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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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550/639

ある侵略者の独白 ②

“何もできない”という状況は想定以上に精神を殺すものだった。

昨日と同じ今日、今日と同じ明日、来る日も来る日も変わらぬ顔ぶれ進展のない研究を繰り返して行く毎日。

いっそ彼らの研究が進んでくれたのなら変化があるだけ気も楽だったが、そもそも彼らは前提を間違えているのだ。


魔力の存在を感知し、私への対策を施した彼らの手腕に間違いはない。

だが、魔力を科学的に解析しようとするのが間違いなのだ。

魔力と科学は水と油、どれほどの精密機器や高性能のコンピュータでも私という存在の本質は探れない。


そしてわざわざ外の世界から招いたイタコやシャーマンといった人々が施す“おまじない”も同じく意味がない。

科学が発展した歴史で確立した技術ならそれもまた科学の範疇だ、そもそもこの世界に魔力はほとんど存在しない。

行使するためのエネルギーが存在しないのだ、魔法や魔術が扱える道理がない。


彼らの試みは最初から詰んでいたのだ、私と賢者の石に干渉するための魔力を私ごと封じてしまったのだから。


《……以上、あなたたちの研究を私なりに分析した結果です》


「……………………」


その日は珍しく、退屈に殺されないために語っていた独り言に聞き入る研究員がいた。

いつもは何を喋ろうとも取り付く島もない始末だったが、その女性は酷く疲れた表情で拘束されている私をじっと見つめていた。


「……魔力がないと魔力生命体は殺せない、ということ?」


《肯定します。 この世界に散漫する微かな魔力を全て集めても、私の核は砕けないと断言します》


研究所内の微々たる魔力量から大まかに世界総量を計算しても、せいぜいナイフ一本分程度の質量が限界だろう。 私を殺すには威力も強度もまるで足りない。


《戯言と解釈しても構いません。 どう捉えようとも状況が好転するわけではないので》


「……思ったより皮肉を叩くのね、侵略者のくせに」


《呼称はあなた方の自由ですが、せめて統一していただきたいと要求します。 化け物、怪物、魔物、魔人、侵略者、魔力体、情報のやり取りにおいて非効率的です》


「そう、ね……その点に関しては、考えさせてもら―――」


「おい、何をしている!」


ヒステリックな怒号がガラス面に響き、女性の表情に再び緊張が走る。

声の主は分厚い眼鏡をかけた無精ひげの男性だ、首から下げたカードキーに印字された役職は女性のものより高い。


「す、すみません! すぐ仕事に戻ります!!」


「……いや、怒鳴りつけて悪かった。 研究対象との会話は控えたほうが良い、仕事は構わないから少し休め」


「し、しかし……」


《休息を推奨します、進展がないのではどれほど没頭しようと無駄でしょう》


男性研究員が眼鏡を貫かんばかりの眼光で私を睨みける。

だが彼らの行いは「素手で霞を砕こう」と言っているようなものだ、実行するための概念が存在しない。


《あなた方の頭脳と手腕ならば既に理解しているかと存じます、現状この世界に私達を封殺する手段は存在しません。 拘束の解除を推奨します》


「……その言葉が、真実という保証はない。 それに貴様の開放など言語道断だ」


《残念です》


「――――化け物め」


苦々しい言葉を吐き捨て、男が私を収容するガラス面から足早に去っていく。

確かに私の想定を超える奇跡が起きる可能性は否定できない、だがほぼ0に等しい天文学的確率だ。

まず間違いなく圧縮された魔力が爆散するのが先だろう。 本当は皆気付いているのだ、精神だけが摩耗していく。


その日を境に、気休めを求めて私へ話しかける人は増えていった。


――――――――…………

――――……

――…


……さらに1ヶ月が過ぎた、そして私は自分の思慮の浅さを知ることになる。


私を閉じ込める防壁の強度が想定以上に高かったのだ。

とはいえそれだけではXデーの期日が伸びただけに過ぎない、問題は魔力爆発が起きた際に私が生存できる可能性が著しく下がってしまった事だ。


制御を失った賢者の石は無秩序に魔力をばら撒いてしまう、そうなれば世界の終焉は確実だ。

回避するためには研究員への説得が必要だが、交渉が成功する見込みは薄い。


《なるほど、これが“焦燥”ですか》


「……?」


私の独り言を聞いていたのか、一人の研究員が怪訝な顔をしながら横切って行く。

この部屋も随分寂しくなったものだ、はじめはあれほどいた研究者たちも今では数えるほどしか残っていない。

先の見えない研究に皆逃げ出してしまったのだ、残っているのは世界の命運を背負った誇り高い英雄たちのみ。


「はぁ……せめてこれが可愛い女の子ならやる気も出るんだけどな……」


《………………》


……世界の命運を背負った誇り高い英雄(へんたい)たちのみ、のはずだ。

見た目がそれほど重要なのだろうか。 あらためてガラス面に映る自分の姿を顧みる。

0と1の数字が密集して構成された辛うじて人型の黒い塊、それが私という存在だ。 


愛嬌は確かに足りないかもしれないが、それほど悪いと言われると……


《…………ああ、そうか》


私は死ぬ、魔力爆発に巻き込まれてほぼ確実に。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

お望み通り愛嬌のある少女を、世界を侵略(ハック)する代理存在を。


私が担う役目は、次の私に託せばいいじゃないか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 疲れてしまったワイズマンは、それでも使命を果たそうとハクさんを作り上げたんですね....
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