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終わりの始まり ③

言語化できない感情が胸の中に渦巻く。

深刻なエラーだ、去り際のあいつらの顔が頭にこびりついて離れない。 


『ネロ、どうも落ち着かない調子だな。 僕のやり方に何か意見があったか?』


「い、いや! そういうわけじゃないのよ、創造主(マスター)……」


東京での短時間顕現を可能とした創造主だが、疎ましい壁を破壊して魔力密度が下がると、また向こうの世界に帰ってしまった。

いざという時のゲートとなる私はこの世界に残されたままだ、今もどこと分からぬ街の隅っこで隠れながらこうして連絡を取っている。


『そうか、ならいいさ。 僕も少々無茶をした、次にそちらへ顔を出すには時間がかかるだろう』


「時間って……具体的には、どのくらい?」


――――できるだけ長い時間が欲しいと願うのは何故だろう。


『そうさな……早くても3日はかかってしまう』


「みっ……!?」


――――短すぎる、と嘆いてしまうのは何故だろう。


『驚くことじゃない、僕だってただの嫌がらせであの壁を破壊したわけじゃないさ。 拡散した魔力はすぐにあの土地全体に馴染む。 ……まあ、世界規模になるとまだまだ誤差みたいなものだがな』


「……壁に囲まれた土地だけじゃなく、他の場所でも自由に創造主が動けると?」


『ごく短時間だろうけどな、俺が直接乗り込んでまたあの石ころを煽るぐらいの時間はある。 楽しみだよなぁ?』


「短時間、って……それじゃあんまり」


『意味はないってか? バカだなぁネロは、()()()()()()()()()()()()()


「あ――――……」



ひとたび創造主がこちらの世界に現れれば、あの旧型機たちは無視できないはずだ。

それを二度、三度、四度……と、延々繰り返せばどうだろう。


『いずれ対応する人間は音を上げる、そうでなくとも僕が石ころ共を弄ぶたびに汚染は増えていくんだよ』


創造主に敗北のリスクは存在しない。 

魔力を持つものは持たざる者から害を受けないという絶対のルールに加え、“賢者の石”という最高の永久機関を握っているのだ。

唯一の脅威となりうる同族のワイズマンたちも、私の能力によって……


『と、いうわけだ。 お前もしばらく好きに行動すれば良い、ただぶっ壊されないようにだけ気を付けろ』


「え、ええ。 分かっているわ、創造主に余計な心配は……」


『ゲートとなるお前が破壊されると行き来が面倒になるんだ、あまり僕に手間を掛けさせるなよ』


私の返事も待たず、通信は一方的に切断される。

当然だ、創造主は自分の研究で忙しいのだから。 むしろここまで会話が続いただけ珍しい。


「――――……ええ、分かっているわ」


私は何を期待していたのだろうか、自分は創造主に作られた道具でしかないというのに。

創造主が私を“使う”ことはあっても、主従のような関係を結ぶことなどありえない。


「……あー、しっかし寒いわ! 熱くなったり寒くなったり本っ当住みにくいわねこの世界!!」


モヤモヤと渦巻くエラーを誤魔化すようにぼやく。

いや、エラーなんてあるわけがない。 私は完璧だ、完璧でなければならない。


……それなのになぜ、不完全なあの2人の関係を思い返すと、胸が締め付けられるのだろう。


「ああ、もう……わけがわからないわよ……」



――――――――…………

――――……

――…



「HEYサムライガール! 大変だヨ、TV見た!?」


「騒がしいですよゴルドロス。 すでに事態は把握しています、席についてください。 シルヴァも退院おめでとうございます」


「うむ、我完全復活! ……しかし喜ぶ暇はないようだな」


騒々しく入室してきたのは私の連絡を受けてやって来たゴルドロスとシルヴァの2人だ。

シルヴァの精密検査を終えてすぐさま魔法局に出戻り、というのはなんとも忙しないが状況が予断を許してはくれない。


「ゴルドロスクン、外の様子はどうだったかね?」


「そりゃもう大変だヨ、みんな食料や水を買い込んで小さな暴動も何度か起きてたカナ」


「我の魔法で隠れながら移動していたが……魔法少女に対する非難の声も聞こえて来た」


「やはりかね……いよいよもってまずい状況かもしれないね、これは」


局長が贅肉が乗った顎に手を添えながら唸る、私達を外に出さないようにしていたのもこのためか。

ただでさえ最近は魔力汚染の被害も多く、市民の不満も積もり続けていた。

そこへ飛び込んできた東京決壊の速報に懐く感想は一つだ、“魔法少女は何をしているのか”と。


「局長、これから私達は……」


「安心しなさい、君達の正体と安全は我々が保証するものだ。 子供に石を投げさせるような真似は私がさせないとも」


「頼もしいネ、声と手と足が震えてなければだけどサ」


「ううううううるささささいよチミィ……わわわ私はこれから記者会見があるのだよ! なんて説明すればいいのだろうねぇ!!」


局長の身体は着信が鳴る携帯の如く小刻みに震え、手に持つティーカップの液面は細かく波打ってる。

ただでさえ魔法局の仕事を大きく負担していた縁さんが消えたところに未曽有の大災害だ、局長の心労は計り知れない。


「わ、我も挨拶文の作成なら手伝えるぞ!」


「ありがたい申し出だがね、私の立場として魔法少女の手を煩わせるのは……それと、こんな時にドクタークンはどこに行ったのかね?」


「ああ、彼女なら今別室で作業を……」


「―――――ボクならここだよ、タイミングが悪かったかな」


局長の指摘とほぼ同時に、扉の向こうからドクターの声が聞こえて来た。

そしてバツが悪そうな表情を浮かべて入室する彼女に続き、スーツを着た数人の男性が部屋へ踏み入って来た。


「ど、ドクタークン? そちらの方々は……?」


「悪い、すぐそこで捕まった。 詳しい説明は今から彼が嫌と言うほど話してくれるよ」


ドクターの紹介を受けてか、おそらくリーダー格と思われる男性が我々に向けて一歩踏み出し、懐から取り出した()()()()を広げて見せた。


「警視庁魔力事例対策一課、新田 秀光(にった ひでみつ)です。 非常事態とは存じますが、お時間よろしいですか?」

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