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ハイウェイ・デッドヒート ⑤

「アバババッバッババババアババババ!! 死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬヨこれ!!! 味方に殺されるヨー!!」


『大丈夫だ、事前シミュレートでこの辺りのコースは踏破率95%のスコアを叩き出している。 事故を起こしたというクレームは1件も受けていないので安心してくれ』


「命を預けるのには躊躇する数値だヨ、5%は!!」


「ゴルドロス、喋っていると舌を噛みますよ!」


ドクターが召喚したゴーカートに乗り込んだ途端、始まったのは地獄のカーレースだった。

景色がすっ飛ぶほどのスピード&加速力、限界ギリギリを攻めるクラッシュ寸前のライン取り、減速ほぼなしのコーナリングのたびに掛かる猛烈なG。

世界一の絶叫アトラクションも裸足で逃げ出す恐怖体験がノンストップでお届けされている、車内快適度で言えばドレッドハートのそれよりもひどい。


「サムライガール、私の人生で今ほど神に敬虔な様はないヨ……!」


「よかったですね、八百万の加護がありますよきっと! ドクター、攻撃来ます!」


『分かっているとも、シートベルトはしっかりつけてくれよっ!』


前方を走るデュラハン、その首の断面からぽろぽろと青い火の粉のようなものが零れ落ち、地面に接触した瞬間に巨大な火柱を噴き上げる。

ドクターの操作テクニックがなければ、とっくに火柱に車体がかちあげられていたことだろう。

そうでなくとも体や車体に火の粉が触れれば一発でクラッシュする、この極限のスピードの中で恐ろしい攻撃……いや、本人からすれば“攻撃している”という認識すらないのかもしれない。


「しっかし相変わらずこちらの事は一切気に掛けてないね、ムッカつくヨー!!」


「優先順位があるのかと思われます、私達と戦うよりもおそらくは……」


『――――魔力の散布、これが奴の主目的だろうな』


肌で感じる魔力の気配、それが大気をじわじわと蝕むように広がっている。

原因は間違いない、前方を走るあのデュラハンだ。 やつが周回を重ねる度に魔力のうねりは強まって行く。


「早急な対処は必須、ですがその為に……距離が詰まらない」


デュラハンが駆る馬の速度は相当なものだ、おまけに舞い散る火の粉のせいで直線的に追いかける事も難しい。

なんとかあの巨躯がコーナリングのたびに少しばかり減速してくれるのでなんとかチェイスの形を保っているが、ドクターのワンミスですべてが終わる。


「Hey、ライナ! ここから仕留められるカナ!?」


「無理っす! せめてあと2……いや、1m近ければ何とか届くかと……!」


『1mか、世界レコードを塗り替えるより難しい相談だな』


車体の屋根には常に好機を窺うフラワーガールと、それを補助するサムライガールの2人が張り付いている。

2人の仕事は間合いに目標が収まった瞬間、有無を言わさぬ一閃で魔人を討滅することだ。

ただし、その前にはいくつか下準備が必要になる。


「どうにかデュラハンに追いつき、そして……あいつがこちらの攻撃を受けない秘密を暴く、それが私の仕事だネ」


車体のブレが安定する僅かな瞬間を狙い、何度かデュラハンにちょっかいを掛けているが効果は薄い。

銃弾、爆弾、粘着、網、火炎瓶、液体窒素、多種多様なアプローチも暖簾に腕押しの手ごたえだ。

いつぞやのドクターよろしく、まるで無敵だ。


『……ゴルドロス、隙あらば引き続き攻撃を頼む。 出費は押さえてくれて構わない』


「OK、何か分かったのカナ?」


『おそらくは、ね。 どうもボクの無敵とも仕組みが違うように思える、無効化にも何らかの条件があるはずだ』


「条件ネー……分かったヨ、解析は任せた」


構えていたRPGをテディの腹へ仕舞い、代わりに弾薬の安いハンドガンを何丁か取り出す。

餅は餅屋だ、私はとにかく試行回数を増やせばいい。 小難しいことはすべて何とかしてくれる仲間がいる。


「……ブルームもいればもっと楽だったと思うんだけどネ」


「ないものねだりをしても仕方ありませんよ、ゴルドロス。 彼女は予備戦力、その決定に変わりはありません」


「あいあい、分かってるヨ……ン?」


チェイスが始まって10分は過ぎただろうか、このレーシングカーの視界にも目が慣れて来た。

目が慣れて来た……から見えてしまったのだ。 デュラハンの走るその先に待つ人影が。


―――真っ白なマフラーをたなびかせ、身の丈に余る箒を構えるその魔法少女の姿を。

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