどサ」


《マスターへのお怒りは分かります、しかし今東京へ行くのは……》


「分かってるヨ、今のブルームは近づくことすらできない。 悔しいけどドクターの帰りを待つしかないネ」


《ドクター? そう言えば姿が見えませんね、一緒ではないのですか?》


「大人の事情で今は別行動中だヨ、おかげでこっちは人手が足りなくてサ……」


東京を囲う天の壁が壊れてから、この街でも様々なトラブルがあったのだろう。

よく見ればゴルドロスの目元にはクマが浮かび、綺麗な金髪もくすんで見える。


「まあ3人で駆けずり回ったから今はちょっとした休息タイムだヨ、私も今のうちにご飯食べて……」


だがそんなひと時の暇を遮るように、局内に甲高いアラートが鳴り響く。

眠気眼も覚醒するような耳障りなこの音は、魔法少女の緊急出動を促すものだ。


『魔法少女各位に連絡! 逃走中の魔法少女ヴァイオレットを港にて発見、直ちに急行せよ!』


「………………」


《……えっと、別行動中なんでしたっけ?》


「ソダネ、そして今からは私の休息をぶち壊した敵になるヨ」


《ゴルドロスちゃん!?》


ノータイムで銃器を取り出した彼女の目は、一切笑っていなかった。

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