あっけらかんとくたばって ①
「…………酷い」
その戦闘が終わって、思わず零れたのは率直な感想だった。
圧倒的な暴力で破壊され、めくれ上がり、融解し、凍り付いた路面。 復旧には途方もない時間がかかるだろう。
最も酷いのは周囲に満ちる魔力だ、目算ではあるが東京内部の濃度に勝るとも劣らない。
とてもじゃないが人が生きていけないような汚染と破壊、これを引き起こしたのがたった2人の魔法少女というのだから信じられない。
「サムライガール、ちょっと……」
「あっ――――……」
ゴルドロスに窘められ、口元を抑えるがもう遅い。 本人にも聞こえてしまったはずだ。
私達から離れたところで独り佇む、ブルームスターへと。
「……悪い、加減が出来なかった」
消え失せた謎の魔法少女の残滓を未だ睨むかのように、こちらへ背を向けるブルームスターの表情は見えない。
いや、たとえ見えていたとしても、私は彼女の顔を直視することができなかったはずだ。
どんな顔で今の彼女を迎えればいいのか、私にはまるで分らない。
「―――ごめんな、皆無事だったか?」
「っ……!!」
それでもこちらに振り返り、泣きそうな顔で笑うブルームスターを抱きしめることも出来ない。
彼女が今立っている周囲には、魔法少女でもただでは済まない濃度の魔力に満ちているのだ。
「あなた達は近寄らないで、それとしばらくここに誰も近づけないように。 でないと死人が出る」
「えっ、でもあなたは……」
動けない私を一瞥したスノーフレイクは、迷いことなく歩を進めた。
致死域を超え、何事もないかのようにブルームスターへと歩み寄り……その目前で脚を止める。
この距離では何を話しているのか分からない。 魔力に守られたあの空間は、あの2人だけの世界と化している。
「ラピリス、彼女は一体何者なんだ? ボクがいない間に入った新人か?」
「分からない、です……何者なのかは、私にも。 しかし……」
2人の間柄は知る由もないが、ブルームスターとスノーフレイクは互いに見知った仲に思える。
私の知らないブルームスターの友達、その言葉を胸の中で反芻すると何故か心がきゅっと締め付けられる。
思い返せば私は彼女の事を何も知らない、彼女と出会う時はほとんど戦場での出来事だ。
すぐそこにいるはずなのに、ブルームスターとの距離が酷く遠いものに感じてしまった。
――――――――…………
――――……
――…
「お兄ちゃん、その姿は解除できる?」
「…………」
スノーフレイクに促され、常に溢れ出す魔力を抑え込むように念じると、ワイズマンの衣装が霞と消え、通常時のブルームスターへと戻る。
いつもは魔力制御の大半をハクに預けていたが、今となってはその必要もないようだ。
「見た目だけは押さえられるか、けど……」
「……駄目だな、完全に止める事は出来ない」
周囲の濃度に紛れて分かりにくいが、ブルームスターの身体から微量の魔力が溢れ続けているのが肌で分かる。
自分で制御できるのは強弱程度、これはもう呼吸や瞬きのようなもので止める事は不可能だ。
きっかけは間違いなくワイズマンへの変身だ、あれが呼び水となって賢者の石の侵食が大きく進行した。
「ワイズマンを使ったのはしょうがないと思うよ、あの男に対抗するには同じだけの力を使うしかない」
「スノーフレイク、お前は知っているのか? あいつは一体何なんだ」
「この世界に魔力を廃棄した全ての元凶だよ、本人は石の侵食が酷すぎて魔力の薄い世界じゃ活動できない。 だから賢者の石を使って、その世界の魔力濃度を上げている」
「……魔力が万能だと証明するために、か」
「くだらない意地に張り付いた亡霊だよ、そして私達が殺さなきゃいけない相手」
「…………」
話し合いは出来ないのか、という疑問は口に出す前に飲み込んだ。 無理だ、理屈ではない。
対峙したからこそ理解してしまう、言葉を交わせるが相互理解など不可能だと。
あれは例えるなら人の皮に子供じみた身勝手をありったけ詰め込み、自尊心と自己顕示欲で蓋をしたような怪物だ。
「時間がない、今回の撤退は一時的なものだよ。 またすぐに次の手段を講じてくるはず、だからお兄ちゃんも覚悟しておいて」
「ああ、分かってるよ」
「…………ごめんね、本当ならもっと早く私が何とかするべきだったのに」
「気にするなよ、この手段を選んだのは俺だ」
覚悟、その言葉が差す意味は2つある。
一つは全ての元凶であるンロギ・グを殺す覚悟。 この世界に賢者の石と魔力を送り込んだ生みの親だ、倒すにしても一筋縄じゃ行かないだろう。
そしてもう一つ、スノーフレイクの顔が暗い理由のほとんどはこちらにある。
「私達は――――死ななきゃいけない。 この世界に賢者の石も魔力も何一つ残さないために、全ての元凶と最悪でも相打ちで死ぬ」
驚きはない、当然だ。 俺たちはもう人間ではない。
この世界が平和な未来を取り戻すためには、こんな化け物なんて必要ないのだから。




