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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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杞憂に非ず ⑧

「なに、を……何をした、お前!!」


「みっともねえなぁ騒ぐなよ石ころ! お前の仲間が丁度いい魔法を持ってたからなぁ」


壁が崩れる、10年もの間この東京を閉じ込めていた壁が。

消しゴムを掛けているかのように、雲を超える高さの頂点から徐々に徐々に消えていく。


「あのバカみたいな衣装のガキ、あいつが使ってた“物を取り込む魔法”の構造だけ取り出して使ってやってんだ」


《物を取り込む……ボイジャーちゃんの魔法!?》


「同じ魔法でも僕が使えば規模が違う、この鬱陶しい壁を退けるぐらいわけがないねぇ!」


天の壁を蝕む消失減少の正体は分かったが、だからといって対抗策が浮かぶわけではない。

ンロギのやつも理解したうえでわざと手の内を晒したのだ、ただ自分が悦に浸るために。


「ははははは! 全部あいつのせいだ、あのバカが東京に来なけりゃこんなことにはならなかったのにな!」


「ふざけんじゃねえ……! お前なら壁を壊す手段ぐらいいくらでも用意出来ただろうがッ!」


賢者の石を宿した身だから分かる、俺でも天の壁を再生させずに破壊する手段はいくつか思いつく。

それでもンロギはあえてボイジャーの魔法を真似る形で壁を破壊したのだ、そこにあるのは悪意以外の何物でもない。


「本人にも礼を言ってくれよ、お前のお蔭で大変助かりましたってな?」


「お兄ちゃん、なんとかしないと()()()()()()()()!」


「っ……!!」


東京事変と魔女事変、二度の事件を超えてこの東京には最大まで煮詰まった魔力が凝縮されている。

その中へさらに、俺たちの中に宿る賢者の石から溢れた魔力も積み重なっているのだ。

今まではなんとか流出を防いでいたが、もし壁が一気に消えてしまえば――――


「おいおい、折角僕が目の前にいるってのに用事が出来ましたって言う訳じゃねえよなぁ」


「うるせぇ、退け!!」


「さっきまであれだけしつこかったくせにさぁ! 自分勝手だねぇ!!」


壁に向けて走りだろうとする俺を遮り、目の前にンロギが転移する。

接射距離で撃ち出した箒もビクともしない、やはり不完全な灼火体ではンロギに傷をつける事は出来ない。


「効かないっつってんだろカスが! それに今さら駆け付けたところでお前に何ができるのかなぁ!?」


「んなもんは後で考える、ここで動かなきゃ何も変わら――――ガハッ!!?」


「非効率的だなぁ、させるわけねえだろうがよ!!」


カウンターで打ち込まれた掌底が内臓を抉る。

二度、三度と地面を跳ね、チカチカと明滅する視界で立ち上がろうとする俺の口から零れたのは言葉ではなく大量の血だ。


「お兄ちゃん!! よくも……!!」


「今回ではっきりとわかったよ、僕はお前が大っ嫌いだ。 だから()()()()()()()()()()()()


「っ……ゲホ……!」


「あと1分も掛からずあのバカでかい壁はすべて僕のストレージに収納される、溢れる魔力はお前たちじゃ止められない。 あとはそうだなぁ――――」


ンロギの姿が消え、背後から奇襲を仕掛けようとしたスノーフレイクの杖が空振った。

俺の目前に回り込んだ時と同じ短距離転移だ、しかし奴がただ回避するためだけに魔法を行使したとは思えない。


「っ……外れ―――!」


「スノーフレイク、後ろだ!!」



血を飛ばしながら叫んだ俺の声よりも早く、スノーフレイクの胸を鋭い刃が貫いた。

それは人間ならば例外なく死に至る、心臓を抉る一太刀だ。


「ぁ……っ?」


「――――たとえば、大事なお仲間がお前のせいで次々に死ぬってのはどうだ?」


悪辣に歪む笑みを浮かべながら、傷口を弄ぶように剣先がねじ回される。

―――パキリと、何か硬いものが割れるような音がした。


「お前……お前ええええええええええええええ!!!!」


≪――――IMPALING BREAK!!≫


箒を飛ばして肉薄し、なんとかンロギからスノーフレイクを奪い返す。

胸を抉る傷から血は零れていない、それでも痛みで気絶したのか、彼女の身体はぐったりと弛緩したままだ。


「ははははははは!!! いいね、気分が良い!! お前のその顔が見たかった!!」


《マスター、駄目です! 逃げてください、今のままでは絶対に勝てない!!》


「駄目だ、こいつはここで殺さないと犠牲が増える!!」


「お前のせいだ、お前のせいで犠牲が増えるんだよぉ! よーく覚えておくんだなぁ石ころ!!」


「うるせええええええええええええええ!!!!」


残る魔力を凝縮し、炎を灯した拳がンロギの拳を()()()()()


「…………あ?」


「お前は俺がここで――――ガハッ!?」


限界を超えた体ではもはや単純な蹴りですら反応が間に合わない。

ンロギの蹴りを受け、スノーフレイクを抱きかかえた俺の身体は紙のように吹き飛ばされる。


「……うん、問題ない。 僕は完璧だ、石ころ風情が勝てるわけないだろ」


「く゛、そ……!」


「まあ安心しろよ、お前が守ってきた世界はこれからも続くさ」


ンロギの身体が消えていく。 今度は短距離転移などではない、元の世界とやらに逃げ帰る気だ。

自己の存在を保てないレベルまで東京の魔力が薄まった証拠だ。

薄ぼけた視界でもわかる、もはやこの街を覆う壁は完全に消え失せてしまった。


「お前の努力はぜーんぶ――――僕が頂いて行くからさぁ? あっははははははは!!」


薄れゆく意識の中でもはっきりと聞こえるンロギの高笑い。

それは俺たちの……いや、俺の完全敗北を意味していた。

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