勝利のための方程式 ③
「ネロちゃんを探しましょう、そしてもう一度話をするんです!」
「話を、ね……でも聞いてもらえるかな?」
「そこは努力と根気と運しだいです、でも分が悪い賭けではないと思いますよ」
ネロちゃんの立場は私達の敵だ、けど話が通じない相手とは思えない。
ンロギと戦う前に見えた迷い、彼女は性根が優しい子だ。
この世界に起きている惨事を知った今、何も感じずただンロギに手を貸すとは考えたくない。
「ネロちゃんはこちらの世界を繋ぐ“門”としてどこかに潜んでいるはずです、まずは探し出すところから始めましょう」
「でもどうやって? 私達が外を歩くにはリスクが高い」
「ええ、なので私だけで探してみます。 当ては一切ありませんけど……」
「駄目、危険すぎる。 壁が壊れた今、外は何が起きるか分からないんだよ」
「ですがこのまま後手に回っても勝ち目はありません、今度は私達が先手を取らないと!」
月夜ちゃんの言いたい事は分かる。 変身システムの殆どを担っている私は、マスターにとってのアキレス腱だ。
しかしマスターたちは賢者の石が枷となって大きく動きを制限されてしまう、もしネロちゃんが人ごみに紛れていたら探し出すのは不可能だ。
「ハクちゃん、一応聞くけどあなた一人で戦える?」
「パンチとキックは標準装備です!」
「つまり一般人と変わらないってことだよね、もし魔物と出会ったら?」
「頑張って逃げます!!」
「うん、駄目」
残酷なほどの即答、しかしぐうの音も出ない。
私個人の戦闘力は一般人と大差ない、むしろやや低いぐらいだ。
刺されれば痛いし、殺されたら死ぬ。 単独で魔物と出会えば即死間違いなしだ。
「でも、ただじっとしているだけなんて……」
「うん、分かるよ。 でもハクちゃん、なにも生身で行動する必要はないよね?」
「えっ? …………あ゛っ」
――――――――…………
――――……
――…
《なーんで思いつかなかったんでしょうかねー……》
赤面しているのが自分でもわかる、余裕が無くなればこうも思考が狭まるのか。
自分の足で歩き回るよりも、最初から電子化してネットワークを跳び回ればよかったではないか。
「でも気を付けろよ、魔力の影響で通信障害も頻発してる。 インターネットもいつまで生きているか分からないからな」
「ハクちゃん、何かあったらすぐ戻ってきてね。 なるべく実体化は避ける様に」
《了解です、マスターも月夜ちゃん困らせたらだめですよ。 定期的に連絡は送るので、そちらも何か動きがあれば逐一教えてください》
「大丈夫だよ、お前も無理するなよ。 こっちが連絡飛ばしたらすぐに戻って来い、いいな?」
《はい、絶対に帰ってきますとも。 それでは不肖ハク、行ってまいります!》
心配そうに画面を覗き込む二人に敬礼し、ネットの海へと身を投げる。
ネロちゃんの足取りは分からない、だがこの日本のどこかには潜んでいるはずだ。
ならば確実に出会う手段を一つだけ知っている、あの街には縁結びのプロフェッショナルがいるのだから――――
――――――――…………
――――……
――…
「8時間ローテは……無理があったネ……」
「ええ……ちょっと編成を組み直す必要があります……」
「我疲れた……」
魔法局、作戦室のテーブルには我々3人の魔法少女が泥のように突っ伏していた。
24時間を3人でカバーするために8時間ずつ交代、数字で見れば簡単だが現実はあまりにも厳しかった。
「予想以上に魔物が多い……一体一体は雑魚なので何とかなりますが……」
「手数が足りぬ……最後は結局3人総出で走り回っていたぞ……」
平常時ならともかく、この街をサムライガールたちと交代で守るには面積が広すぎた。
魔物も固まって現れてくるはずもなく、四六時中街を駆けずり回る必要がある。
その上、市民の間で起きるトラブルや事故の対応も少なくない。 心身の限界はすぐにやってきた。
「あと、どれだけ続くんだヨ……終わりが見えないのが何よりキツいカナ……」
「小康状態の今が休息をとるチャンスです、愚痴は後で聞きます」
「zzz……」
一番体力のないシルヴァーガールに至っては既に仮眠していた、しばらくは起きそうもない。
しかしこのまま皆寝落ちするのは流石にまずい、自分だけは何とか意識を保とうと頭を起こすと、テディの腹の奥で光る自分の携帯に気が付いた。
「ちゃ、着信……? サムライガールも寝てなヨ、電話ついでに私が起きてるからサ」
「助かります……」
返事と同時に、サムライガールも電源が切れたように寝息をたてはじめる。
少々羨ましく思いながらも、自分に貧乏くじを引かせた携帯を引っ張り出す。
これでいたずら電話だったならどうしてくれようか。
「はいはい、こちらテイクアウトバーガーショップだヨー。 ご注文はなにカナー……」
《えーっとチーズバーガーセット一つと……って、違う違う! 私ですよ私!》
「ほぇあ? 新手の詐欺……じゃ、ないネ!?」
聞き覚えのある声で一気に目が冴える。
画面を見ると、そこには着信画面の代わりに真っ白い少女が浮かんでいた。
《お久しぶりです、ゴルドロスちゃん! 早速で悪いんですけど、バンク君います!?》




