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修羅・抜刀 ⑦

―――旋風が凪ぐ。

晴れた視界で握られていたのは二振りの刀、片方はいつもと変わらぬ刀だがもう片方は見慣れぬ紅い太刀。

すぐそばに転がっていた、カーブミラーだったものに映る姿は魔法少女ラピリスとしての姿と異なる。


ベースとなる衣装は変わりない、ただ袴や袖などに朱色の差し色が加わり、所々の装飾も変わっている。

一番大きな変化は鬼のような角を拵えた額飾りだろうか、いかにも邪魔苦しく思えるが不思議と異物感は感じない。

寧ろこの角飾りを通して全身に力が漲るような……


『……貴様、なんだその姿は?』


「さて、何でしょうね」


両手の刀を緩く振るう、まるで羽のように軽い。

今までのように重さの変動は行えないのは多少不便だが、それでも“これ”ならお釣りは十分。


全力で地を蹴ると体は矢のように射出され、脚長の魔物へと飛び掛か―――らず真横をすり抜けてその後ろの壁を盛大にぶち抜いた。


『……?、?????』


「……ぜ、前言撤回……とんだじゃじゃ馬ですね……!」


速い、いや速すぎる。 体がまるで追いつかない。

どうする、一度前の姿に戻るか? ……あれ、でもこれってどうやって戻れば


『……貴様、ふざけているのか?』


「くっ――――!」


そうこうしている間にも青筋を浮かべた魔物がその健脚で距離を詰める。

たまらず真横に飛び退く……が、今度は勢いがまるで足りない。 1mにも満たない跳躍は鞭のように振るわれた脚に刈り取られてしまう。


「こんのっ……制御が追いつかない!」


地面を転がって威力を殺し、体勢を立て直す。

自家用車にF1カーのエンジンを組み込んだようなものだ、チグハグなスペック差のせいで思い通りに動けない。

どうする? 一度前の姿に戻るべきか……あれ、でも戻るってどうやって


『どうした、お前の力はそんなものか!』


「ああもううっさいな、ちょっと黙ってなさい!」


焦燥感が口から漏れる、と同時に溢れた魔力が刀から風となって放たれた。

……()()


『見てくれだけのこけおどしなら――――そろそろ死ね』


脚長の魔物が跳ねる、研ぎ澄まされた感覚が目で見ずともそれを教えてくれた。

こちらも同時に合わせて地を蹴る、身の丈を超えた速度で打ち出される身体。

互いの距離が間合いに入った瞬間――――刀から噴き出る風を逆噴射して急停止する。


『なに……!?』


「せぇあ!!」


逆噴射でつんのめった体を捻り、平行に構えた二刀で魔物の腹を切り裂く。

―――浅い、敵も直前に身を引いて刃は致命傷に至らず。 それでも躱したということは当たれば効くということだ。


更に風を噴き上げ、開いた距離を再度詰める。

振り抜いた右刀は魔物が振り上げた脚と衝突し、火花を――――いや、()()()()()



『クッ……おのれぇ!!』


激昂した魔物の姿が掻き消える。

同時に辺りのアスファルトや車の残骸が破裂……いや、跳躍の衝撃で蹴りつぶされていく。

地面を、電柱を、看板を、ビルの壁面を、縦横無尽に駆け回る魔物の影だけが僅かに視認できた。


『どうだ、この速度! 貴様に見切れるものでは……』


「まずは腕1つ」


『…………?』



踏み砕かれた車の上にぼとりと魔物の腕が落ちる。

断面から黒いタール状の液体を零すその腕はまるでトカゲの尻尾のように僅かな痙攣を見せていた。


『う―――グアァァ!? 貴様、いつの間に……!?』


「さて、答えるほど馬鹿ではないです」


切り落とされた腕を見てようやく痛みが追いついたのか、背後で息を粗くした魔物が膝をつく。

不思議だ、見もしないのに魔物の正確な位置が、その呼吸が分かる。

目を瞑り軽く刀を振る、すると魔物の胸の傷に重ねて十字の斬り傷が刻まれた。


『グアアァ!? 馬鹿な、刀を仕舞う素振りはなかったはず……!?』


「生憎それとは別の技でして」


足を止めると不利と見たか、魔物は再度姿を消してビルの合間をピンボールのように跳ね回る。

なので私も地を蹴り、宙を駆ける。


立ち並ぶビルの隙間を飛び回り、二つの影が交錯するたびに火花と風が散る。

速すぎる速度は刀から噴き出す風で制御し、それでようやく魔物の動きと同速程度だ。

……このままでは致命打が与えられない。


激突はやがて魔物はこちらの動きを見切り始め、飛び交う魔物の背を追う追走戦へと変わった。


『どうした! こうしている間にも俺はお前の動きに適応し、進化する!』


「そうですか、私もそろそろ慣れました」


なのでそろそろ決めよう

今まで逆噴射に使っていた風を加速に使い、一気に魔物との距離を詰めた。


『っ――――! それで、追い詰めたつもりか!!』


叫んだ魔物はまるでそこに足場があるかのように、()()()()()反転する。

不意のカウンター、ブレーキは間に合わない。 加速した体は自然と迎撃を構える脚へと突っ込む形になり―――


「――――それを待っていました」


胸元のペンダントに手を伸ばし、十字に展開したそれを元の1つの形へと戻す。

その瞬間、赤と青2つの太刀は巻き上がる旋風に飲まれ、1つの巨大な刀へと変わった。


『なっ……!?』


「オオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


ズシリと両手にのしかかるそれを力任せに振り下ろす。

炎と風、2つの力を巻き上げながら振り下ろされた刀は自慢の脚ごと魔物を真っ二つに引き裂いた。


『馬、鹿……な……!』


再度ペンダントを展開し、巻き起こした風をクッションに着地。

振り返った先では魔物が何事かを呟き、斬り飛ばされた脚もろとも空中で爆散した。


「……二刀は軽いし合体させると重すぎる、要訓練ですねこれは……っと」


爆風に乗って飛んで来た黒い魔石を受け止める。

今までの魔物に比べれば相当大きい、コルトに見せれば目を輝かせて喜びそうだ。


「って、今はそんな事よりブルーム……!」


「……よう、そっちも片付いたのか?」


――――先ほど彼女が蹴り跳ばされて空いた穴の中から、いつもと変わりない声が聞こえた。

ただ、()()。 そこに居るのは見慣れた彼女の姿ではない、夜闇のように黒いそれは……


「ん……? お前ラピリスだよな、何か色々変わった?」


「……貴女こそ、本当にブルームスターですか?」


違う、今までの彼女とは見た目以上に言葉にできない『何か』が違う。

無事なのは喜ばしいが不自然なほどに怪我も出血も無い、その姿は見ているだけで何故だか冷や汗が止まらない。


「酷ぇな、折角戻って来たってのになんつー……そっちの魔物は死んだのか?」


「……え、ええ。 貴女も無事で何よりです、怪我はありませんか?」


「――――近づくな」


彼女の警告に足を止めてしまう。

熱い、肌がヒリつくような熱波が彼女の方から吹き付ける。

私の刀から放たれる熱ではない、これは……


「ブルームスター。 貴女、大丈夫ですか?」


「……ああ、無事だよ。 この通り怪我一つない」


掌を見せてひらひらと振って見せる彼女。

捲れ上がった袖の隙間から除く素肌は、目を背けてしまいたいほどに焼け爛れていた。


「っ……! 嘘をつかないでください!! 貴女、何ですかその火傷は!?」


「良いんだよ、痛くもないし熱くもないんだ」


「良いわけがないでしょう! 早く手当てを、今ドクターたちが駆け付けて来ます!」


しかし彼女はこちらの言葉に耳を貸さず、踵を返して潜って来た穴の向こうへと歩き出した。

追いかけようと駆けだした行く手を黒い炎が壁となって阻む。


「お前の無事が確認できただけで何よりだよ。 じゃあな、ラピリス」


「ブルームスター! 貴女は……貴女は、どこに向かおうとしているんです!!」


ごうごうと燃え盛る炎に阻まれ、私の声は届かない。

やがて炎が消えたその向こうには、既にブルームスターの姿はなかった。

・オーガサークレット

ラピリスの額に装着された角飾り。

超高精度のセンサーとして働き、周囲の状況を瞬時に識別する。

二刀流による高速移動中でも敵を見失わずに正確な位置を割り出すことが可能。

物理的・概念的に感知を行うため、幽霊やガス状生命体等でも確実に発見することができる。

非常に敏感なため角を握ってはいけない。


・グソクブーツ

ラピリスの脚を保護する具足、足袋のようなデザインになっている。

驚異的なグリップ力を誇り、高速移動にも急制動・方向転換が可能。

大斬刀モード時にも重量に負けない踏ん張りを効かせ、刀の威力を何倍にも高める。

更に非科学的なプロセスによって成長途中である足腰への負担を90%以上軽減してくれる。


・コテグローブ

ラピリスの腕部を保護する籠手、見かけは革製に見えるが防護性能は鋼鉄を凌ぐ。

装着者の握力を補助し、僅かな力でもしっかりと刀を握る事が出来る。

外部からの衝撃を分散する構造によって一定以下のダメージならば無効化できる。

更に非科学的なプロセスによって成長途中である腕や肩への負担を90%以上軽減してくれる。


・左太刀(青)

ラピリスの左手に握られた青色の太刀。

込められた魔力を風として放つ。

風は攻撃だけではなく、本来なら制御しきれない二刀流の高速機動を制御することに役立つ。

魔力を込めた斬撃をカマイタチとして飛ばすこともできる。

脚長の腕を斬り飛ばしたのもこのカマイタチ。


・右太刀(赤)

ラピリスの右手に握られた赤色の太刀。

込められた魔力を炎として放つ。

この炎は彼女が『敵』と認めたものにしか効果を及ぼさず、決して無害なものに燃え広がる事はない。

魔力を込めた斬撃を熱波として飛ばすこともできる。



・合太刀・大斬刀

ラピリスがペンダントを変形させることで二振りの刀が合体した姿、もはや斬馬刀。

機動力を失う代わりに重量・威力が大幅に向上した。

風と炎、2つの力を同時に扱う事が出来、風で炎をあおる事で数倍の火力を引き出せる。

この状態の刀を握ったラピリスの物理・魔力的防御力が向上。

更に背後に『守るべきもの』と認識したものが多く存在するほど能力値が上昇する。


ラピリス・二刀一身の型

「守りたい」という一心を胸に覚醒したラピリスの新たな姿。

胸のペンダントを開閉することで二刀流と大太刀モードに切り替えることができる。

二刀流モードは制御が難しいほどの高速軌道が可能となり、目にも止まらぬ速さで敵を追い詰める。

大太刀モードは圧倒的な質量と攻撃力を誇り、どんな敵でも輪切りにしてしまう。

誰かを救うための速さと守るための力を両立するためにこのような形態になったと思われる。

なおペンダントを外せば通常のラピリスにも変身可能、ただし全体的なスペックはこちらが遥かに上であるためあまり利点はないと思われる。

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