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ハイウェイ・デッドヒート ②

《マスター、マースーター? 生きてますかー?》


「う、ぐぅ……朝か……支度……」


《職業病ですねこれは、昨日のこと覚えてます?》


朝餉の準備を進めるため、気だるい体を起こす。

だが寝ぼけ眼を擦ってみれば、そこは見慣れた店の一室ではなく、寝具が散らかった薄暗い部屋だ。

そうだ、思い出してきた。 昨日は確かラピリスたちと魔法局に……


《いやあ昨夜はお楽しみでしたね、コルトちゃん達とあれだけ激しく……》


「深夜テンションの枕投げに巻き込まれただけだろ、こんな散らかしてあとで怒られるな」


冷たくなった体を温めるためという名目でコルトが口火を切った枕投げ大会。

最終的に修羅と化したアオの手により全員打倒された記憶がある。

そうか、この全身を包む気だるさは睡眠ではなく気絶によって朝を迎えたせいか。


《それとマスター、例の魔人ですが動きがありました》


「ん、なにがあった?」


未だ混沌している面子を踏まないように脇をすり抜け、一人休憩室から脱出する。

虚空から呼び出したスマホの中、ハクが動画サイトから引っ張り出してきたのは今朝のニュース番組だ。


『えー、ご覧ください。 昨晩魔人の目撃情報があった現場ですが、横転した車の残骸や大きな蹄の痕跡が残され……』


「…………こりゃ酷い」


ニュースキャスターが懸命に喋るその背景では、いくつもの車たバイクが成れ果てた姿でひっくり返っている。

横転、両断、炎上、圧壊、被害状況は多種多様だが、どれもスクラップ行きは免れない有様だ。


《重軽傷者多数、高速道路を走り回る魔人に()()()()とのことです。 まあ被害を受けたのは暴走族まがいの真似をしていた方々だったようですが》


「だからって魔人が良い奴だって話にはならねえよ、死者は?」


《報道されているかぎりではゼロです、いかがしますか?》


死者0、現場の惨状を見れば奇跡的な数字だ。

だが魔人が闊歩する限り、奇跡が続く可能性もまた0に等しい。

現状、ネロへと繋がる唯一の手掛かりでもある。 倒すにしても早いほうが良い。


『では次のニュースです。 魔法少女の民営化に関する大手二社の争いですが、自社株を賭けた魔法少女五番勝負が行われると発表があり……』


「おや、ブルームクンか。 まだ寝ていなくて平気かね?」


思案の片手間、続くネットニュースをぼうっと眺めているとふいに声が掛かる。

廊下の向こうから歩いて来たのは、段ボール一杯の資料を抱えた局長さんだ。


「あー、おはようございます。 なんか目が冴えちゃって……それよりもこれ」


「ああ、知っているとも。 朝食のあとに会議を開く予定だよ」


「いや、そんな悠長な―――」


「君達のコンディション管理は局長である私の仕事だよ。 十分な休息をとり、万全な状態で挑まねばならん相手ではないかね」


……一理ある、俺も同じ立場ならアオたちに十分な休眠をとらせるはずだ。

唯一の対応手段である魔法少女が返り討ちに会えば元も子もない、例え被害が増えてでも斬り捨てなければならないラインがある。

この局長は誰よりも冷静に、そして残酷にそのラインを見極めなければならない立場だ。


「うむ、分かっていただけたようで何より。 ではその殺気を納めて顔でも洗ってきなさい」


「……俺、そんな殺気立ってました?」


「そうだよチミィ……見たまえ、この生まれたての小鹿と化した我が両足を」


「それ、胸張って言うことでもないと思うけどな……」



――――――――…………

――――……

――…



「おはよう諸君、朝だ……局長が無残な死体で発見されたわけだが役職のCOはあるか……」


「古村さん、今はボードゲームの最中ではないです。 朝弱いのは知っていますが頑張ってください」


「お腹空いたヨー……よく考えたら昨日の夜から何も食べてないんだヨー……」


「今局長さんがトースト焼いてくれているから少し待て、会議するぞ会議!」


昨晩と同じ会議室、変わらず地図が広げられたテーブルの周りに集まったのは低血圧の問題児たちを含めた魔法少女4人。

シルヴァが復帰するまでこの4人が最大戦力となる、色々と不安があるか配られた手札で勝負するほかない。


「えー、古村さんのエンジンがかかるまで進行を代理します。 まず昨夜から明朝に掛けて目撃された魔人の出没地点がこれです」


「……すべて道路沿いだな」


「ええ、そして目撃時刻順に点で結ぶと……円状にぐるぐると回っていることが分かります」


アオが手元の電子端末に目を通し、赤ペンでマーキングした地点は、全部この街に張り巡らされた高速路上に位置している。

偶然ではないだろう、魔人は何の目的があるのか道路上で出没と消失を繰り返している。


「目撃された時間に規則性は?」


「その可能性は低いですよ、箒。 最短で20秒、最長で1時間強です」


「かなり幅が広いな、なら被害者は?」


「こちらもそこまで共通点はないですね、しいて言えば暴走族まがいのような素行の悪い方々が巻き込まれ……」


「……待て、葵。 ボクの端末に被害者の情報を移してくれ」


何かに気付いたのか、机に突っ伏したままのドクターが自らのゲーム機()を掲げる。

そして言われた通りにアオが情報を転送すると、ドクターは表示された情報に目を通す。


「この男、直前まで大幅なスピード違反を犯しているな。 こちらの女性は恐怖でアクセルを踏み込んだ、暴走族共は無謀に魔人と並走するつもりだったらしい」


「……それはつまり、全員かなりの速度を出していたと?」


「間違いないだろう、監視カメラの映像も再度洗おう。 もしかしたらこの魔人は――――」


「「――――()()()()()()()()()()()()()()」」


……ついドクターの台詞と被った途端、本人から凄まじい形相で睨まれてしまった。

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