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ハイウェイ・デッドヒート ⑥

《タイマー動かしますよ、30秒前には警告します》


「ああ、頼んだ」


全身が黒煙に包まれ、身に纏う衣装が瞬時に黒衣へと変わる。

本当なら灼火体の方が望ましいが、スノーフレイクの言葉を考えるならおいそれと使える切り札ではない。

五感の失調と灼火体は十中八九関係している。 変身のたびに緩和される使用制限も、俺という存在が変質している証明なのだろう。


《で、ラピリスちゃんたちの話では攻撃は通じないという話でしたがいかがします?》


「試すさ、まずは一発ぶん殴って――――なッ!!!」


こちらに向かって驀進するデュラハンの馬脚を目掛け、通り過ぎざまに箒を振り抜く。

しかしウマの脛へびっくりするほどクリーンヒットした箒は、相手へ一切の損傷を与えることなく真っ二つにへし折れた。

デュラハンの様子はというと、痛みに怯んだ様子すらない。 足元の俺へ意識の欠片を向ける事なく、高らかに蹄を鳴らしながら路面を駆け抜けていった。


「クソッ、まるで手ごたえがない。 やせ我慢って訳でもなさそうだな!」


《わったった! ちょっとマスター、踏みつぶされないでくださいよ!?》


「分かって――――ぐえっ!?」


振り向いたところであっという間に彼方の豆粒と化したデュラハンに舌打ちを鳴らした直後、再び俺の真横をすり抜ける何かに襟首を掴まれて引っ張り上げられる。


「ドクター、捕獲しました。 待機命令を破った彼女への処遇ですが如何いたしましょうか」


市中引き回し(もみじおろし)にしよう、魔力まみれの火の粉と蹄に均された路面なら魔法少女にも効くだろう』


「あだだだ擦れる擦れる! 下半身が摩り下ろされる!!」


《ま、マスター! まあ自業自得なので何も擁護できませんけど……》


俺の襟首をひったくったのは、プルバックカーのような外見の車に乗り込んだ魔法少女一堂だった。

そしてボンネットに乗ったラピリスに上半身だけ保持されている俺は、猛烈な速度のまま下半身を路面に引きずられている形になっている。


「大人しく待っていられないのは分かっていましたけどね、罠の可能性が高いと聞いてのこのこやってきますか普通?」


「俺じゃないと倒せないんだろ、なら前線に出ないと勝ち目ないだろ」


「その言葉の真偽すら分からないわけで……はぁ、問答は後にします。 余計な体力使ってしまうので」


ラピリスが頭を抱え、俺を車体屋根に引き上げる。

まるで言う事を聞かない犬を躾けるような扱いだ、動物愛護団体に訴えたほうが良いだろうか。


「師匠、何だか以前より扱われ方が雑になってないっすか……?」


「ライナ、これも一種の信頼ってもんだ。 覚えて帰ると良い」


「後輩に間違った知識を植え込まないでください。 それで、通り過ぎざまに一撃与えていたように見えましたが、手ごたえは?」


ラピリスの問いかけに対し、黙って首を振って応える。

全力で殴り付けてもビクともしない、あの手ごたえはドクターが使っていた無敵に近いものだ。

当初の予測通り、何らかの防御手段があるはずだ。 その種さえ見抜けば倒す手段はきっとある。


「確認だが、ドクターと全く同じシステムってことはあり得るか?」


『ありえなくもないが、可能性は低い。 無敵大戦は過剰な魔力で外部からの攻撃を飽和する力技だ、膨大な魔力タンクでもなければすぐにガス欠する』


「今の所、そのような気配はデュラハンから感じられませんね。 他に理由がありそうです」


膨大な魔力、ドクターはローレルが徴収した魔力を分け与えられることでその問題を解決していた。

数えきれないほどの魔女から集めた魔力の総数は計り知れない、とても魔人1人で賄える量ではないだろう。

ただ、強いて方法を考えるならば……


《……賢者の石、ですかね?》


俺の答えをハクが代弁する、とはいっても2人の会話は周囲には聞こえていないが。

確かに賢者の石なら可能だろう、だがそれならデュラハンが通った後にはもっと膨大な魔力がまき散らされているはずだ。


『検証が足りない。 ブルームスター、君の攻撃は射程が短いうえにその姿は時間制限があるだろう、間違っても時限を超えてラピリスに危害を加えるなよ』


「分かってるよ、それより何で後ろから馬鹿正直に追いかけているんだ? どこかで待ち伏せて足止めした方が確実だろ」


「それが難しいんですよ。 魔人はこの街の道路上を走っていることは分かっているのですが、分岐路の選択などが毎回異なるんです」


「正確なルートが絞れれば自分が待ち構えてズバってドーンと行けるんすけど……」


『その上、魔人がいつ消えるかも分からないんだ。 効率は悪いが追跡した方が確実だよ』


「なるほど……」


魔法少女の数さえ揃えられれば人海戦術で道路も封鎖できるだろうが、人手不足がここで響いたか。

ただ、魔人も何も考えず走り回っている訳じゃあるまい。 理由さえ紐解けば、ルートの予測も可能じゃないだろうか。


『もちろん解析は試みるが、今のところ規則性が……ん?』


「ドクター、何かありましたか?」


『ああ、今シルヴァから通信が入った。 そちらに繋げるぞ』


『……あーあー、聞こえるか皆の者!』


一瞬のノイズの後、ラピリスたちの通信機から聞こえる音声が切り替わる。

入院していると聞いていたが、シルヴァの声は元気そうだ。


「ええ、通信に異常はありません。 シルヴァ、どうしたんですか?」


『うむ、魔人と交戦していると聞いてな。 局長より魔人の走行ルートと地図の照合を行って貰ったのだ。 そちらに盟友はいるだろう?』


《マスター、こらえ性がないことシルヴァちゃんにもバレてますよ》


「エフンゲフンッ……こちらブルームスター、案の定合流してるよ」


『盟友ならそうすると思ったぞ、今端末に画像データを送ろう』


シルヴァの報告から数秒、虚空から呼び出したスマホの画面にはメールに添付された画像が展開されていた。

それは魔人の走行記録を赤線でなぞったものだろう、一見すると規則性は無いように見えるが……


『それでもう一つの画像が……これだ』


続けてシルヴァから送られてきたのは、赤線の上から青くなぞられたもう一つの線だ。

その青線は赤線を全て辿った上で――――1つの巨大な魔法陣を描いているように見える。


「これは……シルヴァ、説明を」


『我もつい先ほど気付いた、既視感があったのだ。 我が描く魔術と同じ既視感が』


《マスター、これ……不味くないですか?》


『魔人が出現と消失を繰り返していた理由もこれで合点がいった、奴は先に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』


ハクが地図上の赤線を消し、残った青い線上をなぞって行く。

それはまさに今、デュラハンが走っているルートをそのまま辿るもので、このまま走り続ければ残る線はすべて一筆で描き切れることを示している。


『これが魔人の目的だ。 奴は自らの身体を使い、この街に巨大な魔法陣を敷こうとしている!』

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