通りすがりの狼藉者たち ①
「ほんまに探したわぁ。 東北の局長さんに頭下げられてなぁ、なんや事情聞いたらえらいことになってはるん?」
「しゅこー……」
「お兄ちゃん、あの人なんでこの魔力濃度の中で生きてるの……」
「覚えておけスノーフレイク、それは彼女が魔法少女ロウゼキだからだよ」
出来上がったカップラーメンを食し、片づけを済ませたカウンター席に一同(一名睡眠中のため欠席)が並ぶ。
魔法少女ロウゼキ……と、その隣に座っている宇宙飛行士はボイジャーだろう。
2人ともこの東京の魔力濃度に晒されてなお、変調を来たしている様子は一切ない。
「ボイジャーはんは極地に適応した魔法少女やからなぁ、こないなところでも活動できるんよ」
「しゅこー……ただあまり長時間はぴえんこえてぱおん……」
「ヘルメットも外せないんですね……」
ヘルメットの閉塞感があるせいか、ボイジャーのテンションは前回より低めだ
まあそれもロウゼキにとっては助かる話かもしれない、わざわざこんな所にまでやってきた以上は雑談をしに来たわけじゃあるまい。
「それに、うちらの事を言えた義理やないんやない?」
「まあ、こっちも色々事情があるんだ」
「うふふ、それはラピリスはんたちを泣かせるほどのものなん?」
「……そうかアオは泣いてたか」
「ふふふ、罪やなぁ色男」
俺の沈黙を許さない視線が蛇のように絡みつく。
下手な誤魔化しを述べるつもりなら俺の頭が吹き飛びかねない圧がある。 隠し事は無駄だろう。
「俺たちは無意識で辺りに魔力をばら撒くような体になっちまったらしい、だから街には戻れない」
「“賢者の石”、10年前に起きた爆発事故から紛失した最上級の魔石やな」
「……知ってたのか」
「言うて昨日一昨日知った話やさかい、本部の資料庫をそこからひっくり返して皆に手貸してもろて……ツヴァイはんたちには悪いことしてもうたわ」
大きい欠伸と共に細くなった目元には薄っすらとクマが浮かんでいる。
10年分積み重なった資料の精査となると相当な労力だ、おそらく徹夜の作業が続いたに違いない。
「真相は10年前に東京の研究所ごと全部すっ飛んでもうたからなぁ、眉唾な話としてずっと埃被っとったわ」
「眉唾で終わってくれればよかったんだけどな、実際はこの始末だ」
「せやなぁ、ほんに残念……最悪の場合、うちが始末つけんとあきひんわ」
弛緩していた空気がピンと張り詰める。 冗談というには笑えない声色だ。
“破壊”を司る現役最高クラスの魔法少女、彼女なら俺たちに宿る賢者の石ごと粉砕する事も可能かもしれない。
「賢者の石、この世界に百害あって一利なし。 ならここで摘んでしまうのも一つの手やろ?」
「ああ、申し訳ないけど最悪の場合は頼む」
「―――――………」
ロウゼキの言葉に二つ返事を返すと、珍しくロウゼキは寝耳に水を浴びたような表情を見せた。
「しゅ、しゅこ……?」
「俺にはまだやるべきことがある。 ただそれが終わった時に賢者の石がどうしようもない場合は介錯してくれ、頼む」
「ああ、ほんまに……ほんまに阿呆やなぁ、店員はん」
ロウゼキは一転して呆れた顔でお手上げとばかりに両手を上げる。
「なんや、こんな貧乏くじ引かせられてなんの悪意も無しに命預けるなんてほんに阿呆や、自分の命をなんやと思うとるん?」
「いや、だって……」
「やめややめや、なけなしの殺る気も失せてもうた。 ラピリスはんたちの気持ちも知らんで身勝手な色人やわー」
「お兄ちゃん、今の台詞は私も怒っていいよね」
「どうして……」
ロウゼキやスノーフレイクからは全力で軽蔑の視線を向けられ、隣に座っているハクには無言のまま二の腕をつねられている。
最悪の場合の後始末を頼んだだけで何故にここまで怒られなきゃならないんだ。
「せや、そっちで寝てる子は……」
「ああ、ネロはその……ちょっと複雑な訳ありなんだ、敵ではないと思う」
「なら、外の連中は敵と見てええのん?」
「――――なに?」
ロウゼキが店の扉に向けて御札を一枚投擲すると同時に、壁を突き破って巨大な何かが俺たちに突っ込んできた。




